神さまを待っている
「神さまを待っている」のおすすめレビュー
真面目に働いていたのにホームレスになった――「貧困女子」の裏に隠されている問題
『神さまを待っている』(畑野智美/文藝春秋)
ここ数年、「貧困女子」のニュースを目にすることが増えた。彼女たちの中には、大学に進学し、勉強や就活に励んでいたにもかかわらず、またたく間に貧困に陥る人もいる。一体、その背景にはどんな事情があるのだろうか。
畑野智美の『神さまを待っている』(文藝春秋)は、文房具メーカーで派遣社員として勤務していたものの、ホームレスになった26歳の女性・水越愛の物語だ。彼女は家族に頼ることができない状況の中で、正社員を目指し、自立することを望んで生きてきた。
だが、「正社員にすることを検討する」と約束された派遣先では、業績悪化を理由に契約を切られる。失業保険を受給しながら就職活動を開始するが、どこにも採用されない。おまけに、アパートの更新料や家賃、住民税を支払うと、貯金がなくなってしまう。
「飢死」が現実として迫る中、家賃よりも、食費を選ぶべきという結論に達した彼女は、大晦日、ホームレスになってしまうのだ――。
愛は、日雇いバイトの派遣会社に登録し、漫画喫茶に寝泊りする日々を送る。
工場や倉庫に派遣される厳しい環境の中で…
2018/11/18
全文を読むおすすめレビューをもっと見る
神さまを待っている / 感想・レビュー
風眠
貧困女子に焦点を当てた「物語」ではあるが、ホームレスとなり漫画喫茶を転々としたり、いわゆる神待ちをして寝場所を確保したり、生きるためにワリキリ=売春をするしかない、という状況に追い詰められるまでの女子の「現実」が描かれている。小説なので、そこに救いの手があり、貧困から抜け出すところまで描かれているけれど、現実はもっと過酷だろう。真面目だから人に頼れない、虐待から逃げ出したから、未成年だから・・・本当に困っている人にサッとお金を出さないシステムの不条理さに怒りを感じる。税金は何の手続きもなく引き落とすのに。
2019/01/01
ウッディ
派遣契約が更新されず、次の仕事が見つからないまま家賃を払えず、ネットカフェ難民になった26歳の“愛”。転落する人生に手を差し延べてくれる神はいるのか?桐野さんの「路上のX」と似ていたが、それよりはましな状況。ホームレスになる前にもう少しできることがあったのではと思わせる主人公の見通しの甘さとかたくなさが歯がゆい。学歴も頼れる人もなく、もっと過酷な状況で、社会にしがみついている人もいる中で、そんな人達とは違うという彼女のプライドが少し鼻につき、神さまに救われる彼女の幸せを単純に祝福できない自分がいました。
2019/02/12
ケンイチミズバ
人件費削減のため非正規雇用が企業には不可欠です。非情な言い方ですが経営者はみなそう考えます。正社員に対しても人員要求などしようものならお前たちの賃金を維持するために派遣や業務委託を増やした。どうしても正社員というならお前たちの賃金をカットするしかないと言う。莫大な利益は内部留保に組み込まれトリクルダウンなどほとんど起こらない。一方で資産運用のためにトヨタ自動車の元本保証AAA株をポンと10億円分買ったりする。そんなキャッシュを出せるのに派遣社員が正社員になったとは聞いたことがない。神様は待ってても来ない。
2018/11/05
ネギっ子gen
【お金がない……】主人公は「誰にも甘えず生活できるようにならなければ、自立にならない」と考え頑張るが、自らの不器用さが災いして漫喫で寝泊まりして「出会い喫茶」で金を稼ぐことに――。性虐待など含んだ“”貧困”がテーマの暗い小説ながら、題名に連動するかのようなラストの2行で、気持ちよく読み終えられました。巻末に貧困に関する参考文献が掲載される。どれも良書だが、(本来読んでほしい)JKなどは読まないでしょうね。でも彼女たちも、このような小説という形ならば読んでくれる(表紙がいい。若い子に受けそうだ)かなぁ……
2020/01/04
utinopoti27
親や友人に頼れず、定職にもつけず、出会い喫茶の茶飯収入で糊口をしのぐネカフェ難民・水越愛26歳。大学まで出た彼女はなぜホームレスになったのか。愛は社会の底辺に堕ちた自分を卑下する一方で、同じ貧困女子たちを、どこかで見下げているところもある。そして起こる、ある決定的な事件。かすかな希望が絶望に変わる瞬間を経験した愛は、本当の貧困の意味を悟るのだ。彼女にとっての神さまは誰か・・。愛が招いた境遇を、自己責任と片付けるのは容易いが、その奥に潜む根源的な問題の理解に至らずして、本作を読み解くことはできないだろう。
2019/12/23
感想・レビューをもっと見る