センセイの鞄 (文春文庫)
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「センセイの鞄 (文春文庫)」のおすすめレビュー
「もう恋なんて」と感じている人にこそ読んでほしい大人の恋愛小説。川上弘美が“国語教師との再会”を描く
『センセイの鞄』(川上弘美/文藝春秋)
恋は苛烈なものだと、突然火がついて身を焼き尽くすものだと、幼い頃はそう思い込んでいた気がする。だが、恋には人それぞれの形がある。じっくりじんわりコツコツと。大人にはそうやって徐々に温まっていくお付き合いだってあるのだ。
段々と春めいていくこれからの季節は、恋の季節だなんて言われるが、歳を重ねるたびに「もう恋なんて」と感じている人は少なくはないだろう。だけれども、そんな人にこそ、読んでみてほしい本がある。それは『センセイの鞄』(川上弘美/文藝春秋)。少しずつ暖かくなっていく今の季節にこそ読みたい、大人たちの恋の物語だ。
主人公は37歳の大町ツキコ。彼女は行きつけの居酒屋のカウンターで、高校時代の国語の先生・松本春綱先生と再会した。以来、ふたりは憎まれ口をたたき合いながら、ともに酒を嗜み、肴をつつき、語らい合うようになる。特に約束するわけでもなく居酒屋で会い、勘定だって別。そんな彼らは次第に出かけるようになり、露店巡りやキノコ狩り、花見、そして、島旅へ。いつの間にか、ツキコとセンセイは、ふたりで過ごすことが当…
2023/3/29
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センセイの鞄 (文春文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
この小説には2つの大きな特色がある。まずは、ヒロインが38歳であり、70歳(推定)の男性との恋の物語であること。全体としては長編小説なのだが、その構成はいくつもの掌編を積み重ねるという手法をとっていること。なんだか、せつない物語なのだが、センセイ(私の恋の相手)は、既に老人でもあり、もちろん美貌でもなく、気の利いた会話ができる訳でもないし、さほどお金もない。つまり、これでも女性から惚れられるのだ。逆に言えば、条件なんてどうでもいいのだ。こんなところが、世の中高年男性の圧倒的支持を受けたのだろう。
2012/06/01
さてさて
『歳は三十と少し離れている』元教師と生徒が偶然の再開を機にお互いを意識し、お互いの存在を感じ、そしてお互いを愛しみあっていく様を描いたこの作品。何気ない日常の描写の連続に気持ちが入っていかない思いで始まった読書が、いつしかその世界観にすっかり夢中になっていたこの作品。気がついたらため息が漏れそうな余韻の中に結末を見る、全編に登場する印象的なそれでいて存在を主張しない「センセイの鞄」の絶妙な位置付けが作品を静かに彩るこの作品。独特な雰囲気感の中で静けさの中に灯る一本の蝋燭の炎を見るような、そんな作品でした。
2021/11/27
青乃108号
これは良かった。センセイと月子さんの物語。センセイにしても月子さんにしても、その人物像は深くは描かれておらず、読み手の想像が拡がるところが何とも言えず良い。1文1文がいちいち味わい深く、疲れた心に染み渡る。いつまでも読んでいたかった。そして何度も読み返したい、一生物の本。この本は正しい。
2022/06/23
抹茶モナカ
学生時代の恩師センセイと再会したアラフォー女性が、飲み屋でゆるゆるとセンセイと酒を酌み交わしているうちに、センセイと恋に落ちて行く物語。静かな小説で、庄野潤三とか、初期の保坂和志とか、その辺の日常を描いた感じの小説と似ている。センセイとツキコさんが恋愛する必要があったのか、二人で酒を酌み交わしているだけのシーンの連続だけれでも気持ち良かったので思った。恋愛要素に白ける瞬間もあったけれど、読み終えてみて、「まあ、これはこれで良かったのかな。」と思った。
2016/07/26
小梅
初読み作家さん。ツキコさんのもどかしい恋心に悶々しながら読み、終盤で泣けた!
2019/04/11
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