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破局

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作家
遠野遥
出版社
河出書房新社
発売日
2020-07-04
ISBN
9784309029054
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「破局」のおすすめレビュー

現代の「奇書」? 正しさを追い求める男子大学生の歪なキャンパスライフ【芥川賞受賞】

『破局』(遠野遥/河出書房新社)

 正しいとか、恵まれているということが、必ずしも人を救うとは限らない。そういう整えられた日常がどうしようもない虚しさを感じさせることだってある。

 第163回芥川賞を受賞した『破局』(河出書房新社)は、そんな現代の虚無を描き出した作品だ。作者の遠野遥氏は、慶應義塾大学法学部出身の28歳。この物語の舞台も慶應義塾大学なのだろう。2人の女性の間で揺れ動く大学生を描き出したこの作品では、日吉キャンパスや日吉駅周辺の様子が描写され、卒業生としては懐かしさを覚える。だが、青春を描いているはずなのに、そこに甘酸っぱさはない。満たされているはずのキャンパスライフは、どこかいびつ。ホラー小説のような、おどろおどろしさのある物語なのだ。

 主人公は大学4年生の陽介。元ラガーマンの彼は、母校の高校ラグビー部でコーチをしながら、公務員試験受験に向け、勉強に励んでいる。日課は、筋トレと、自慰行為。政治家を目指す恋人・麻衣子とは、うまくいっていないらしい。ある日、友人のお笑いライブを観にいった陽介は、新入生の灯と知り合う。灯のことが気になりはじ…

2020/8/8

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【全作品紹介】太宰治の孫・石原燃のデビュー作も候補に! 第163回芥川賞・直木賞ノミネート

 日本文学振興会が主催する「第163回芥川賞・直木賞」のノミネート作品が、2020年6月16日(火)に発表された。この記事ではそれぞれの候補作について、読者からの反響を交えながらご紹介。「どんな作品があるのか気になる!」という人は、ぜひ参考にしてみてほしい。《紹介順はそれぞれ著者名五十音順》

芥川賞候補(1) 石原燃『赤い砂を蹴る』(『文學界』6月号)

『赤い砂を蹴る』(石原燃/文藝春秋)  今回の候補作のうち、最も話題を呼んでいる作品のひとつ。作者は純文学作家・津島佑子の娘であり、太宰治の孫である石原燃。デビュー作となる『赤い砂を蹴る』では、ブラジルを舞台として母娘の“たましいの邂逅”を描いている。

 読者の共感を誘うストーリーテリングが評判を呼んでいるようで、ネット上では「読み始めたら止まらなかった。一人の娘である自分と重ねて読んだ。だからこそ、ブラジルの大地が人生を肯定してくれるようで救われた」「素晴らしく読みごたえのある小説。子育てに纏わる諸課題に、女性が否応なしに直面させられるロールモデル。最後に描かれる、母と娘による魂の邂逅が愛おしい」とい…

2020/6/18

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芥川賞受賞第1作は学園ハレンチ×超能力×ディストピア!? 遠野遥×松井玲奈 同い歳小説家の対談が実現!

共に1991年生まれ。注目の同い歳小説家の遠野遥さん(左)と松井玲奈さん(右)

 当時28歳にして『破局』で芥川賞を受賞した遠野遥さん。俳優として活躍、小説家としても注目を集める松井玲奈さん。「文藝」掲載時から反響続々の遠野さん3作目刊行記念として1991年生まれ、同い歳小説家の対談が実現!

遠野 松井さんは同い歳だと聞いていたので、小説も書かれていると知ったときから、いつかお話ししてみたいと思っていました。

松井 ありがとうございます。私も、同じ時代を生きてきたはずなのにどうしてこんなにも生み出されるものが違うんだろうと、『破局』を読んだときからずっと興味を惹かれていたので、こういう機会をいただけて嬉しいです。遠野さんの文章って、淡々と削ぎ落とされている感じがするんですよね。読み手に与えられる情報が限りなく凝縮されているというか……今回の『教育』はその濃度がさらに高くなっていて、読んだあとしばらくは引きずってしまいました。

遠野 嬉しいです。松井さんの『累々』は連作短編集ですけど、読み進めていくとすべて同じ人のことが語られているのがわかってきて、状…

2022/2/5

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第163回芥川賞は高山羽根子『首里の馬』と遠野遥『破局』に、直木賞は馳星周『少年と犬』に決定!

 第163回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)が発表された。選考会は7月15日(水)、東京・築地の新喜楽で開かれ、「芥川龍之介賞」は高山羽根子の『首里の馬』と遠野遥の『破局』に、「直木三十五賞」は馳星周の『少年と犬』に決定した。

【第163回芥川賞受賞作品】

『首里の馬』(高山羽根子/新潮社)

【あらすじ】 この島のできる限りの情報が、いつか全世界の真実と接続するように。沖縄の古びた郷土資料館に眠る数多の記録。中学生の頃から資料の整理を手伝っている未名子は、世界の果ての遠く隔たった場所にいるひとたちにオンライン通話でクイズを出題するオペレーターの仕事をしていた。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷いこんできて……。 世界が変貌し続ける今、しずかな祈りが切実に胸にせまる感動作。

【プロフィール】 高山羽根子(たかやま はねこ)●1975年生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科卒。2010年「うどん キツネつきの」が第1回創元SF短編賞の佳作に選出される。同年、同作を収録したアンソロジー『原色の想像力』(創元SF文庫)でデビュー。16年「太陽の側の島」で第2回…

2020/7/15

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破局 / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

主人公の陽介は孤独なラガーマン。小説は一貫して、彼の一人称視点から眺められ、思惟され、語られる。ラグビーは本来はチーム・プレイだが、彼にあっては自分自身の身体と精神力の鍛錬にもっぱら関心が払われている。したがって、ゲームの描写もまた、対峙するのは自分と相手である。母校(高校)のコーチとしてもチームプレイよりも、まずは自己鍛錬に主眼が置かれていた。すなわち、彼の中にあってはすべてがいわば自己完結する世界であり、対象となる人間(膝や佐々木、あるいは麻衣子や灯)、そして世界もまたそれぞれで完結しているべき⇒

2020/08/25

starbro

第163回芥川龍之介賞受賞作・候補作第一弾(1/5)、遠野 遙、文藝賞受賞作『改良』に続いて2作目です。本作は、性欲の果て青春恋愛譚の秀作でした。慶応大学法学部で元高校ラグビー部、将来公務員、精力強ならモテるでしょうね(笑) http://web.kawade.co.jp/bungei/3688/ 【読メエロ部】

2020/07/21

鉄之助

主人公は、筋肉バカか?! と途中何度も思った。賢そうだけど何か、ズレてる。肉体礼賛のため、ひたすら肉を食い、セックスにいそしむ。「裸で腕立て伏せをすると、性器が都度(つど)床に触れて面白い。でも、衛生面を考えれば下着を穿いた方がいい。」 笑っちゃった。しかし、順風満帆と思えた彼の人生は急転直下、「破局」する。堅牢そうに見えた人生も、すぐそこには危うさが潜んでいる。「ゾンビ」や「臭さ」…いろんなキーワードが隠喩になっていそうで、文体の軽さや読みやすさの割には、一筋縄ではいかない作家のような気がした。

2020/11/25

抹茶モナカ

硬質な文体で、女性との出会いから、破局までを描く小説。微妙に伏線が張られていて、最後に警官に取り囲まれるラストが引き立つ。芥川賞受賞作なので、とりあえず読んだ。恋人の灯とはセックスばかりしていた印象だが、あんなに長い時間セックスするものなのか、よくわからない。単行本では活字が大きく読みやすい。親友の仇名が膝で、お笑い芸人になろうとしているのが、微妙なスパイスになっている。好きな種類の作品。

2020/08/25

ショースケ

感想を書くのが難しい。読みやすいんだけど、伝わってこない。途中笑ってしまう部分もあったが、主人公陽介の意図がわからない。論理的なのだけれども、結局女に踊らされているのか… 最後は自分で道を踏み外した、それが破局なのか。

2021/02/08

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