灰の劇場
「灰の劇場」のおすすめレビュー
女性ふたりの心中事件をきっかけに、小説家が紡いだ物語とは。恩田陸、新境地となる衝撃作!
『灰の劇場』(恩田陸/河出書房新社)
ミステリーからファンタジーまで、デビュー当時からジャンルの枠にとらわれず多種多様な作品を送り出し、2017年には『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)で直木賞と本屋大賞をW受賞。長きにわたり、人気実力共に第一線で活躍し続けてきた恩田陸。最新作である『灰の劇場』(恩田陸/河出書房新社)で挑戦するのは、20年も前に見つけた小さな新聞記事から、見ず知らずの女性2人の人生を小説として構築していくことだ。
本作の語り手は、小説家である〈私〉(作中の経歴や年齢から、著者の恩田陸を思わせる)。〈私〉は、1994年4月、ふと目にした新聞の小さな記事に心奪われる。その記事とは、40代半ばの女性2人が、奥多摩の山にかかる橋から一緒に飛び降りて自殺したというもの。初めて目にした時からずっと心の中に〈棘〉として刺さっていた記事。そして〈私〉は、約20年の時を経て、記事の中の2人の女性の人生を物語として紡いでいくこととなる。
顔も名前も分からない2人の女性。記事に載っている情報といえば、2人の年齢、そして大学時代の友人同士だったこと、亡くなった当…
2021/3/30
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灰の劇場 / 感想・レビュー
starbro
四月の第一作は、恩田 陸の最新作です。恩田 陸は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。本書は、私小説的な二進法幻想小説でした。続いて、『白の劇場』へ。 https://book.asahi.com/article/14218934
2021/04/01
旅するランナー
大学時代の友人同士で一緒に住んでいた女性二人が橋の上から飛び降り自殺した記事が、刺さった棘のように作家の心に引っ掛かる。小説化・舞台化されていく中で、現実と架空が混ざり合う。リアルな幻想、現実感のある妄想、地に足ついた空想が沸き上がる。村上春樹を思わせる、近くに潜む穴、顔のない人々、虚構の世界に生きている実感など、生と死への不安や恐怖を掻き立てられる。そして、貴方は不思議な読後感を反芻することになるだろう。
2021/04/29
ウッディ
心に棘のように残っている新聞記事、二人の中年女性の心中を小説化した作家、そして自分の作品の演劇化される過程を見守る中で二人の背景や心の中を俯瞰する彼女。MとTという記号で表される登場人物、0と1だけを繰り返す章番号、実験的な小説であることはわかったが、心に響いてくるものがなく、誰にも感情移入できなかった。心中した二人が自分たちのことを小説にして欲しいかどうか、主人公の気持ちを思いやっての構成かもしれないが、読者の気持ちを置いてきぼりにした作品のような気がしてしまった。
2021/09/12
うっちー
直木賞、本屋大賞を受賞し、いよいよ恩田さんの境地に入っていく作品です
2021/03/05
いつでも母さん
これは何という括りの小説なのだろう。括りなんて関係ないのだな、きっと。このタイトルとカバーから連なる町の景色はそこはかとなく私を不安にさせる。この住宅の一つ一つに物語はあって、つまり事件もあってそれは私が『知った』ような気がしてる事が多いのだ。そんな感じを恩田さんは本作に練り込んでいて、自分の感情と並行して実在の人物を充てて描いているのが巧い。見ているようで見ていない、知らないようで実は経験してたりする。人の記憶の不確かさと脆い感情がどうにも怖い。『無い』ことがスイッチを押した?この二人は先の私なのかも…
2021/03/09
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