無意味の祝祭
無意味の祝祭 / 感想・レビュー
やいっち
シニカルなクンデラらしい作品。というか、1929年生まれのクンデラは、もう90歳を超えている。創作したのは数年前だから90歳前か。社会や政治どころか、文学に対してもシニカルになっているかと感じた。文学を達観しているわけじゃなかろうが、あの世に片足を突っ込んだ者は、どんな生々しいはずの事象に面しても、意味ある世の祝祭ではなく、この世に異邦人となってしまった、せいぜい諧謔に近い祝祭と捉えるしかなくなったということか。
2020/05/28
キムチ27
薄い一冊なのに、「教養の海漂う至上の愉悦」を満喫させてくれたような良い読書時間だった。成熟したEU圏内の人間の香り・・なんてそんな肌触り。クンデラといえば「存在の・・」を映画と活字で触れ、軽いインパクトに打ちのめされた記憶がある。軽いからこそ、その存在は「耐えられない」といった独特にシニカルな視線。その流れに位置しているような手触りがこの作品。祝祭=賑やか、存在価値の重みと提示するのではなく、「無意味」とあえて銘することに依って自分の含めた小宇宙を祝福するする感慨にふける「思惟」・・凝縮された思惟!
2015/12/27
めしいらず
タイトルと装丁が気に入って手に取った本。あの「存在の耐えられない軽さ」の著者とのこと。私たちは自分の意志で生を受けたのではない。親や祖国、性別も選べない。大事なものは何一つ自分で選んでいないという、その平凡で肝心な真理を忘れ、ついつい人生に意味を問い、様々な苦悩を背負い込んでいる。生きること、そこに存在することは、本質的には無意味。それなのに、意味を求めて楽しく生きる術を見失っている。胎内から生まれ出ると意味を失うヘソと同じ。もう生まれてしまった私たちは、もっと享楽的に生きていいんだ。
2015/05/05
Nobuko Hashimoto
良く言えば削ぎ落とされ洗練された、しかし、チェコ時代の作品に惹かれる読者としては物足りない作品。クンデラといえば、歴史や国家や社会と個人の人生の関わり方を考え抜いた哲学的考察、登場人物の内面をこれでもかというくらい分析するところ、実験的な入り組んだ構成へのこだわりが面白かったが、この作品では、そういう深さや悩み、実験的な性格は薄れている。この作品は、壮年期の迷いや悩み、苦しみから脱した老年期のクンデラが投影されていると思う。もはや生々しい葛藤の渦中ではない人の書く小粋さを楽しむ小品と感じた。
2017/04/01
かもめ通信
全編を貫くストーリーらしいものはなく、それとはっきり解る形で社会問題を扱うわけでも登場人物たちの苦痛や苦悩を描くというわけでもない。皮肉たっぷりに語られる一つ一つの出来事は、あれこれ考えるのが馬鹿馬鹿しいぐらいなのだが、それでもそれら一つ一つに思わずフッと笑ってしまうなにかが仕込まれている。とはいえフランスで数十万部突破、30カ国で翻訳されたベストセラーというこの本、読み終えた後もこの本にこめられたものを充分味わい尽くしたという気がしなかった。 “無意味を愛する”には、私、まだまだ修行が足りなさそう。
2015/06/28
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