この国の戦争 : 太平洋戦争をどう読むか (河出新書)
この国の戦争 : 太平洋戦争をどう読むか (河出新書) / 感想・レビュー
パトラッシュ
ほとんどの国で国民は自国の歴史を「偉大な祖国が英雄的な戦いの末に栄光を獲得する」物語として受け取る。そこに生きる自分たちは優れた民族であり、他国より上なのだとの感覚が自然に身につく。その明確な表れが戦争での勝利であり、帝国主義時代では領土獲得と強大国建設に直結した。遅れて列強入りした日本も同じ道を進み、政府も愛国心を高めるのに不都合はなかった。しかし物語を信じた国民が自国こそ世界一と錯覚し、戦争を望む軍部が後押して制御が効かなくなるプロセスが、真実を調べる学者と物語を創る作家の対談から浮かび上がってくる。
2022/08/20
へくとぱすかる
軍部が国民に対して戦争熱をあおりながら、いざとなると開戦への圧力を制御できなかった。そして日本型の無責任体制が、敗色が明らかとなった時点でも、戦争の継続をストップしなかった。その根底には、国民に対して情報を隠し、正確な判断をさせなかったこと、さらには国家と国民が直結していて、その間に「社会」が育っていなかったことが大きな要因。現在はといえば、個人が孤立して結びつきが希薄になっていることは、危険な状況であろう。考えずに雰囲気でものごとを決める風潮も、日本の本質が当時と変わっていないことを表すようで恐ろしい。
2022/08/06
樋口佳之
中間層とそれに連なるふつうの人々の心を摑んで離さない、単一の声からなる「流布する物語」をいかにすれば批判しうるのか。この問いは奥泉と筆者の二人が常に念頭に置いていたこと/初学者には大変な部分あると思いますが、実りある対談だと読みました。奥泉氏のはじめにだけでも価値ある読書となるのではないかな
2022/08/05
おたま
作家・奥泉光と歴史学者・加藤陽子が太平洋戦争をどう捉えるのかを巡って交わした対談を本にしたもの(この二人の対談というだけでワクワクしてしまう)。ある時代にあって、その時にドミナントな「物語」が作り出され、それを私たちは信じて物事を決定したり、進めたりしてしまう。この本では特に「中国との戦争はなぜ起こらざるをえなかったのか」「米英との戦争になぜ突入していったのか」「敗戦が明らかになった段階で、なぜ戦争をやめることができなかったか」に焦点を当てて、その時に人々が共有していた「物語」を明らかにしていく。
2022/07/26
ロビン
「歴史は『物語』の形でしか語られ得ず、またそうならなければ人を動かす力を持ち得ない。・・批評さるべきものとは、固着し硬化した『物語』である」と語る作家・奥泉が、歴史学者の加藤と共に太平洋戦争という『物語』を検証した一冊。戦後にGHQが流布させた「諸悪の根源は陸軍で、国民や天皇はイノセント」という歴史などこれまで語られてきたほど戦争は単純ではなかったということや、特に文学を通して戦争を見る第3章では、物事を単一のイメージや物語の中で捉え考えたがる傾向への自戒が学べ、難しくはあったがとても意義深い読書だった。
2022/08/29
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- 出版社
- 光村図書出版
- 発売日
- 2023-06-26
- ISBN
- 9784813804383