朱日記
朱日記 / 感想・レビュー
KAZOO
泉鏡花のこの作品は読んでいなかったようです。どちらかというと、この本の絵の作家の中川学さん目当てで読んだという事です。ただ絵ばかりではなく鏡花のこの作品も結構幻想的な感じがして私には楽しめました。ただやはり中川さんの赤を基調としたこの一見童話的な絵ではあるものの何かおどろおどろしい感じが印象に残ります。今後何度か再読しそうです。
2024/01/03
青蓮
殿方の生命は知らず、女の操というものは、人にも家にもかえられぬーー想いが紅蓮の炎となって城下の家々を呑み込み、焼き尽くしていく。嬢ちゃん坊ちゃんと呼ばれる美少年、謎めいた美しい女性、異界の人ならざるもの。鏡花が紡ぎ出す世界は何処まで妖しく、美しく、現実でありながらいつの間にか現実を離れて幻想郷へと迷い込んでしまう。夢と現の境界が溶け合った世界は鏡花ならでは。中川学が描く「朱日記」の世界はモノクロームを基調にしていてシンボルカラーの朱色を酷く際立たせている。終盤の朱色だけの世界は圧巻。鏡花の他の絵本も欲しい
2018/12/14
たーぼー
以前、文字のみで追った本作のイメージは作品を通して赤(朱)に彩られているな、という漫然としたものだった。今回、中川学の画力によって、それはより、濃厚に、衝動的に塗り替えられることとなった。さらに、美婦人が9歳の美少年、宮浜浪吉を抱き寄せグミの実を与える場面は、児童性愛、つまりペドファイルをも匂わせ、その姿すら淫靡で美しい。あらゆるものを焼き尽くす紅蓮の炎。降り落ちる火の粉が浪吉少年の手に赤いグミの実となって受け止められたとき、悲劇の中で起こる幻影とは鏡花にとって文学的成功の一つであると思い知らされるのだ。
2018/09/15
yn1951jp
紅を溶いて玉にしたような茱萸(ぐみ)、朱で書き綴った日記、総身の毛が真赤な猿の群れ、赤合羽に真赤な旗をなびかせる坊主。鏡花の色彩世界、炎の恐ろしさと美しさを、中川が圧倒的な「朱」のイメージで描きだす。「殿方の生命は知らず、女の操というものは、人にも家にもかえられぬ」という美しい姐さん。戦争に突き進む男性原理社会への批判ではないかと中川は問う。近代的な理念の世界と土着的な情念の世界の相剋でもある。
2015/05/23
まさむ♪ね
朱、赤、紅。朱文字の日記、茱萸の実の朱、天道虫の赤、美しい姐さんの紅、血の赤、赤い法衣の男と赤い猿、猿猿猿。風が吹く、強い強い風が、すべてを朱に染めてゆく。血が美しく舞う、熱い火の粉の舞うように、儚く粉雪の消えゆくように、寿命がきたのだ。寿命はすべてを呑み込み灰と化す。そして土へと還るのみ。
2015/07/07
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