地球の平和 (スタニスワフ・レム・コレクション)
地球の平和 (スタニスワフ・レム・コレクション) / 感想・レビュー
えか
ストーリーは大まかに二つに分かれる。ひとつめは我らが泰平ヨンが何者かにより右脳と左脳を断ち切られ、二つの自我に悩まされる。というもの。第一章では右半身と左半身の闘いが、まるでスラップスティック喜劇のように繰り広げられる。文字通りの「分裂症」だ。ふたつめは『砂漠の惑星』やラッカーの『ソフトウェア』三部作のような月で自己進化する機会生命体の話。調査にあたった泰平ヨンの右脳がどうやらその謎の鍵を握っているらしいのだが、はたして如何に…
2022/09/15
いきもの
兵器の進化と自己同一性をテーマとして書かれた泰平ヨンシリーズ最終作。シリーズとはいえ、ほぼ独立した作品。兵器進化のテーマはレムの他の作品でも共通したアイディアがみられるのと、自己同一性についてはやや掘り下げが足りない感じがしたので、やや期待はずれ。それでも面白いけど。
2023/05/10
たか
軍拡競争を月に移植してAI任せになった未来。様子の知れない月が地球に攻めてくるのではとの不安が募り泰平ヨンが調査派遣されるが、帰ってきたヨンはカロトミー(脳梁切断)により記憶と人格が分裂してしまっていた。左脳優位のヨンも知り得ない右脳側の月の記憶を巡って諜報戦が繰り広げられる。『航星日誌』に比べると長編らしい重厚さはあるものの、右脳の反逆と和解のドラマ、ヨンを取り巻く怪しい人物たちのドタバタは笑える。兵器進化の描写や、タラントガ教授の洞察、ラストの描写などは本物の予言者ではないかと思ってしまう鋭さ。
2022/08/15
maqiso
カロトミーと月のミッションが訳のわからないまま進む中に、兵器やアンドロイドが進化していった話が挟まるの良い。遠隔人を操作する場面は臨場感があって面白い。
2022/01/03
はにまる
待望の泰平ヨンシリーズ最終巻。月面での調査中に右脳と左脳が切り離させれてしまうというトラブルに巻き込まれるのだが、そこから始まるサイバネティクスでユーモラスな展開が、これぞ泰平ヨンという感じ。自己言及的な言葉遊び(LEM - Lunar Efficient Missionaryなど)も健在。軍拡競争を地球から切り離し月面に集約させた世界設定もユニークで、軍事技術が進化した月世界は「インヴィンシブル」の惑星を思わせる。「遠隔人」のアイディアは今のVRアバターだし、レムのSFと未来洞察の集大成のような傑作。
2022/11/05
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