定本二笑亭綺譚 (ちくま文庫 し 8-1)
定本二笑亭綺譚 (ちくま文庫 し 8-1) / 感想・レビュー
へくとぱすかる
昭和の怪建築・二笑亭。昭和初期の東京・門前仲町に存在した幻の家の記録である、式場隆三郎の名著に50年後の後日譚を加えて、3倍のボリュームとした決定版。怪建築のキーワードは「茶の湯」であった。式場隆三郎の息子さんによって、二笑亭主人の息子さんへのインタビューが本にまとめられる、という奇遇。これも怪建築の力だろうか。家は早くに消滅しても、多くの人の記憶に生き続けていた。これは貴重な証言集である。そして何より模型によって建築を再現してみせたことには、驚嘆するほかない。デュシャンの作品にも通じる世界である。
2014/08/29
gtn
才覚はあったのだろう。そうでなければ、婿養子にはなれない。心の病というより、精神が鋭敏過ぎたのか。結果は同じかもしれないが。
2023/07/11
ワンタン
かつて東京の深川に実在した奇妙な建築物について、様々な角度から記録した本。本やマンガの中で見聞きして何となく興味を持っていたが、今回この本を読んで、想像以上に病的な印象を受けた。これを最初にアウトサイダーアートとして発見、発表した式場隆三郎は慧眼だったというほかない。文章だけではなかなか建物の様子が理解できず、収録された当時の写真や復元したミニチュア模型の写真を何度も見返してしまったが、自分も引きずり込まれていきそうな、一種異様な迫力を感じた。残念ながら二笑亭は既に存在しない。この本自体が貴重な記録だ。
2018/01/31
猫丸
異形の建築二笑亭の作者渡邊金造は、家族を遠ざけ、潤沢な資産を惜しげもなく投じて家を成長させ続けた。脳病院に収容されてからの診断は統合失調症であるが、本書に付された日記断片や隣家等から見た印象を総合すると、たとえ症状を呈したとしてもごく軽度であったと思われる。まず幻覚等の発現についてはまったく記載が無い。行動にも障害は無く、被害の報告も無い。極端な人嫌いと言われ、実際に家族とは別居していたものの、大量の物品・調理品等を近所に配ったり、近所の子供達を釣りに連れて行ったりもしている。
2022/03/30
りー
二笑亭は東京は門前中町に実在した奇館である。横板が段違いに設置されて傾いた棚。奥行きが数センチしかない押入れ。屋根を越え、虚空に向かって伸びる梯子。その突飛な造型を初めて聞いた時にはアメリカの幽霊屋敷、ウィンチェスター・ハウスを思い浮かべた。しかしこちらが悪霊にとりつかれた婦人の狂気の作であるのに対し、二笑亭の作者、渡辺金蔵にとりついていたのは彼自身が産み出した概念の化け物だ。
2013/04/25
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