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甘い蜜の部屋 (ちくま文庫 も 9-4)

甘い蜜の部屋 (ちくま文庫 も 9-4)

甘い蜜の部屋 (ちくま文庫 も 9-4)

作家
森茉莉
出版社
筑摩書房
発売日
1996-12-01
ISBN
9784480032034
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甘い蜜の部屋 (ちくま文庫 も 9-4) / 感想・レビュー

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ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中

熱帯植物の温室。纏つく草いきれにむせぶ密室で、愛を貪るための生きものとして私をそだてたのはお父さまでした。フォークよりも重たいものは持たなくていいよとやさしく笑い、男の肉片をひらりと口に差し与えるその手。パァパと呼ぶと蜜を滴らすの。今日の私の獲物は誰かしら。私の魅力に悶えかなしむ美しい瞳がいいわ。手ずから差し出して。今日咲きだしたばかりの薔薇の花だけむしって湯に散らしてね。愛を差し出したら私の赤い水着をむしっていいよ。からだを存分貪ってこころを差し出しなさい。美しいものだけが私にかしずいて愛をうたえ。

2020/02/12

青蓮

モイラは純新無垢な美しい悪魔だ。彼女を取り巻く人全てが魔に魅入られた如く、彼女に惹き付けられる。モイラが相手にサディスティックな感情、欲情を抱かせるのは彼女の幼い振る舞いと、それに似合わぬ官能の香気だ。男達を狂わせ、女達もまた彼女の妖しいまでの美貌に嫉妬せずにはいられない。モイラは唯、父である林作だけを愛していた。そして林作もまたモイラだけを必要としていた。閉じた二人だけの愛の園。甘い蜜に満たされたその場所は他者にとっては毒の園だ。足を踏み入れれば死んでしまう、毒の薔薇園。甘い色香が匂い立つような作品。

2019/08/03

りりす

少女の持つ美を前に、あらゆる道徳、常識、平穏が崩壊する。知恵も手管もなく、ただ美しさだけで成立する少女の存在は、太宰治『女生徒』の、「美しさに、内容なんてあってたまるものか。純粋の美しさとは、いつも無意味で、無道徳だ」という文章で簡潔に説明出来ると思う。多分それは、自分磨きのような健気でせせこましい努力に対するアンチテーゼ的存在。魔性の反面、何でも言うなりに成りそうなのは、父との恋人の様な関係の為だと思う。父娘の近親相姦という、何処までも自分に都合のいい女の存在は、アダムから出でて妻になったイブに似てる。

2015/02/19

nina

この上なく甘美で悪魔の誘惑のように抗い難い濃密な香りを放つ少女。生まれながらに備わったその純潔の媚態は、花に群がるミツバチのように引き寄せた男たちの劣情を孕んだ眼差しや女たちの羨望と憎しみの視線を浴びることで磨き上げられ、それらを貪り食い、ついには罠にかかった獲物を自らの手で屠る時、神々しいまでに美しいその魔の魅力を解き放つ。少女を理想の女として愛し育む父も含め、彼女の魅力に溺れながらもそんな自分を客観的に分析する男たちの冷徹な眼差しと、相手の表情や顔色からその心情を読み解く会話ならぬ会話の場面が印象的。

2014/03/12

nami

美しい親娘の濃密にして耽美なロマネスク。天性の美貌の中に邪悪な魔力を持って生まれた少女モイラが少女から大人の女へと成長を遂げていく過程が精緻に艶やかに描き出されている。親娘であり恋人同士でもある林作とモイラが紡いだ《甘い蜜の部屋》の中には誰も立ち入ることなど出来ない。林作の居る屋敷だけがモイラにとっては世界の全てであり、虜にした男たちは愛情を運ぶ働き蜂のような存在。林作の“作品”のようでもあるモイラは人によっては可哀想に見えるのかもしれないが、林作とモイラが「可哀想?」と言って微笑う姿は容易に目に浮かぶ。

2024/03/05

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