こちらあみ子 (ちくま文庫)
「こちらあみ子 (ちくま文庫)」のおすすめレビュー
井浦新&尾野真千子で映画化も! 少し風変わりな女の子から見た世界を切り取った、今村夏子のデビュー作『こちらあみ子』
『こちらあみ子』(今村夏子/筑摩書房)
井浦新さんや尾野真千子さんら豪華キャストで映画化される『こちらあみ子』(筑摩書房)。今村夏子さんのデビュー作で、太宰治賞と三島由紀夫賞をW受賞した作品でもあります。デビュー作ながら、物語が纏う不穏な空気など今村さんらしさが満載。救われない人々にひりひりしながら、読み終わると独特な後味にしばらく呆然としてしまいます。
本作は、現在は祖母と一緒に暮らす主人公・あみ子が父と母、兄と暮らした小学生時代の物語です。小学生のあみ子は、母が営む書道教室を覗き見るのが大好き。教室に入るのを禁止する母の目を盗み襖の陰から覗いていると、ひとりの男の子と目が合います(実際はあみ子がそう思い込んだだけかもしれませんが)。それから数日後、その男の子が自分のクラスにいることに気づいたあみ子。先生に名前を教えてもらい、以降「のり君」はあみ子にとって特別な存在になります。しかしのり君は、あみ子が追いかければ逃げるし、つかまえて話しかけると帽子を深くかぶり、唇をかむ。つまりあみ子を避けているのですが、それがあみ子にはわかりません。
あみ子…
2022/6/26
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こちらあみ子 (ちくま文庫) / 感想・レビュー
徒花
普通とはちょっと(だいぶ?)違う感性を持った女の子・あみ子と家族、そして学友たちとの物語をつづったいわゆる文学チックな作品。文章はうまいからさらさらと読んでいけるのだが、いかんせん物語に起伏がないので盛り上がりに欠ける。とくに、物語の冒頭から最後まで、主人公であるあみ子のなかでなんら心境の変化が起こらず、あみ子が最後まであみ子であり続けるのがちょっと残念な気がした。それに比べると、次の作品『ピクニック』のほうは、主人公の女性を取り巻く女性たちの感情の変化が現れて、まだおもしろい。
2017/02/01
しんごろ
ウワーッと叫んで、頭を抱えるくらい感想に困る作品でした。特にインパクトがあるわけではないのに、グイグイと引きこまれ、気づいたら自分が各登場人物に当てはめて、この立場なら、どうするんだろうと考えさせられました。あみ子を含め、『ピクニック』の七瀬さん、『チズさん』のチズさんしかり、その場にいたら、きっと鬱陶しく感じるだろうけど、この各主人公の純真無垢な優しさ無邪気さが、鬱陶しく感じながらも、自分の心を救ってくれてる気がしました。だから読後も気になるんですね。いつかまた再読したいです。
2018/01/29
馨
『こちらあみ子』と『ピクニック』『チズさん』の3作。今村さん作品の読了後の何とも言えない不愉快などんよりとした気分は健在。でもなぜかスッキリ感のあるどんより感みたいな表現出来ない不思議な後味。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。主人公はどこか世間一般とかけ離れた感性を持ち、普通を好む人たちに受け入れられず上手に生きることが出来ないキャラが多いのですが、少なからず似たところが自分にあるような気がし主人公が納得しているなら良いのだろう、この後の主人公の人生も追いかけていたい思いにかられます。
2017/09/16
夢追人009
芥川賞作家・今村夏子さんの原点となるデビュー作品集。私は本書を読んで完全に著者の本質を理解できた気がします。「こちらあみ子」の風変わりな少女あみ子の同級生のり君への恋心「ピクニック」の七瀬嬢が恋人げんき君に尽くす献身「チズさん」のお婆さんに対する私の執着はそのまま「むらさきのスカートの女」の権藤チーフの日野まゆ子への親切心と本質的に同一なのではありませんか!純粋無垢のピュアで一途な心を私は笑ったり不気味に思えたりはできません。私は著者が異常性の裏側にある拒絶された者の悲哀を書きたかったのだと思うのですね。
2019/09/23
さてさて
この作品を読み始めた読者は何か不自然な感覚、感情がずっと付き纏うことに気づきます。こちら側からは違和感の象徴でしかないあみ子、しかし、そのあみ子の側の世界を見てしまった読者は、それを違和感と単純に切り捨てることが出来なくなっています。いつまでも読者の中に引っ掛かりとして残り続ける、それがこの物語なのだと思います。〈こちらあみ子〉、圧倒的なインパクトを持つこの作品。あみ子のことをいつまでも考えてしまう自分がいる、何か引っ掛かりをいつまでも感じてしまう自分がここにいる、とても不思議な印象の残る作品でした。
2020/10/10
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