東京の生活史 (単行本)
「東京の生活史 (単行本)」のおすすめレビュー
岸政彦『東京の生活史』――聞き手と語り手、読み手が呼応し合う、人生の欠片が詰まった1216ページの分厚い不思議な本!
『東京の生活史』(岸政彦:編/筑摩書房)
なんとも不思議な本である。
『東京の生活史』(岸政彦:編/筑摩書房)の総ページ数は1216ページ、とても分厚く、重く、存在感があり、書店でも異彩を放っている。何についての本かというと、150人の聞き手が、東京で暮らした経験がある150人の語り手の人生を聞く、というものである。それがひとりあたりおよそ8ページで1万字、計150万字というボリュームの経験談が層を成しているのだ。普通の書籍にすると約10冊ほどの分量になるだろう。
この本が不思議なのには、他にも理由がある。
たいてい書籍や雑誌などの取材記事は、本文に入る前にタイトルで何についてのインタビューなのかを明示し、語り手の名前や「■■というアイドルグループに所属する20代男性」「◯◯という会社の社長で60代女性」「同性婚をしている40代男性」といった属性、経歴、顔写真などが提示され、読み手はそれらの情報を頭に入れてから読みはじめる。しかし本書では語り手の情報が事前に明かされない。名前が記載されている場合もあるが、匿名であったり、語られた固有名詞、地名が仮…
2021/11/23
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岸政彦「東京“だから”語られる話ではなく、東京“で”生きる人たちの物語」
「目に映るものをそのまま残したい、っていう欲望が昔からすごく強いんですよ。わざとらしく、つくりたくない。普通でええやん、っていうのが僕の口癖なんですけど、普通っていうのは一般的に見てどうかとか平均的であるかとかではなく、あるがまま、そのまんまってこと。だから『東京の生活史』も、まずは人の話を聞いてみようよってスタンスを貫いているんです」
(取材・文=立花もも 撮影=迫田真実)
東京で一生懸命暮らしてるひとの人生を聞きたい、と岸さんがツイートしたところから始まった『東京の生活史』プロジェクト。150人の語り手と、150人の聞き手による、およそ150万字のインタビュー集。岸さんは編纂という立場で関わっている。 「僕はふだん、社会学者として沖縄で聞き取り調査をしているんですが、昔から学会で報告するたび“それは沖縄に限った話じゃないんじゃない?”“それは沖縄だから起きる特殊事例じゃない?”という矛盾した二つの指摘を同時に受けてしまう。若い頃は“意見を統一してから質問して”って偉い先生に言ったこともあるくらい(笑)。でもたぶん、大阪でも札幌でもパリでもロ…
2021/12/11
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東京の生活史 (単行本) / 感想・レビュー
starbro
今年の最巨編(菊版、二段組、1,216頁、150万字、約2㎏)を3日かけて完読しました。聞き手150人×語り手150人、多種多様(老若男女、LGBTQ、日本人、ハーフ、外国人入り乱れ)な市井の東京に棲まう人々のインタビュー集、ドラマがありました。読んでいて飽きませんが、最初の二日間は、本書を持ち歩いていたので、疲れました(笑) https://www.chikumashobo.co.jp/special/tokyo_project/
2022/01/15
アキ
なんて重い本なのだろう。1200頁。東京で暮らす、または暮らしたことがある人たち150人へのインタビュー集。ここには実に様々な人生があり、必死に生きる人のふとした一言が心に響く。今日も混雑した電車に偶然乗り合わせた人たちは、それぞれの必然でそこにいる。東京で今暮らす人たちも同じ電車に乗り合わせた人々と同じようなものなのだ。かつて東京で暮らしたひとりとして、懐かしく、そしてもちろん初めて知る時代も場所も職業も異なる、懐の深い東京を肌で感じることができた。みんな東京で精一杯生きている。生きている限り、全力で。
2021/12/03
竹園和明
上下2段1,216頁。厚み6センチ!。東京に暮らす老若男女150人に今までの暮らし等を語って貰い、そこから東京という巨大都市の過去~現在の断片を浮かび上がらせるインタビュー集。聞き手も語り手も一般人。人それぞれの歴史をサラサラと読んで行く。東京を象徴する建造物等ではなく野良猫が行き来する路地裏を覗き見たような印象。大事件もなく、またこれを読破すれば「ザ・東京」の全貌が見えて来るわけでもないが、市井の人々の色んなライフヒストリーが興味深かった。こういう個々の暮らしが、大都市東京を形作って来たんだな。
2022/03/02
mawaji
さすがにこの本は図書館で借りて読むのはたいへんそうなのと、やはり手元に置いておきたかったので即購入。市井の人々のランダムな生活の断片の聞き語りは、ひとりひとりの人生の断片がとてもかけがえのない物語のようで、広辞苑を開いているような心持ちになりつついちにちひとりずつ味わいながら読みました。昭和の匂いがぷんぷん漂う語りの中、大資本に押される小さな本屋さんの苦労の思い出は本書の配本を巡るあれこれが包含されているように感じられました。昨年9月24日に届いた翌日から読み始め2月23日読了。ちょうど150日間でした。
2022/02/24
グルト
図書館で借りて、全体の三分の一くらいは読んだか。在日コリアンや朝鮮学校のことが気になってきている。同じように、ずっとわからないまま来ちゃったなぁというテーマがいくつか。感覚としては、友達の知り合いの生々しい話を聞いた感じ。東京という都市が抱える暮らしの膨大さと複雑さを思うと、気が遠くなる。その一部を大切な人たちが構成していて、自分の知らないところで同じように喜んだり苦しんだりしている。SNSにも映らないところで。表面上の暮らしぶりに惑わされすぎているかもしれない。
2022/04/05
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