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おわりの雪

おわりの雪

おわりの雪

作家
ユベール・マンガレリ
田久保麻理
出版社
白水社
発売日
2004-12-10
ISBN
9784560047989
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おわりの雪 / 感想・レビュー

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新地学@児童書病発動中

夜中にしんしんと降り積もる雪を見つめているような心地になる小説。トビをどうしても買いたい少年が主人公で、彼は結末で大きな喪失を味わう。小さな町の小さな世界の話だが、心の深いところに届く力を持っている。くわしくは描かれていないのだが、登場人物の多くが心に痛みを抱えており、その点を作者は細やかに優しく描き出す。少年が憧れているトビだけが、生き生きとした存在で日々の生活を超えた世界とつながりを持っている。少年と父親の絆の描き方に感動した。父は彼の作り話にも真剣に耳を傾ける。この絆はきっと少年の宝物になるだろう。

2017/11/25

アキ

父と子の静謐な物語。雪がふるように、少年の記憶は降り積もってゆく。静かで空想的で現実ではなかったかのように淡々とすすんでいくお話しだが、現実の世界は暗くて重い。養老院で今は亡きおばあさんのリスの話と、父に語ったトビをつかまえた作り話と、犬と歩いた線路沿いの雪道も、夢の中の出来事だったかのように記憶が混ざり合い、そしてそのまま終えるのだ。おわりの雪とは、これでおわりというのだろうか、それともこれからはじまるということなのだろうか。それは、最後に磨いた長靴が象徴しているように思えた。

2021/05/09

とろこ

少年だった日々のことを、回想形式で語る作品。あらゆる出来事や想いを、語り過ぎることがない。淡々と静謐で、降りしきる雪を窓から眺めているような感覚になる。病に臥せる父親と、トビの話を共有する少年。その物語は事実ではないのだが、父親は全面的に受け入れる。養老院での仕事や、それ以外の、親にも言えぬ仕事。父との絆を深める為とはいえ、少年は、自らの行為で自らの心を傷つけたのだと思う。おわりの雪。父との別れであると同時に、少年時代との決別をも意味しているのだろう。空想の力こそが生きる糧となるのだ。そんなことを感じた。

2018/10/15

雪うさぎ

スノードームの雪のように、記憶はいつもここに戻ってくる。おわりの雪とは、父が見た最後の雪。少年の頃の最後の思い出。その色は哀しみを帯びている。仄暗い部屋の中、少年は物語を語り、父親はそれに聞き入る。その姿がランプに照らされ天井に影を落とす。屋根を打つ雨の音が分け入り、二人は静寂に身を潜める。沈黙が父と子の絆を深めていく。生と死を初めて感じた年のことが、心のひだに深く刻まれ、頭から離れない。力強い翼を持ちながら鳥籠に閉じ込められたトビのように、空想の中でだけしか自由に羽ばたけない少年の姿が、とても切ない。

2016/09/27

あつひめ

外国の作品を読むと毎回感じる。原作のまま読めたらもっと作者の言いたいことが見えてくるんだろうなぁと。とても美しい描写。雪の冷たさも老人の笑顔の生きている温もりも感じられるけどどこかが切り取られた印象を受けてしまう。それはどうしてなのか?と思いながらいくつもいくつも切り取られたものを探しながら読み進めるけどいつの間にかラストを迎えてしまった。命…父親、仔猫、老女、犬、そしてトビの命。人間という欲を持つ者の考えが美しい雪の中に泥の足跡のように点々と汚していくようなことを美しく取りまとめている複雑な気もする。

2012/11/03

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