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遠い水平線 (白水Uブックス 115 海外小説の誘惑)

遠い水平線 (白水Uブックス 115 海外小説の誘惑)

遠い水平線 (白水Uブックス 115 海外小説の誘惑)

作家
アントニオ・タブッキ
Antonio Tabucchi
須賀敦子
出版社
白水社
発売日
1996-08-01
ISBN
9784560071151
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遠い水平線 (白水Uブックス 115 海外小説の誘惑) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

ジェノヴァとおぼしき港町(ただし、小説の中では町の名前は明かされない)を舞台に物語は進行して行く。スタイルは探偵小説だ。警官たちとの銃撃戦のさ中に、仲間から撃たれて(おそらくは)命を落とした男を追ってゆく主人公のスピーノ。彼は幽かな手掛かりの糸を辿ってゆく。カルロ・ノボルディを自称するnobodyの実態に迫ってはいくのだが。ただ、そもそもスピーノが何故それほどにこの男に執着するのかは、彼にも我々読者にもわからない。すべては夜の闇と港の霧の中に溶解してゆくのだ。須賀敦子さんの訳文は、どこまでも儚く美しい。

2014/12/05

青蓮

ある夜に運び込まれた身元不明の他殺死体。死体置場の番人であるスピーノは不思議な思いに駆られて男の正体を探索し始めるーー謎めいた男の過去を探るのは過去への旅だ。読んでる間ずっと、夢の中を歩むように、遠くに水平線の影が見えるような気がした。それは永遠に辿り着けない水平線だ。存在を仄めかすだけの。あるいはそれもまた幻なのかもしれない。詩的で哲学めいたこの物語にずっと浸っていたい気分になる。タブッキが描く世界は不思議な中毒性があり、一度味わったらそれなしではいられない。「余白につけた註」も含めて素晴らしかった。

2017/08/07

nuit@積読消化中

タブッキを読むのは『インド夜想曲』『レクイエム』に続き3冊目。本書も期待を裏切りませんでした。今回は先に読んだ2冊のような、これは夢なのか現実なのかということはなく、ある他殺死体について調べはじめる主人公が登場します。若干ミステリー要素も感じられますが、タブッキがありきたりな探偵小説を書くわけがありません(笑)。死体が誰か真相に近づきつつも、思いっきりタブッキ的思索に耽っております(笑)。タブッキ、次は何を読もう…!

2017/11/24

nobi

死体置場の番人の旧市内の一角にある住処にも、高校生の息子を持つ彼女がいるという生活にも物憂さが漂う。ただ、この何の変哲も無さそうな場面を柔らかな感性は立体的に描いて、どこか既視感も覚える。街の空気は澄み切って、地中海の明るい陽光が射している。とは言え、夢と意識しながら見る夢のようにどこか非現実的。と、ある日取り憑かれたかのように男は行動を起こし、サスペンスめいた進行が始まり、非現実感は現実感とないまぜになってゆく。明瞭に見えた水平線「生者と死者のあいだ」は、どちらにもすっと行き来できる境として見えてくる。

2020/04/24

コットン

作為的に物語の全てをオープンにしないでぼやけながら進むことによってサスペンス的効果を上げている面白さがある。身元不明の他殺死体のポケットにあった写真からネガをとり主人公が現像する個所が印象的⇒『現像液に浸けると、輪郭がなかなか鮮明に出なかった。遠い、ずっと昔の二度と帰ることのない瞬間が蘇生させられるのを嫌がっていて、好奇の目、外部の人間の目にさらされ、無関係なコンテキストの中で目覚めされられるのを拒んでいるようだった』

2013/05/28

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