煙の樹 (EXLIBRIS)
煙の樹 (EXLIBRIS) / 感想・レビュー
jahmatsu
大作。長かった〜。ベトナム戦時下の2重スパイネタと若者の戦争体験がいり混じり合って、救いようのない戦争のカオスなり狂気、空気が淡々と描き続けられている。会話もいちいちアメリカンで、これもリアル。これがデニス・ジョンソンが生涯かけて描きたかったベトナムだったのかと、濃厚。
2019/10/22
志ん魚
イデオロギーや宗教の名の下に「善」と「悪」が粗製濫造され、超大国が世界地図の塗り分けに没頭していた時代。正義のための戦いは、いつのまにか一線を越えて迷走し、どこまでが「戦争」でどこからが「戦争の病」なのかわからなくなっていった時代。それぞれの最前線で己の役割を果たした者たちの群像を通して、酩酊しながら糞溜めにゆっくりと沈んでいくような異様な不条理感をどっぷりと味わった。ディテールにこだわり、時代の空気を丹念に削りだしていくような繊細さと、映画的な疾走感を併せ持つ文体が魅力的で、読むというより浸った感じ。
2012/07/17
メセニ
ベトナム戦況下、元アメリカ軍大佐のフランシス・サンズは密かに情報作戦を遂行する。〈煙の樹〉とは如何なる作戦か?この一人の豪傑を軸に、彼に惹かれた周囲の男たちが、実体の見えない陰謀めいた計画に否応なく加担し、翻弄されていく。戦争の只中にある若者たちのだらだらとした会話はある意味で生気がありリアルだ。その普通さに唐突に現れる暴力とのコントラストがこの作品の凄みと魅力だろうか。とは言え何だかよく分からない内に読み終えた。物語から救いが得られる前で立往生している。あるいは彼らの翻弄を追体験しているのかもしれない。
2019/04/03
スミス市松
「昔々、あるところに戦争があった。」――その戦争は数多くの命を奪い、それ以上に多くの運命を翻弄した。得体の知れない巨大な化け物の胃の中にいるような、東南アジア特有の粘っこい空気に多様な言語と宗教観が入り混じり、それまでのアメリカ製ヴェトナム小説にはないポリフォニックな世界観を獲得した本書は、その圧倒的物量でもって読者に“ヴェトナム”をまるごと体験させる。まさにデニス・ジョンソンが生涯かけて身を投じ描き続けてきた「戦場」の集大成ともいうべき怪作である。(続)
2012/01/15
Ecriture
ベトナム戦争において北と南の双方が嘘をつき、情報が機能しなくなった時、情報を情報として取り戻そうとした男たちの話。それは、何が嘘かわからない中で嘘を嘘として取り戻そうという試みであり、フィクションを、そして小説を取り戻そうという壮大な試みでもあった。「煙の樹」は旧約聖書からとられていて、失われた信仰を取り戻せるかというテーマも作品全体にわたって描かれる。「二重スパイ」がキーワードで、男たちも女たちも何らかの二重スパイ状態にあるのではないかと思って読むと、粗野に見えつつも計算された仕掛けをさらに楽しめる。
2015/08/18
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