断絶 (エクス・リブリス)
断絶 (エクス・リブリス) / 感想・レビュー
ヘラジカ
中国系アメリカ人の孤独と寂寥感に溢れた物語に、ロメロやマシスンのパロディをミックスさせた、ユニークで新しい移民文学。故郷や日常、消費資本主義や人間関係、あらゆる物事との「断絶」を抑制された筆致で丁寧に描いている。文明が静かに死にかけているというのに、プライベートな問題を切迫感のない文章で滔々と語る様が非常に印象的。中国由来の人を”生ける屍”へと変えてしまうシェン熱は、その発症条件(もしくは発症しない理由)を考えると、暗喩として裏に何があるかを想像できて面白い。大変好みな終末小説だった。
2021/03/25
星落秋風五丈原
新型コロナを先取りしたかのような中国から始まった謎の病で人々が死にゴーストタウンになっていく。ウォーキングデッドみたい。
2021/04/16
ぽてち
2011年、中国発の真菌感染症・シェン熱が猛威を振るい、人類は滅亡の危機に瀕していた。感染者は意識を失くし、日常の同じ動作を繰り返す。ニューヨークが無人となる中、中国からの移民であるキャンディスは変わらずオフィスに通い業務を続ける。キャンディスを通して、〈災厄〉前後の世界を交互に描いていく。細部に甘いところはあるが、コロナ禍の“流行り”ものと捉えられてしまうのはもったいない骨太な小説だ。
2021/06/01
ネコベス
ニューヨークの出版社に勤めるキャンディス。治療法の無い感染症が世界中に広がり、キャンディスは日に日に人間が少なくなって行く街を出る。世界規模のパンデミックを描いているがエンタメ的なカタルシスや面白みは無く、金のために心身擦り減らして労働に注力し次第に疲弊する現代ニューヨークの消費に駆られたきらびやかだが不毛な生活や、移民としてアメリカで懸命に努力して根を張った両親の努力とその子供であるキャンディスの孤独や寄る辺ない不安感等都市に生きる現代アメリカ人の生活感や心象風景を緻密に描き出している。
2021/04/25
かもめ通信
“未知の病「シェン熱」が世界を襲い、感染者はゾンビ化…”という予告を目にして、読まず嫌いを発症しかけたが、訳者が藤井光さんだというので、おそるおそる読んでみたら、これがなんともすごかった。人類がほぼ全滅してしまった後の生き残りをかけたロードノベルでありながら、主人公の中国系アメリカ人女性の回想を通して語られる移民の、親子の物語であり、信仰を問う物語でもあると同時にグローバル経済の元での社会の矛盾をつきつける物語でもあって。読み応えたっぷり。
2021/04/21
感想・レビューをもっと見る