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上海灯蛾

上海灯蛾

上海灯蛾

作家
上田早夕里
出版社
双葉社
発売日
2023-03-23
ISBN
9784575246025
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「上海灯蛾」のおすすめレビュー

魔都・上海でアヘンを巡り人生が狂う者たち。異国の裏社会を描く500ページ超えの大作『上海灯蛾』

『上海灯蛾』(上田早夕里/双葉社)

「一月往ぬる二月逃げる三月去る」と言われるが、このあいだお正月だったと思ったら、もう3月。月日の早さに心がザワついてしまうときは、あえて「エンタメ大作」に没入して別の時間軸に生きてしまうのはどうだろう。上田早夕里さんの待望の新刊『上海灯蛾』(双葉社)は、そんなリアルな時間感覚を忘れるのにうってつけの一冊。舞台は日中戦争の前後の魔都・上海。「最」(ズイ)と呼ばれる極上の阿片をめぐり、男たちが斃れていく壮大なピカレスク小説だ。

 1934年上海、日本人の青年・吾郷次郎は小さな雑貨屋を営みながら、いつか金持ちに成り上がることを夢みていた。この地で成功するには裏社会を仕切る「青幇(チンパン)」と親交を深める必要があるが、日本人の次郎には、組織の末端に近づくことすら難しかった。そんなある日、彼のもとに謎めいた日本人女性・ユキヱが現れ、熱河省産の極上の阿片と芥子の種を持ち込み、「売れないか」と尋ねる。上海の阿片を仕切るのは当然、青幇。次郎は中国人の知り合いに阿片の売買ができる筋への紹介を頼み、とうとう青幇の末端に位置する男・…

2023/3/28

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魔都の輝きに魅せられ、男たちは命を焦がす――阿片の煙越しに見る日中近代史『上海灯蛾』上田早夕里インタビュー

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年5月号からの転載になります。

 かつて中国・上海には、「租界」と呼ばれる外国人居留地があった。西洋建築物が並び「東洋のパリ」と称される上海租界は、1931年の満州事変以降、日本人居留民が急増。欧米やアジアの民族が入り乱れて暮らすこの地は、昼は商業都市として華やかな顔を見せ、夜になると退廃と悪徳の匂いが漂う二面性のある街として発展を遂げていった。  上田早夕里さんは、そんな上海租界を題材にした「戦時上海・三部作」に取り組んできた。『上海灯蛾』は、その掉尾を飾る一作だ。

取材・文=野本由起 写真=迫田真実

「三部作の前に書いたSF短編『上海フランス租界祁斉路三二〇号』から数えると、ちょうど10年間、1930~40年代の上海租界について書き続けてきました。背景にあったのは、今、自分が書かねばという強い気持ちです。現代を生きる私たちが、戦前・戦中の人々を想像する時、ある程度固定されたイメージがありますよね。現代人とはまったく考え方が違う昔の人たちという認識が一般的だと思います。ですが、上海租界について調べてみると、…

2023/4/8

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上海灯蛾 / 感想・レビュー

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パトラッシュ

金と暴力と謀略にまみれた戦前の上海は、冒険小説にとって最高の舞台となる。高品質アヘンを巡る秘密結社青幇と陸軍特務機関の争いに巻き込まれた2人の日本人が、片や自由を愛し片や日本人として認められたくて、互いに友情を感じながら敵対していくドラマが強烈だ。日中双方とも目的のためなら手段を選ばず、殺し殺されで死体を積み重ねていく。欲望のため罠にかけたり殺し合いながら、それぞれの譲れない意思に殉じる結末は美しさすら感じる。法や制度や権力に従わず、自らの正しさを信じて思うがままに生きたアウトローたちの群像劇を堪能した。

2023/04/27

モルク

1930年代貧しい農村から上海に移り雑貨屋をしている次郎。謎の女ユキエから預かった阿片は最高級品だった。中国マフィアと結びつきそこの実力者楊直と義兄弟の契りを結ぶことによって次第に渦に巻き込まれていく。阿片「最」の栽培で巨額な富を得るが…。権力争い、日本陸軍との攻防など残虐なシーンも多い。そしてロシア人の母を持つ青年伊沢。その血を払拭するようにより日本人らしくなりたいという思いが負の方向に向かう姿は不憫だ。中国名などの読みにくさは最初だけ、後はのめりこんだ。誰に媚びることなく己の願望に生きた男次郎が逞しい

2024/03/19

のぶ

壮絶な生き方をした人たちの物語だった。始まりは1934年上海。主人公の吾郷次郎のもとへ、原田ユキヱと名乗る謎めいた女から極上の阿片と芥子の種が持ち込まれる。次郎は上海の裏社会を支配する青幇の一員・楊直に渡りをつけるが、これをきっかけに、阿片ビジネスへ引き摺り込まれてしまう。やがて、上海では第二次上海事変が勃発。関東軍と青幇との間で、阿片をめぐって暗闘が繰り広げられる。時代と状況に翻弄される次郎の姿が長い話の中でよく描かれている。和製ウィンズロウとも例える事ができる麻薬を扱った作品だった。タイトルが絶妙。

2023/04/19

aki☆

1934年、日本人女性ユキヱによって極上の阿片が上海に持ち込まれる。阿片密売は裏社会を潤し、陰謀、裏切り、復讐を生み、やがて日本の特務機関との抗争へと発展。日本を捨て家族を捨て金と自由を求め上海へ渡った次郎と、家族の幸せのため仕事を選ばず裏社会で生きてきた楊直。違う人種の二人が阿片密売で繋がり、関係を深め共に闘い迎えた結末は予想外だった。序章の真相に思わず涙が。次郎の誇りとユキヱの強さが印象的。史実と実名を織り交ぜ阿片に翻弄された者たちを描いた残酷で切なくて胸が熱くなる一冊。読み応えがあり面白かった。

2023/11/09

たま

日中戦争を背景に関東軍と上海の闇組織・青幇の阿片抗争を描く。関東軍(つまり日本)の阿片ビジネスに興味があって読みはじめ、初めは物語に入りこむのが難しかったが、青幇の側に一枚噛んでいる次郎のジャズ好きの描写あたりから面白くなり、納得行かない点(ユキヱの去就とか)や人命の軽さに途惑いつつも、引き込まれて読んだ。作者の意図としては日本人の枠に縛られない生き方を望む次郎と日本人として関東軍で認められたい伊沢穣の対比が読みどころだったのかも知れないが、闇社会の中国人も含め、正直、人間関係は分からない点も多かった。

2023/08/05

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