少将滋幹の母
少将滋幹の母 / 感想・レビュー
belle
あっ、谷崎!神保町は東京堂書店の新刊棚の前で思わず声が出た。70年近く前になる毎日新聞連載時の小倉遊亀の挿画と共に楽しめる愛蔵版が出版されたのである。この小説をきっかけに谷崎を集中的に読んだ頃を思い出す。当時は新潮文庫のお世話になった。稀なる美女である母を恋い慕う少将のお話である。が、回り道とも思える男どもの話があってこそだ。滑稽で強引で必死な王朝世界。そして物語の美は衣の袖に沁みた香の匂いがすべて。
2019/11/28
uchiyama
源氏から始めて、今昔物語や平中日記を渉猟しつつあった語り手が、いきなりこともなげに、「平中は〝去年”以来此の忍び歩きを繰り返して」と記し、「〝今日‘’までにニ三度(想い人に渡す文を女童に持たせた)」と素知らぬ風であっさり時を超えてしまう、その図々しいまでに自在な感覚は、よく使われる技法かもしれませんが、文献を行きつ戻りつしながら描かれる、宴席での略奪、墓場までの父子の道行き、母子の再会といった場面が、段々と、雅さを超えて惨たらしさを増していくとき、語り手の位置(語りの意図)こそが凄まじく感じました。
2022/06/08
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