KADOKAWA Group

Facebook Twitter LINE はてブ Instagram Pinterest

モーヴ色のあめふる (現代歌人シリーズ)

モーヴ色のあめふる (現代歌人シリーズ)

モーヴ色のあめふる (現代歌人シリーズ)

作家
佐藤弓生
出版社
書肆侃侃房
発売日
2015-07-03
ISBN
9784863851870
amazonで購入する

モーヴ色のあめふる (現代歌人シリーズ) / 感想・レビュー

powerd by 読書メーター

ヴェネツィア

佐藤弓生は2001年に角川短歌賞を受賞している。本書は第4歌集。巻頭歌「はじめての駅なつかしい夏の午後きいたことない讃美歌に似て」ー一見わかりやすそうにも見えるし、また不思議な感覚をそこに見ることも可能だ。幻想派歌人と目されているようだが、それも肯ける歌群である。漱石の『夢十夜』や朔太郎の『月に吠える』を俤にした一連の歌もある。また「熱帯の嵐にねむりゆがむまでくだけてさけてちる月」のように実朝の『金槐集』を連想させる(本歌取りと呼ぶには離れすぎているので)歌もあり、なかなかに多彩な歌の世界が広がる。

2024/04/02

夜間飛行

初めの方だけ。《暗闇を泳ぐ生きものだったからまなこをなくしたのねペニスは》…素敵な女の人の前で勃った少年の心になれる。《門をくぐってきたのであろうきみもまた有明の月よりも裸で》…門をくぐって女の人の前に勃つ、月よりも裸で。《脱がされてしずかなひとに雲ひとつないとはなんとこころない野辺》…口遊む、古典和歌のように軽く、柔らかなモーヴ色を反転しながら。《いつか踏むべき火輪を見しや海上の少年ホルヘ/青年ジョルジュ》《天は傘のやさしさにして傘の内いずこも同じモーヴ色のあめふる》…ながいながい人生を見る成熟した眼。

2023/06/08

夜間飛行

「水の父」という題の歌群。《ふる雨にこころ打たるるよろこびを知らぬみずうみ皮膚をもたねば》《ひとはみな産衣を思え遠雷ののちなる夕べ墨のにおいに》《縊死、墜死、溺死、轢死を語りたり夕餉の皿に取り分くるごと》…一首目、官能的なよろこびと湖の死のような静けさ。二首目、記憶なき記憶を呼び覚ます嗅覚の歌。三首目、不吉な言葉のリズムと日常性。死と誕生を静かに見つめる歌々の後、《死を思いやすいからにはわたくしも父の胎から生まれたむすめ》と続く流れがよかった。父が紡いでいた死への思いを受け継ぐむすめ。生の実感が心に迫る。

2023/07/02

カフカ

印象に残った歌。「恨みたい人などなくて雲の縁ほつるるままにわが淡き生」、「ふる雨にこころ打たるるよろこびを知らぬみずうみ皮膚をもたねば」、「この秋夜ひとはあまたの本を読みいかなる本の生も生きない」、「どこにでも地獄はあってゆきずりのひとと凝視める青空の青」、「いまは黄や赤や茶いろのかんむりを脱いで樹王は立ちつくしたり」、「木星の月を思えり木星とからたちの実のかさなる夜に」、「月 木々が枝さしかわしあたためるたったひとつのたまごのように」

2023/11/26

kaizen@名古屋de朝活読書会

#佐藤弓生 #短歌 ステップをおりゆくほどにつまさきはみえない水をさぐる安曇野 天は傘のやさしさにして傘の内いずこもモーヴ色のあめふる けんかしたみずうみふかくしまわれて忘れたことを忘れた小石 みずうみに心臓あらばあらわるるひとつ水紋巨きくあらん 水は父川をよこぎる飛石をミュール片手にわたりゆくとき 自由さもなくば幸福垂直に立つ海あらば選ばずに済む <返歌> 銭葵ヘリオトロープウィステリア紫古代江戸かパープル

2016/08/13

感想・レビューをもっと見る