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ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

作家
磯部涼
出版社
サイゾー
発売日
2017-12-15
ISBN
9784866250908
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「ルポ 川崎(かわさき)【通常版】」のおすすめレビュー

川崎20人殺傷事件など、令和元年に起きた事件の背景を追った『ルポ川崎』著者による骨太なルポルタージュ

本記事には刺激的な表現が含まれます。ご了承の上お読みください。『令和元年のテロリズム』(磯部涼/新潮社)

 ライターの磯部涼氏が2017年に上梓し、第17回新潮ドキュメント賞の候補にもなった『ルポ川崎』(サイゾー)は大変な労作だった。少年犯罪が頻発し、ヘイトスピーチが横行し、治安が悪化の一途を辿っていた川崎市南部の生活に焦点を当て、過酷な生活環境に置かれた人々の日常を写し取った。

 川崎市(特に南部)には未だに深刻な問題が山積しているが、同書では地元仲間で結成されたラップグループ、BAD HOPの成功と活躍が強調されていた。『高校生ラップ選手権』や『フリースタイルダンジョン』といったテレビ番組のバトルで勝ち抜き、日本武道館でライブをやるまでになった彼らの存在は、一筋の光明だったと言える。

〈川崎区で有名になりたきゃ/人殺すかラッパーになるかだ〉(「KAWASAKI DRIFT」)というリリックが示唆するように、『ルポ川崎』は、「成り上がり」を体現した彼らが英雄視されている状況を克明に描出していた。

 だからこそというべきか、磯部氏は、令和元年5月28日に…

2021/6/15

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今後、川崎はどうなるのか? ヤクザか職人か捕まるかが脱出手段だった街の真実

『ルポ川崎』(磯部 涼/サイゾー)

 街に「潜入」したという見せ方のルポは近年もいろいろと出ているが、その実潜入というほど街に入り込んではおらず、通り一遍、通り過ぎるようにサラリと取材し、ウワサ話にすぎないものを膨らませ、あとは資料をさらって書いたようなものも多い。『ルポ川崎』(磯部 涼/サイゾー)はそのようなものとは一線を画す、迫真のルポルタージュである。

「潜入」する街は、川崎。

 それも北西から南東へと長く伸びる川崎市のうち、南東の臨海部、川崎区である。川崎駅のほか京浜工業地帯の中心地として工場を多く抱えるこのエリアは、労働者の街であった。彼らのための住居・ドヤ街や娯楽施設としてソープランド街、ちょんの間、競輪場などもある。また「川崎中一殺害事件」などショッキングな事件の報道もあったように、犯罪の発生も珍しくないエリアだ。一般的には「ガラの悪い」イメージはあるだろう。工業地帯の「おおひん地区」(桜本・大島・浜町・池上町)では、朝鮮半島から渡ってきた在日コリアンの人々が集住し、差別問題とも戦ってきた場所でもある。サラリと取材することなど到底できな…

2018/3/24

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川崎はディストピアか、ユートピアか? 日本の縮図でもある街の姿<インタビュー後編>

『ルポ川崎』(磯部涼/サイゾー)

  中学1年生の男子生徒が殺害された事件以降、神奈川県川崎市は『川崎国』と揶揄され、それ以前から南部の臨海工業地帯は「アレな地域」として、スラムツーリズム(貧困地区への観光)のターゲットにされてきた。『ルポ川崎』(磯部涼/サイゾー)は、そんな川崎に暮らす若者たちを描いている。著者で音楽ライターの磯部涼さんはなぜ、川崎をテーマにルポをまとめたのか。インタビュー後編をお送りする。

■川崎には子どもを、命がけで守る大人がいる  2015年11月、川崎市南部にある桜本という地域で、ヘイトデモがおこなわれそうになった。地元の抗議によりルートが変更されたが、この件があったことで地元愛を意識する子どもたちが現れたと、磯部さんは言う。

「川崎南部は住民同士の繋がりが強い地域ですが、一方でヤクザに絡めとられたり、犯罪やドラッグに染まったりする子どももいます。だから彼らが皆地元を愛しているかと言えば、そんなこともなくて。しかしヘイトデモがあったことで、自身のルーツや住んでいる町について考えるようになった子どももいます。それに対しては非…

2018/1/30

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川崎は「地獄」なのか? 音楽ライターが見たその姿<インタビュー前編>

『ルポ川崎』(磯部涼/サイゾー)

 以前も書いたが私の祖父母はかつて、神奈川県川崎市南部の桜本というところに住んでいた。

 桜本は臨海工業地帯にあって空気が悪く、昭和の頃は工場の塀にペンキで「○日に××を殺す」と書いてあるような場所だった。だから私は訪ねるたびに、「早く帰りたい」と子供心に思っていた。

 音楽ライターの磯部涼さんによる『ルポ川崎』(サイゾー)は、臨海地区を中心に川崎で生きる者の姿を描いている。ヤクザやドラッグ、犯罪や貧困などと隣り合わせで子どもたちが育つこの町では2015年、中学1年生が殺害され多摩川の河川敷に遺棄される事件が起こった。

 同書の帯に「ここは、地獄か?」とあるように、磯部さんの目にも川崎は地獄と映ったのか。お話をうかがった。

■川崎は日本が抱える問題を凝縮した町  磯部さんは千葉県千葉市の出身で、これまでは川崎駅前のライブホール・クラブチッタに行くことはあっても、それ以外に足を延ばす機会はほとんどなかったという。

「僕が『川崎って、こういう場所もあるんだ』とはじめて気づいたのは、本にも登場する『DK SOUND』っていう…

2018/1/29

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ルポ 川崎(かわさき)【通常版】 / 感想・レビュー

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honyomuhito

11人が死亡した放火火災事件現場の側の公園に、酩酊した中学生と子供をジャングルジムで遊ばせる母親、ストロングゼロを片手に遊具に乗る老人がいる。ほんの10メートル先には川崎警察署がある。この何もかもがごっちゃになって共存する場所はなんだ。作中の青年たちは、音楽やスケートボード、ダンスを使って自己表現をしようとする。皮肉にも、川崎という街の忌むべき部分が、彼らにラップという音楽をもたらしている。彼らは決して川崎を嫌ったり、憎んでいるばかりhttps://chirakattahondana.com/ルポ-川崎/

2018/07/16

fwhd8325

この著書で書かれているほど、川崎にはあまり悪い印象は持っていない、あの中学生の事件にしても、当時近くで暮らしていた「女子高生コンクリート殺人事件」の方が街へ与えた影響は大きいと思っています。この著書で、どれだけ有名な方か今ひとつわからないのですが、ラッパーやヒップホップの世界で有名な方を輩出されていることで、あの坂本九さんも川崎の出身だったと思い出しました。環境の悪さは感じますが、日本の文化を担うアーティストが登場する土壌には不思議な魅力があるに違いない。

2018/08/25

ばんだねいっぺい

 音楽を入り口とした川崎の実態を描くルポ。ゾッとする一文が結構、出てくる。後半に友川カズキが登場したのには驚いた。ノワール小説も顔負けな現実が鵺のように横たわるが、たくましくも希望に向かって進む一群があることを嬉しく思った。

2018/05/05

おかむら

海外旅行に行くと、この地区は危ないから行ってはダメと言われる場所がありますが、このルポの川崎がまさにソレ。サウスブロンクスみたいだ。著者が音楽ライターなのでラップやダンスやスケボーといったヒップホップ文化?から迫る街ルポ。不良でも陽性の部類。同じ川崎でも石井光太の「43回の殺意」の方は陰気(オタク)の不良なので読み較べると面白い。

2018/03/14

チャーリブ

題名どおり川崎(主に川崎区の)ルポルタージュ。雑誌「サイゾー」の連載記事(2016年〜2017年)を大幅に加筆修正したもの。2015年2月には、地元の中学1年生が多摩川の川原で惨殺されるという衝撃的な事件が起こり、日本中の目がこの地域に注がれた。この悲劇の素地は、ルポにあるように貧困と暴力のしがらみの中で生きざるを得ない若者たちの状況にあるに違いない。川崎出身の人気ラッパーやスケーター、ダンサー、格闘家など若者たちの新しい可能性が描かれていて、必ずしも暗いムードではない。写真もよく撮れている。○

2022/06/20

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