地獄も夏が旬。水木しげる生誕100年! この夏は「妖怪・地獄さんぽ」へ! 『散歩の達人』編集長コラム

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更新日:2022/6/28

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散歩の達人』7月号(交通新聞社)

 こんにちは。散歩の達人編集長の土屋です。

 今年は『ゲゲゲの鬼太郎』でおなじみの水木しげる先生の生誕100年。ただでさえ、ちょっと怖い話が気になる季節なのに、7月8日からは六本木ヒルズで「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展」も開催! 妖怪への興味はいやが上にも盛り上がってくるというものです。今月号では、巻頭で「品川・大井町・大崎」を特集している一方、もうひとつの特集「東京 妖怪・地獄さんぽ」で、この記念すべき年の気になる妖怪と地獄に関する特集をお届けしています。

 今回のコラムではこの「妖怪・地獄さんぽ」特集についてご紹介。水木先生生誕100年だから妖怪、というのはわかりやすいですが、地獄だって夏が旬。「地獄の釜明け」は1月と7月の16日に行われるのですから。今年の7月16日(8月16日の地域もあり)も各地の閻魔堂が御開帳されたり、秘蔵の地獄絵が公開されたりします。水木先生も異界を初めて意識したのはお寺の地獄絵を見たときだったとか。地獄と妖怪、なにかつながるものがあるかもしれません。

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品川・長徳寺の閻魔像。この両隣に十王と奪衣婆などが安置されている。

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品川・長徳寺の六道絵(地獄絵)。閻魔堂には大きな襖ほどの絵が5幅かけられている。

 個人的にはこの地獄の世界に興味があり、プライベートでもいろんな場所の閻魔堂に行ってきました。閻魔堂には閻魔大王像だけがあるわけではなく、閻魔像はなくても奪衣婆(三途の川で亡者の死に装束をはぎとる鬼)像だけあったり、閻魔像を含めた十王(地獄において亡者の審判をする10人の王)像まであったりします。とくに奪衣婆はそれぞれ個性が強く、存在感もあるので、いつも気になる存在。十王像があると秦広王や初江王はどれかとかつい探してしまいます(判別しにくいですが)。奪衣婆については本誌特集内の「奪衣婆は甲州街道をひた走る!」をご覧いただき、十王が気になる方はぜひ、北鎌倉の円応寺へ。このお寺では十王の像自体も大きく、それぞれの詳しい説明もあって飽きません。

 特集内でも紹介していますが、地獄絵も細かく見れば見るほど興味深いもの。本誌では、大特集のエリアにある長徳寺の地獄絵を紹介していますが、こちらも閻魔堂も7月16日の午後に御開帳されるそうなのでぜひ見に出かけてみてください。5幅の地獄絵と閻魔を含めた十王、そして奪衣婆もいます。そのほか都内では深川ゑんま堂もいい。本館1階には地獄絵の複製が16幅ずらり並んでいて、しかも地獄の釜明けの日以外でも毎日見ることができます。私は未見ですが、春日部市の圓福寺にはレリーフの地獄絵もあるとか。ここ数年コロナの影響で開催されていないものの、毎年4月第一日曜のお祭りの日に御開帳されるそうなので、来年こそは見に行きたいものです。

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法乗院 深川ゑんま堂の閻魔像。寄木造りで高さ3.5m、幅4.5mある。
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深川ゑんま堂の地獄絵にあった三途の川のほとりにいる奪衣婆。亡者からはぎとった死装束を衣領樹にいる懸衣翁?に渡している。

 今回の特集では「日本一のリアル三途の川をガチ渡り」として、千葉県の長南町を紹介していますが、千葉県に残された地獄関連スポットにはすごいものが多いんです。誌面で紹介した三途川は、取材担当の中野さん曰く「日本一長い」三途の川だし、前述の深川ゑんま堂の地獄絵の元絵があるのが南房総市の延命寺所蔵のもの(8月16日に公開)。なにより日本で唯一、地獄仮面劇「鬼来迎」が鎌倉時代から続いているのがすごすぎる。横芝光町の広済寺で行われるこの鬼来迎、演者や衣装整備などすべて地元の人で行われる民間芸能。鬼婆(奪衣婆)や閻魔大王、俱生神はもちろん、鬼までカッコよく見える地獄劇なのです。昨年はコロナの影響で中止されましたが、今年は開催予定とのこと。地獄好きなら一度は見てほしいものです。

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横芝光町の「鬼来迎」を紹介した、散歩の達人MOOK『きらり千葉』(2015年刊)もぜひご覧ください。

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群馬県甘楽町の三途川沿いにある姥子堂には、少し笑顔の奪衣婆がちゃんといた。

 特集では地獄以外にも、妖怪研究家の多田先生に取材した「多田先生に訊け! 東京怪異探訪」(武蔵新田の頓兵衛地蔵が怖い…)や「画図百鬼夜行にみる“かわいい”怪異」(かわいいのか、という妖怪もいるが…)、「“鬼太郎”の調布周辺を歩く」(『墓場鬼太郎』の絵が怖すぎる…)も掲載。もっともっといろんな妖怪&地獄スポットを紹介したかったのですが、ページ数の関係でやむなく断念した企画もあるので、次回を乞うご期待!

 また、大特集「品川・大井町・大崎」の方も酒場やグルメはもちろん、さまざまな企画がてんこ盛り。「品川宿で、タイムスリップ!」「SHINAGAWA1930におじゃまします!」「我が道喫茶にようこそ」「シーン別“おじ菓子”案内」「実は身近な鉄道遺構つたい歩き」「エレガントな名坂たち」「この街はミュージアムがおもしろい!」などなど盛りだくさん。

 夏だからこそ楽しめることは多いものです。妖怪や地獄もそのひとつかも。本誌を参考に、この夏はちょっといつもと違った散歩を楽しんでいただけるとうれしいです。

土屋広道(つちやひろみち)
1972年埼玉県生まれ。関西学院大学社会学部卒業後の1996年に株式会社弘済出版社に入社(合併を経て2001年に株式会社交通新聞社)。『鉄道ダイヤ情報』『旅の手帖』編集部を経て、2008年より『散歩の達人』編集部所属。2017年11月号より同誌編集長。

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