「アマゾンに売り上げを奪われているのは大型書店」アメリカ、ドイツ、京都…独立系書店の強み。〈文化通信コラム第1回〉

社会

2018/2/10

 このたび、ダ・ヴィンチニュースでコラムを担当することになった文化通信の星野渉と申します。

 文化通信といってもご存じない方も多いと思いますが、新聞業界や出版業界を対象にするいわゆる業界紙です。このコラムでは、1カ月に1回ほどのペースで、本の、主に業界にまつわるお話しをしていこうと思っていますので、よろしくお願いします。

 このところ、出版に関係するニュースが一般の日刊紙新聞やテレビなどでも取り上げられることが多いと感じます。先だっても日本経済新聞が1月24日付朝刊2面(総合1)トップで「物流危機が迫る出版改革」、続いて同26日朝刊13面(企業総合面)トップで「出版、砦のマンガ沈む」と出版業界の危機を大々的に報じました。

 これほど大きく報じられるのは、出版業界が転換期にあるからです。

 まあ、「転換期」という言葉はメディアなどで頻繁に目にする使い古された表現ですから、新聞を見ていると「いつでも転換期じゃないか」と突っ込みたくなります。ただ、我々の目の前で進行している出版業界の変化は、日本国内では150年ぶり、欧米社会では500年ぶりという大きな節目なのです。

 このコラムでは、そうした大きな変化の中で、実際に皆さんの周りで起きていることが何を意味し、これからどのようになるのかを、日々の事象を通して考えていく場にしたいと思っています。第1回目は本屋さんについてお話しします。

本屋が減っている理由

 本屋さんの数が少なくなっていることも最近、頻繁に報じられているので、何となくご存じの方も多いと思います。どのぐらい減ったのかというと、いまから20年以上前の1990年代に全国で2万3000店ほどあった本屋さんが1万2000店ほど、さらに本部や営業所、雑誌だけ置いてあるスタンドなどを除くと、1万店以下になっていると思われます。

 これだけ本屋さんが減った理由ははっきりしています。雑誌が売れなくなってしまったことが最大の原因です。

 もともと日本は他の国に比べて本屋さんの数がとても多いのです。例えば超大国アメリカには640店舗を擁する世界最大の書店チェーン「バーンズ&ノーブル」がありますが、トータルの書店数は5000店ほどだと思われます。ヨーロッパで比較的多くの書店が存在するドイツでも、国内に3000店、ドイツ語圏のオーストリアやスイス、ベルギーの一部などを含めても5000店といわれています。

 しかし、アメリカやドイツの書店は、日本と違って雑誌をほとんど販売していません。こういう国の書店は「BookStore」、すなわち「書籍店」なのです。日本に書店が多かったのは、書籍も雑誌も販売する小規模なお店である「街の本屋さん」が数多く存在したからです。

 そういう日本型の「街の本屋さん」は、雑誌によって経営を支えてきました。本屋さんの食い扶持だった雑誌の販売冊数は、1995年には1年間に39億冊以上でしたが、2016年には約13億冊と3分の1に減少しました。雑誌に依存していた「街の本屋さん」が減るのは当然なのです。

書店はなくなってしまうのか

 では、本屋さんはなくなってしまうのか。

 僕は、今のままの出版業界の構造が続けば、そうなってしまいかねないと思っていますが、一方で、本屋さんにはまだ存在価値があり、それを求める人々も一定数はいると思っています。

 そう考える根拠の一つが、アメリカやドイツで小規模な書店、日本でいうところの「街の本屋さん」が増えていたり、明るい将来展望を描いているからです。

 先に挙げた巨大書店チェーンやアマゾン、さらにはウォルマートといった巨大ディスカウントストアとの競争に晒されているアメリカの小規模な「独立系書店」は、1990年代から2000年代にかけて約5000店から約1600店へと激減しましたが、2009年に反転し2010年以降は毎年増えています。

 その理由は、アマゾンなどネット販売が拡大して価格競争が激しくなり、大手チェーン書店が店舗を減らしたり、ディスカウントストアの書籍販売シェアが低下しているからです。画一的な品揃えになりがちな大手チェーン店に比べて、独立系書店は本に詳しい店主や従業員が店頭にあるすべての本を選び、カフェスペースなども提供し、本好きのお客さんが楽しめる空間を提供しているからです。

 ドイツでも、以前訪ねたハンブルクの小規模書店で、女性店主が「アマゾンに売り上げを奪われているのは大型書店です。我々のように小規模でカフェを備えたようなお店は増えており、ポジティブです」と話していました。

2009年、ニューヨークのブルックリンに地域住民の要望で開店。その後成長を続け、2016年秋には2軒目を出店した

ドイツのハンブルグで2008年に開店した独立系書店。経営者の女性は「小さい書店はポジティブです」と語った

変わる「街の書店」

 アメリカやドイツの独立系書店を訪ねると、小規模であっても、それぞれが独自の品揃えをした書店空間は、今でも人々から求められているということを実感します。

 それは何も外国だけではなく、日本でも京都にできた誠光社や、東京にできたTitleのように、店主が吟味した品揃えを提供するような個人書店が注目され、それなりに成立しています。

京都にある恵文社一乗寺店の店長だった堀部篤史さんが2015年12月に開いた書店

2016年1月に元リブロの辻山良雄さんが東京の荻窪に開店した個人書店

 かつての「街の本屋さん」は、近所の商店街に必ずあって、雑誌をはじめ生活実用書や話題書、文庫、コミックなど少しずつ幅広く本を揃えたお店でした。

 しかし、大型書店のミニチュア判ともいえるこうした「街の本屋さん」は役割を終え、これからの「街の本屋さん」には、嗜好性の高い品揃えで豊かな時間を過ごせる場所が求められているのでしょう。これは、ネット社会において本のあり方が変わったということでもあります。

 それでも、日本の出版業界が今のままであったら本屋さんがなくなりかねないと書いたのは、雑誌に依存してきた日本の本屋さんは、書籍が売れても食べられない構造だからです。

 アメリカやドイツでは書籍の価格は日本より相当高く、書店が得る利幅も日本の書店の倍程度あるため、大手チェーン書店などが撤退して書籍の売り上げを確保できさえすれば、小規模な書店が本好きの従業員を養いながら十分に経営を維持できるのです。

 ですから、日本でも本屋さんが書籍を販売すれば食べていける業界構造にしていけば、これまで以上に魅力的な本屋さんが登場することも可能だと思うのです。そうやって本の世界の変化に合わせて本屋さんの姿も変えていくことができるのか。僕たちはその曲がり角にいるのだと思います。

星野渉(ほしの・わたる)編集長
1964年東京生まれ。株式会社文化通信社常務取締役編集長。NPO法人本の学校理事長、日本出版学会副会長、東洋大学(「雑誌出版論」2008年~)と早稲田大学(「書店文化論」2017年~)で非常勤講師。著書に『出版産業の変貌を追う』(青弓社)、共著に『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社)、『出版メディア入門』(日本評論社)、『読書と図書館』(青弓社)など。