出版流通の危機を読み解く① 取次という仕組み―日本は出版天国でした〈文化通信コラム第2回〉

社会

2018/3/21

 いま出版業界で最大の課題は、戦後日本の出版業界を成長させる原動力であった流通網が維持できなくなりつつあることです。それは、出版流通を担ってきた「取次」の日本特有のあり方が、デジタル化の影響を受けて危機的状況に陥っていることに起因します。その「取次」はどのようなものなのか、そしてなぜ危機的な状況に陥っているのかを、数回にわたって書いてみたいと思います。

 出版に興味をお持ちの方なら出版業界に「取次」と呼ばれる会社が存在することはご存じでしょう。要は書籍や雑誌を出版社から仕入れ、書店に卸している問屋の機能を果たしている会社です。日本出版販売(日販)とトーハンが大手として知られています。

 この「取次」は日本にしか存在しないと思われます。海外にも本の卸会社はあるのですが、雑誌と書籍を一緒に扱うところはありません。また、書店が書籍、雑誌を仕入れる場合、日本ほど取次経由で仕入れる比率が高いという国もほかにはないと思います。

 そもそも「取次」は明治時代に雑誌を配送することでスタートしました。大正時代にその雑誌配送ルートに書籍を載せて運ぶようになったことが、いまの「取次」の形につながっているといわれています。

 ちなみに、雑誌の流通に書籍を初めて載せたのは、講談社を創業した野間清治で、それは関東大震災直後に刊行してベストセラーになった『大正大震災大火災』という図録だったそうです。震災という非常時に、当時のベンチャー企業であった講談社を創業した野間清治が編み出した、まさにイノベーションによって生み出された仕組みだといえます。

 そして、毎日のように書店などを回っている雑誌配送網に書籍を載せることで、本来であれば1冊ずつ運ばなければならない書籍を、他の国々に比べて大変安いコストで流通させることを可能にしました。日本の書籍が諸外国に比べて安いのは、これが最大の原因です。

 しかも、「取次」は新しく出る書籍を自動的に割り振って書店に配送する「配本」ということを行っています。これも日本にしかみられないものです。日本以外の国では一般的に、出版社はこれから刊行する書籍の情報や見本版を、発売の半年、短くても3カ月前には書店などに届けて注文を取り、発売後に注文した書店に配送します。

 しかし、「配本」は書店が注文していなくても、書店の立地や規模(売り場面積等)、過去の販売実績などに応じて新刊書籍を届けています。「配本」を使えば、出版社は発売前に書店から注文を集めたりする必要がないのです。ですから、日本の出版社は他の国と比べて営業担当者の数が少ないなど、営業活動にかかる費用も安いのです。

 第二次世界大戦後、日本の出版産業は「取次」があったおかげで、書籍、雑誌、マンガ、文庫など次々に大衆向けの安価な出版物を全国に流通させ、アメリカに次いで世界第2位の市場規模に成長することができました。当時、日本ほど出版をしやすい国はなかったでしょう。他の国(社会主義、共産主義の国は別ですが)の出版社からみれば、まさに「出版天国」に見えたと思います。

 ではなぜ成長の原動力だった「取次」が危機を迎えているのでしょうか。(続く)

星野渉(ほしの・わたる)編集長
1964年東京生まれ。株式会社文化通信社常務取締役編集長。NPO法人本の学校理事長、日本出版学会副会長、東洋大学(「雑誌出版論」2008年~)と早稲田大学(「書店文化論」2017年~)で非常勤講師。著書に『出版産業の変貌を追う』(青弓社)、共著に『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社)、『出版メディア入門』(日本評論社)、『読書と図書館』(青弓社)など。

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