日本のことはぜーんぶマンガが教えてくれた! 史上最強のうるし学習マンガを知っていますか? 【第2回『青春うるはし! うるし部』堀道広】

マンガ

公開日:2018/6/1

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■隔月刊の雑誌の編集長ってひまでいいね!なにー!!!

 ダ・ヴィンチニュースをお読みのみなさんこんにちは。隔月刊で日本文化の魅力を伝えている雑誌『和樂』編集長のセバスチャン高木です。私が編集長をさせていただいている和樂という雑誌は隔月刊、そう、2ヶ月に1回の発売ということでよく言われることがあるんです。それはこんな言葉。「セバスチャンっていいよね。だって2ヶ月に1回雑誌をつくればいいんでしょう。私なんて毎月だよ。いいなぁひまで」。え? ひま? って言いましたね(怒)。

 今、私はそんな言葉を聞くたびにはらわたが煮えくりかえる思いでいるのですが、そこはね、もう50も近い大人ですからぐっと我慢して、「えへへー、いいでしょ。ひまで」なんてお茶を濁しているんです。しかしながら! ダ・ヴィンチニュースをお読みの皆さんには真実を知っていただきたい。私、発売が2ヶ月に1回だからと言って入稿や校了がない月は、趣味の仏像巡りを満喫したり、大好きなマンガを読みまくっているわけではないんです。では何をしている?と言いますと、最近はものづくりといいますか、商品開発をしているんです。

 和樂は日本文化の入り口マガジンを謳っています。ですが、別に入り口って雑誌だけじゃなくてもいいですよね。ウェブだろうが、イベントだろうが、グッズだろうが、それが日本文化って楽しいよーっていうメッセージを発しているのであればなんでもいいんです。というわけで、入稿や校了がない月は、みなさんが日本文化に興味を持っていただけるような日本文化の入り口グッズを日々絶賛開発中なんです。え?どんなものをつくってるか? ですって。はい、それは下の写真のような商品です。

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昨年日清食品と和樂のコラボレーションで実現したカップヌードル専用縄文Doki★Dokiクッカー。59800円という価格にも関わらず15分で完売しました!

■「カップヌードル専用縄文Doki★Dokiクッカー」ってなんだ?

 かの岡本太郎さんがひと目見て「なんじゃこりゃ」と言ったという縄文土器。なかでも新潟の十日町市博物館所蔵の火焰型土器は見るものを圧倒する迫力に満ちています。しかも、この土器、実際にどんぐりなどの実を煮炊きするのに使われていました。この縄文土器が登場することによって縄文人は食べものを煮炊きすることが出来るようになり、定住生活につながっていったとも言われています。縄文土器は日本人の食にとってものすごい革命だったのです。

 一方、日清食品の創業者である安藤百福さんが発明したカップヌードルはというと、この発明によって麺がどこでも気軽に食べることができるようになりました。だってふたを開けてお湯をかけて3分待てばおいしいラーメンが食べられるんですよ!浅間山荘事件で機動隊の方々が立ったままカップヌードルを食べるシーンで有名になりましたが、これもまた日本の、いや、世界の食スタイルを変える一大革命です。

 縄文土器とカップヌードル、この日本の食史上に燦然と輝くふたつの革命をくっつけたい。さらにはカップヌードルファンの方にも縄文土器の魅力を知っていただきたい。そんな思いを持ってつくってみたのが、カップヌードル専用縄文Doki★Dokiクッカーなんです。しかも制作をお願いしたのは、民藝運動の立役者バーナード・リーチが愛した愛知県の瀬戸本業窯。涙がちょちょ切れる秘話がいっぱいの物語はぜひぜひ下記リンク先をごらんください。

https://intojapanwaraku.com/info/20171102/25746

日本オリジナルのうるし。写真は会津名物こづゆが入った会津塗のお椀。

■縄文時代にすでにうるしは存在した!

 とりあえず縄文土器の話はおいといて、縄文と言えばもう一つ重要な発明、いや、発見があったことを忘れてはなりません。それがうるしです。英語で漆器のことをjapanといい海外では日本の特産品として知られているうるしですが、日本では9000年前からその存在が確認され、世界最古とされています。青森の三内丸山遺跡をはじめとし、さまざまな縄文遺跡からうるしを使った器や祭の道具が発掘され、縄文人の生活にうるしが重要な役割をはたしていたことが最近の研究でわかってきました。

 9000年もの昔から日本人の生活に密着に関わってきたうるしですが、その仕組み、工程たるやあまりに複雑で、何回読んでもちんぷんかんぷんです。木地やら、下塗りやら、研ぎやら、もうだめーっとなっているころ、出合ったのが史上最強のうるし学習マンガ『青春うるはし! うるし部』でした。やっぱり、マンガってありがたいですね。

『青春うるはし! うるし部』(堀道広/青林工藝舎)

■この作品はうるし版ゲームセンターあらしだ!

 でも、うるしって木地を作ったり、うるしを塗ったり、そんな地味な作業がマンガになるの?という疑問をお持ちの方はコロコロコミック躍進の立役者となったすがやみつるの『ゲームセンターあらし』を思い出しください。作者のすがやみつるは最初「座って遊ぶゲームなんてマンガになるわけない!」と思ったそうです。ですが、「ゲームが動かないのであれば主人公が動けばいい!」と思いいたり、あの必殺技の数々が生まれたのだとか。

ゲームなんてマンガになるわけないという常識をうちやぶったすがやみつるの『ゲームセンターあらし』。

 一秒間に200万回手のひらをゲームのレバーに打ち付けることによって生じる摩擦熱を利用した「炎のコマ」、あるいは、ジャンプし身体をひねりながら頭から急降下する「月面宙返り」など、「ゲームセンターあらし」は、一見ゲームとは関係ない動きを取り入れることによって、史上空前のゲームブームを生むマンガとなったのです。

 ね、どんな題材でもマンガになることがわかったでしょ。このエピソードを読むといつも私は、往年の名レスラー、リック・フレアーが言った「私はほうきとでもプロレスをしてみせる」という言葉を思い出してしまうのです。

「ゲームセンターあらし」と同じく、「青春うるはし! うるし部」では、主人公の漆原塗平(うるしはらぬりへい)が木地の狂いを止める木地固めを「必殺木地固め!!」と言いながら、逆立ちになって自分を回転させて作業をしたり(これは間違いなくゲームセンターあらしへのオマージュですね)、水の代わりにうるしを満たしたプールでうるし泳対決をしてうるし部の危機を救ったりと、およそマンガにはなり得ないうるしを青春部活マンガとして成立させているのです。このマンガがなぜ世の中でそんなに知られていないのか? そして、なぜ日本中でうるしブームが巻き起こらなかったのか?私にはそれが疑問でならないのです。

■欠点はキャラが濃すぎてうるしの話が頭に入らないこと!

 そして、マンガにおいて何をおいても重要なのは登場人物たちのキャラクターです。古くは『あしたのジョー』における力石徹、『北斗の拳』におけるハート様、『私立極道高校』における学帽政など、強烈なキャラクターの存在は名作マンガには欠かせない存在です。

『青春うるはし! うるし部』はこの点においても名作と呼ぶにふさわしいキャラクターをそろえています。うるし部の象徴的存在であるぼろぞうきん先生は、今は汚いぞうきんですが、元は日本におけるうるしの祖という設定。顧問の松田権作はうるしの鬼と呼ばれた実在の人物松田権六を想起させますし、O国大統領候補なのに占い師の予言で日本に留学したバーナード・ピーチは、民藝運動のバーナード・リーチをもじっています。そして、最強の敵村上ゆう子の恐ろしいヒミツなど、うるし好きなら思わずくすっとなるか、顔を真っ赤にして怒り出すかどちらかという強烈キャラの数々もこのマンガの見どころのひとつです。

 ただ、ひとつ欠点を言えば、あまりにキャラが濃すぎて肝心のうるしのことが頭に入ってこないということかもしれません。その存在たるや、まるで先日行われた日大アメフト部の監督とコーチの会見の司会者のようです。実を言うと私も一度目はまるでうるしに目が行きませんでした。ですが、二、三度繰り返し読んでいるうちに、しっかりとわかりやすくうるしのことを学ぶことができるという怪作マンガです。

 しかも作者があとがきで「輪島塗の修行、社寺建築の漆職人、御徒町の漆屋さんなど、(中略)13年くらい体験取材しないといけない(後略)」と書くように、本作は作者の長年の経験に裏付けされていて、おふざけが効いたキャラクターとは反対に、その内容たるや実に本格。うるしの技法、歴史、現状の問題などをしっかりと学ぶことができる大人のうるし学習マンガとしては、世界で唯一無二の存在です。

 さあ、『青春うるはし! うるし部』であなたも日本が誇るうるしのことをもっと学んでみませんか?

セバスチャン高木
1970年生まれ。大学卒業後2年間、ヨーロッパ、北アフリカを中心にバックパック旅行を経験。テレビの制作会社を経て小学館入社。『Domani』7年、『和樂』15年の編集を手がける。好きなもの:仏像巡り、土門 拳、喫茶店、マンガ

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