本が売れても食べられない書店とは? 出版流通の危機を読み解く③

ビジネス

公開日:2018/8/20

 書籍と雑誌を商品として比べると、書籍は非効率で雑誌は効率が良いといえます。もちろん、これは内容のことではなく、商品として利益を稼げるのかという視点での話です。

 雑誌は定期的に発行されますから、購入される数などを予想するのは容易ですし、1点(1号)あたりの発行部数が約6万冊と多く、配送先もほぼ毎号決まっているのでロットでの輸送が可能です。

 一方、書籍は毎回が新しい商品なので、売れるかどうかは「出してみなけりゃわからない」ケースがほとんどです。しかも、新刊は年間で7万タイトルほど刊行され、1点あたりの発行部数は5000冊程度と、工業製品としては小さなロットです。さらに、書籍は代替性に乏しい商品なので、お客さんの需要はほとんどの場合1点につき1冊。このため、1冊単位の注文が大量に発生するのです(最たるものはネット書店です)。

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 こうした商品特性を流通や販売の面から見れば、いかに書籍の効率が悪いのかがわかると思います。出版流通を担う取次の書籍部門がずっと赤字だったのいうのはこのためです。それでも取次が経営してこられたのは、雑誌で得る利益が書籍の赤字を補ったからです。

 意外に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、書籍と雑誌を両方販売している書店は、日本以外にはほとんどありません。欧米の雑誌は定期購読(読者に直接送付)が多く、店頭販売は定期購読を促すためのプロモーションの意味合いが強いのです。

 日本では、取次や書店で書籍と雑誌を両方扱っています。その結果として流通段階では、雑誌の利益で書籍の赤字をカバーする「内部補助」の構造ができました。そのことが、海外に比べて日本の書籍の価格が低い原因になっています。要は、「書籍で儲ける」という発想を持たずにきたわけです。

 もし書店が書籍だけを販売したとしたら、経営は成り立ちません。これは、取次各社が発行している書店の経営指標を元に計算してみればすぐにわかります。家賃や人件費といった固定費をどんなに低く見積もっても、書籍で得る利益では赤字になってしまいます。

 このため、この20年余で雑誌の市場が3分の1以下に縮小したことで、書店、特に雑誌の販売比率の高い小規模書店が急速に減少したのです。

 アメリカでは小規模書店が増えているといいますが、例え日本の書店がアメリカの書店と同じことをしたとしても、経営が改善することはありません。なぜなら、アメリカの書店はもともと書籍で食べてきたため、日本とは書籍の価格、利益率がまったく違うからです。

星野渉(ほしの・わたる)編集長
1964年東京生まれ。株式会社文化通信社常務取締役編集長。NPO法人本の学校理事長、日本出版学会副会長、東洋大学(「雑誌出版論」2008年~)と早稲田大学(「書店文化論」2017年~)で非常勤講師。著書に『出版産業の変貌を追う』(青弓社)、共著に『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社)、『出版メディア入門』(日本評論社)、『読書と図書館』(青弓社)など。

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