日本のことはぜーんぶマンガが教えてくれた!「アートってなんだろう?」【第6回『モディリアーニにお願い』相澤いくえ】

マンガ

公開日:2018/10/11

上野で開幕したフェルメール展に合わせてフェルメールグッズもいっぱいつくっちゃいました。あっという間に完売した商品も絶賛再生産中! 写真左が「牛乳を注ぐ女」をモチーフにした備前焼ピッチャー、右がフェルメールエプロン。
https://www.pal-shop.jp/ippin/waraku/

超話題の「フェルメール展」が遂に開幕!!!

 いやー、遂にはじまりましたね。え、何がって? それはもしかしたら日本人が今一番好きな画家かもしれないフェルメールの展覧会がです。

 では、オランダが生んだ天才画家、フェルメールとはどんな人だったのでしょう? 少しだけ発売中の『和樂』10月号「若冲とフェルメール、美の三原色」から紹介しましょう。
https://intojapanwaraku.com/waraku

「真珠の耳飾りの少女」の落札価格はたった1万円でした!

 フェルメールが活躍したのは、オランダ絵画黄金時代と呼ばれる17世紀。“光と闇の魔術師”レンブラントもこの時代の画家です。フェルメールが20歳で独立した1653年には、レンブラントが47歳。ふたりの年齢差は27歳でした。「夜警」などで名をはせていた巨匠を、フェルメールはいやでも意識したでしょう。同じころ、ベルギーではルーベンス、スペインではベラスケス、日本では浮世絵の菱川師宣や狩野派の狩野探幽が活躍中でした。

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 謎多き画家として知られるフェルメールですが、一番の理由は作品数の少なさかもしれません。活動期間20年で描いた作品は約50点、研究者によって見解は異なりますが現存する作品数は35。今や100億円以上の価値があるといわれる名作「真珠の耳飾りの少女」も、フェルメールの没後2世紀を経た1881年に競売にかけられた時はわずか2ギルダー(約1万円)で落札されたと言うのですから、驚き桃の木山椒の木です。

 今回のフェルメール展では現存する35点のうち9点もの作品が東京に集結。しかも、フェルメールの作品だけを展示するフェルメールルームが登場するということで大注目の展覧会となっているのです。

フェルメール展の公式サイトはこちら。
https://www.vermeer.jp/

パリで超絶人気の「若冲展」は10月14日まで。

フェルメール展にも負けない展覧会がパリで開催中!

 そして、あまりに知られ過ぎていないことですが、実は今、パリでとんでもなく注目を集めている日本美術の展覧会が開催中です。それが10月14日までフランスパリにあるプティパレで行われている「若冲―〈動植綵絵〉を中心に」展です。

 いわずとしれた伊藤若冲は、現在の日本美術ブームのきっかけとなった存在。2016年に東京で開催された展覧会では3時間待ちとも4時間待ちとも言われる入場待ちの行列ができたことでもはや伝説ともなりました。ですが、その時出品された宮内庁所蔵の「動植綵絵」は、若冲の誰しもが恐れおののく奇想、超絶技巧という一言では片付けられないテクニック、そして、生きとし生けるものすべてに慈愛の目を注ぐ仏教への帰依心が込められ、3時間4時間待ってでも拝見したい日本美術屈指の名作です。

 その「動植綵絵」全30幅が海を越えて遠くパリに渡り、今や目の越えたパリっ子たちを虜にしています。ですが、なぜこの件に関しての情報がこんなに少ないのでしょう? もう少し注目されてもいいのになぁなどと思う今日この頃です。

 今回の若冲展はパリで開催中のジャポニスム2018の一環として行われたものです。そのほかにも国宝が多数出品される「縄文展」や俵屋宗達の「風神雷神図屏風」「蔦の細道図屏風」などが展観される「琳派展」も開催されるので公式サイトをぜひチェックしてみてください。
https://japonismes.org/officialprograms

モディリアーニにお願い」。ほんと、アートってなんなんでしょうね。

日本にはアートの概念がなかった!

 いや、フェルメールも若冲もアートって本当にいいですね。なんて、のんびりと言っていますが、ではアートっていったいなんなのでしょう? よく言われることですが、明治という時代を迎えるまで日本にはアート=芸術という概念がありませんでした。

 信長、秀吉といった権力者に愛された狩野永徳、今や海外でも大人気の俵屋宗達、尾形光琳といった琳派、奇想の系譜の代表伊藤若冲、今なお続く京画壇の立役者円山応挙まで、桃山~江戸時代のスター絵師たちはアーティストではなく職業絵師であり、日本美術は床の間を飾るため、あるいは寺院や天守閣などの空間を荘厳するための装飾でした。

 その装飾に対して、明治時代に無理やりアート=芸術というヨーロッパから輸入した概念を後付けしたため、今私たちは「アートってなんだろう?」問題に悩まされているのです。だってそもそもなかったんだからしょうがないですよね。

 そして私たち以上に真剣にアートに対峙し、「アートってなんだろう?」問題に命がけで取り組んでいかなければならないのが、美大生たちです。今回紹介する『モディリアーニにお願い』もそんな美大生たちの日常に焦点を与えた作品です。

大きな感情も小さな感情も等しく描く

 舞台は東北地方にある誰でも入ることができる小さな美大。壁画の千葉、西洋画の藤本、日本画の本吉の3人が繰り広げる美大生の日常が丁寧に描きだされます。決してドラマティックな物語があるわけではなく、派手な描写があるわけではなく淡々と進む物語。ですが、そこかしこに普段なら見過ごしてしまいそうな喜びや悲しみ、嫉妬、失望、あきらめなどさまざまな感情が散りばめられています。

 壁画の千葉はガラスでグッピーをつくっています。彼はそのグッピーを小さなものも大きなものも失敗したものも全部同じ値段をつけて、しかも名前をつけて販売しています。当然のことながら小さいものや失敗したものは売れません。ですが千葉は頑なに値段を変えようとしません。なぜなら彼にとってそれらはすべて等しく大事な何かだからです。

 本作で作者が描こうとしているものはそんな何かなのではないかと感じられます。天才の成功や苦悩だけを描くのではなく、才能がないものの挫折や再起だけに焦点をあてるのではなく、大きな感情も小さな感情も大きな物語も小さな物語も等しく描いていく。それらの感情や物語は決して解決したり完結したりするものではない、そんなことを私たちに伝えてくれるかのようです。

 物語の中で、3人の主人公たちは、あるいは、それ以外の登場人物たちも「アートとは何か?」にそれぞれの姿勢で臨んでいきます。そのことに悩み傷つく姿はアート論が確立したヨーロッパやアメリカでアートを志す人たちにはありえない姿かもしれません。しかしその姿は「アートモラトリアム」な日本だからこそ存在する贅沢な悩みにも思えるのです。

セバスチャン高木
1970年生まれ。大学卒業後2年間、ヨーロッパ、北アフリカを中心にバックパック旅行を経験。テレビの制作会社を経て小学館入社。『Domani』7年、『和樂』15年の編集を手がける。好きなもの:仏像巡り、土門 拳、喫茶店、マンガ

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