日本にはこんな漢=編集者がいる!!!『共犯者 編集者のたくらみ』芝田暁【日本のことはぜーんぶ漫画が教えてくれた! 番外編】

マンガ・アニメ

2018/12/1

共犯者-編集者のたくらみ-」の装丁には芝田のアニキ本人が登場。街ですれ違ったら思わず目を伏せたくなるような眼光鋭い怖い顔したおじさんですが、とってもやさしいんです。

漫画じゃなくてごめんなさい!

 ダ・ヴィンチニュースをお読みのみなさん、こんにちは。和樂編集長のセバスチャン高木です。突然ですが、皆さん申し訳ございません!いきなり謝罪から始まるのが拙ブログの恒例になりつつありますが、何がごめんなさいかというと、「日本のことはぜーんぶマンガが教えてくれた!」というタイトルのブログで、漫画以外の本を、しかもまだ8回目だというのに番外編などと、さも大河作品のスピンアウト的なノリで紹介することをお許しください。

 しかし、かつてプロレスラーの橋本真也が「時は来た。それだけだ」とアントニオ猪木と坂口征二との一戦を前に語ったように、男にはやらねばならない時があるのです。それが私にとっては今。なぜなら私が兄貴として慕い、日本でもっとも尊敬している編集者である芝田暁、通称芝田のアニキが、自身で編集を手がけた全作品の経緯というか、裏話というか、策略というか、なんちゅうか本中華を克明に記した本を出版したのです。タイトルはずばり『共犯者-編集者のたくらみ-』。しかし、あの恐ろしい顔で「共犯者」などと銘打たれると、なんだか犯罪のにおいがぷんぷんとしますね、あーこわい。

血と骨』梁石日。私が世の中で一番大好きな小説の編集も芝田のアニキでした。

あの本もこの本もみーんなアニキが編集した!

 アニキのことを私などが四の五の言ってもおそらくそのスゴさは伝わりませんので、アニキが編集した本のタイトルをほんのちょっとだけ並べましょう。梁石日『血と骨』、浅田次郎『プリズンホテル』、花村萬月『眠り猫』、山田正紀『仮面戦記』、荒巻義雄『紺碧の艦隊』、牛島信『株主総会』、田口ランディ『コンセント』、松井計『ホームレス作家』、新堂冬樹『無間地獄』、木戸次郎『修羅場のマネー哲学』などなど、その冊数はなんと215冊! 今は編集を一旦卒業したと語るアニキが編集に携わった期間は約23年ですから、1年に約10冊!しかもその間毎年のようにヒットを出し続けたんです。どうですか、みなさん、日本にはこんな編集者がいるんですよ。

 芝田のアニキと私は約20年前、同じ作家を担当したことで知り合い、つきあいがはじまりました。アニキはそのころ齢30を少し過ぎたころ。まだできて日が浅い幻冬舎の敏腕編集者としてヒットを連発する、私にとっては神のような存在でした。アニキはとても30ちょいとは見えない風貌で恐ろしいほどの存在感を放っていました。真っ黒な口ひげをたくわえ、眼光凄まじく、両切りの缶ピースを片時も離すことなくくゆらし、恐ろしく野太い声とは裏腹に凄まじく理知的な編集論をいつも語ってくれました。男惚れした私はアニキにつきまとい、何度も朝方まで酒をあおりました。その美しい記憶は私の二十数年の編集人生においてもまばゆい輝きを放っています。私が梁石日さんの大ファンだと言うと、なんと!新宿のスナックに誘ってくれて梁石日さんを紹介してくれました。その時聴いた梁石日さんの歌は一生の宝物です。

 ここでアニキの編集人生をかいつまんで紹介しましょう。知らない人が見たらテキ屋にしか見えないアニキのパーフェクトなテキ屋香は大学時代に培われたようです。早稲田大学に在学しながらほとんど大学には行かず、アニキはアルバイトに精を出しました。家庭教師、ビルの清掃、肉体労働などなど。中でもテキ屋の仕事は性に合ったようで、「テキ屋の仕事は本当に楽しかった。客がいない時はフランクフルトを焼いてそれをつまみに売り物のビールを勝手に呑んでいた」などと言い放っています。そんな学生のご多分に漏れず、就職活動にことごとく失敗したアニキはお父さんのつてで(おそらく)マルクス=エンゲルス全集の出版で有名な大月書店に入社します。なんと!テキ屋のお父さんは有名なマルクス主義の哲学者である芝田進午先生だったんです。

 しかしながら入社してみると社内に同じ名前の読みの社員がいると言うことで本名の芝田暁ではなく母方の姓である松崎暁という名前で仕事をさせられます。なかなか滅茶苦茶な話しですが、それに嫌気がさした(もうちょっと理由があるんですよ)アニキは徳間書店に転職。そしてヒットを連発し、見城徹率いる幻冬舎に入社したのでした。そこでアニキはアウトロー感あふれる、今までになかった小説や誰も見向きもしなかったノンフィクション作品やビジネス書をあの手この手でベストセラーに導くのです。その顛末は本書にたっぷりと収録されていますので、あの本の裏側にはこんな秘話が隠されていたんだ!とお楽しみください。

死との対話』山田真美。ダライ・ラマとのインタビューが収録されています。こちらも必読ですよ。

出版社の廃業まで包み隠さず描き尽くす!

 幻冬舎で順風満帆な編集キャリアを送っていたアニキですが、突如自分でスパイスという出版社を立ち上げます。その理由をアニキはこう書きます。「幻冬舎を嫌になって辞めたわけではなかった。(中略)このまま幻冬舎に定年の六十歳まで務めたとしても後二十年余りでつくれる本は四百冊、計七百冊で到底、千冊の本をつくれないことが何となく身体でわかってきた。(中略)一度リセットして新しい知識をインプットし、これからに備え今後は編集者として年五冊ほどの本を時間をかけてつくり、残りの20年で百冊ほどの自信作を残せたら編集者冥利に尽きると考えたからである」。当時はなぜ幻冬舎を辞めるのか?完全に理解していなかった私ですが、今ならこのアニキのジレンマがよくわかります。私も和樂の編集に携わって16年。アニキほどの編集者がアウトプットばかりでとジレンマを感じるのですから、私などはもういっぱいいっぱい。ようやくアニキの当時の心境に少しだけ触れることができたのではと思う今日この頃です。

 結果を先に言うとスパイスは約3年で廃業します。その間たびたび事務所を訪れてその様子を何もできないままただ見ていただけの私は、出版ビジネスの厳しさを目の当たりにしました。正直言うと、アニキはすぐにミリオンセラーを連発してウハウハ。そのうち私をスカウトしてくれるだろうなどとかるーく思っていたのです。そして、スパイス廃業後、アニキはポプラ社を経て、朝日新聞出版社に入社。数年前自らの意思で編集の現場から退場しました。

「実に面白い。心が躍る。血が騒ぐ。本書は血と汗と涙が飛び散る、希有な『編集者血風録』である。」(幻冬舎社長・見城徹)「芝田暁のおかげで『血と骨』はミリオンセラーになり、莫大な借金を完済できた。『共犯者』に感謝する。」(作家・梁石日)。ふたりの巨人が寄せた帯の文言が本書の魅力を見事に表現しています。編集者とは何か?ベストセラーのつくりかた、そして芝田のアニキの自叙伝として、本当に楽しめる一冊。今月は漫画をちょっと横に置いてぜひ本書を手にお取りください!!!!

セバスチャン高木
1970年生まれ。大学卒業後2年間、ヨーロッパ、北アフリカを中心にバックパック旅行を経験。テレビの制作会社を経て小学館入社。『Domani』7年、『和樂』15年の編集を手がける。好きなもの:仏像巡り、土門 拳、喫茶店、マンガ

日本のことはぜーんぶマンガが教えてくれた!
・第7回『あさきゆめみし』大和和紀
・第6回『モディリアーニにお願い』相澤いくえ
・第5回『とんかつDJアゲ太郎』小山ゆうじろう、原案:イーピャオ
・第4回『鼻紙写楽』一ノ関圭
・第3回『妖怪ハンター』諸星大二郎
・第2回『青春うるはし! うるし部』堀道広
・第1回『阿・吽』おかざき真里