セクシャル・ハラスメント、癒し、マタハラ…「新語が生まれた。」背景とは?『現代用語の基礎知識』編集長コラム

文芸・カルチャー

公開日:2020/2/13

『現代用語の基礎知識2020』(自由国民社)

 ダ・ヴィンチニュースをご覧の皆さま、こんにちは。『現代用語の基礎知識』編集長の大塚です。12月から配信していますこのコラムでは、年末に発表する「『現代用語の基礎知識』選・ユーキャン 新語・流行語大賞」について紹介しています。3回目となる今回は、「過去の新語・流行語大賞」を振り返ります。

 平成という時代が終わり、令和にもすっかり慣れた今日このごろです。平成を振り返るさまざまな媒体の多くの企画に、私たちが記録し発表してきた「新語・流行語大賞」が使われました。これまでの「新語・流行語大賞」全記録からは、「時代」や「世相」を見ることができます。その言葉からは「今」を生きる私たちにつながる数々の言葉が生まれていたことに気づかされます。

 スタートは、[1984年]。この頃は「バブル真っ只中」という時代でしたが、当時からテレビドラマや話題の書籍、企業のテレビCMなどから生まれる新語や流行語の数々がとても新鮮に映りました。

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 [1989年]。昭和が終わり平成の始まりのこの年、とても象徴的な新語が生まれました。それが【セクシャル・ハラスメント】です。言葉が生まれて、事象・現象が定着される。その最たるキーワードだったのではないでしょうか。2019年の「新語・流行語大賞」トップテンにも入った【#KuToo】も、広い意味ではその流れの言葉だと思います。

 歴代の全記録から関連キーワードを探してみると、2018年に【#MeToo】、2014年に【マタハラ】(マタニティ・ハラスメント)など、ハラスメントに関する用語が選ばれてきました。

 平成を経て令和の時代が始まっても、なんら変わりなく「ハラスメント」が問題になっています。セクハラからはじまり、パワハラ、モラハラ、マタハラ、アルハラ、スクハラ、アカハラ、オワハラ……と言葉が増え続ける一方です。18年には、財務省事務次官が女性記者に対して行ってきたセクハラやパワハラが数々の疑惑として明るみに出て、辞任に追い込まれました。不当な行為に対して声を上げる勇気ある被害者が増えてきたことで、少しずつでも前進しているようにみえる反面、まだまだ人権に対する意識の低い方も多いようで、問題は山積みといってもいいかもしれません。

 女性に限らず、すべての方にとって働きやすい、生きやすい社会になることを願って訴えたり活動をすすめる方がおられます。ずっと応援していきたいですし、誰にとっても働きやすい、生きやすい社会になれば、自分にとっても生きやすい社会なんだということに、男女関係なく多くの方々に気づいてほしいと思います。

 そんなことを考えながら過去の記録を見ていたら、2001年には【ドメスティック・バイオレンス(DV)】もトップテンに入っていました。当時は、夫から妻への、もしくは恋人など親密な関係の男性から女性への暴力をさすといわれていましたが、近年では「女性から男性」への場合もあるようです。この年の4月には、いわゆる「DV防止法」が成立しました。今も、DV被害で苦しんでおられる方がいます。ハラスメントだけでなく、大人も子どもも、誰もが生きやすい社会を目指すにはどうしたらいいのか、あらためて考え続けなくてはいけないと感じました。

 今から25年前の[1995年]。阪神・淡路大震災のこの年は、【がんばろう神戸】や【ライフライン】【安全神話】などの言葉が選ばれました。一方、【変わらなきゃ】が日産自動車のCM、安全・販売キャンペーンから生まれました。エアバッグ装備などの安全性重視の路線への評価とともに、イチロー選手を起用したCMで「変革」という時代の空気を凝縮したコピーとして記憶されている方もおられると思います。日産といえば、昨年末、カルロス・ゴーン元会長の日本脱出劇などもあって、今後の動きが気になって仕方ありません。

 その前年の[1994年]。【就職氷河期】が雑誌「就職ジャーナル」から生み出されました。就職難が問題となったその年、就職環境の悪化は産業構造の問題で長期的、本格的になるものとの視点から名付けられた言葉でした。今でも当時をあらわす言葉としてたびたび使われています。その世代を、現政権で【人生再設計第一世代】と再ネーミングして若年層の雇用対策をすると「言い換え」ました。政府が支援してくれるということなのだから、もっと定着するかと思いきや、当事者たちからの批判の声もあがり現時点でほとんど定着していないようですね。ですが、言葉の記録としては、しっかり本誌『現代用語の基礎知識2020』に残しています。

 1999年には【癒し】。

 バブルが弾け、バブル当時の10年前は【24時間タタカエマスカ】といっていた時代からこの年には【癒し】がトップテンになりました。「24時間~」は1989年当時の健康ドリンク「リゲイン」のCMキャッチコピーですが、1999年のCMでは、坂本龍一さんのピアノソロを流しながら「この曲をすべての疲れている人へ」というメッセージを送っています。「癒し」が国民的テーマになったのがこの年です。今の時代も、「睡眠」や「休み方」など疲れないカラダづくりや癒しに関しては話題豊富です。「働き方改革」がいわれて久しいですが、「休み方改革」や「よりよい睡眠のとり方」といったテーマは、これからも続きそうです。

 疲れを感じる人が増えている現代社会、疲れだけでなく「諦め」や「不寛容」から「分断」の社会が生まれつつありそうで、とても気になっています。「差別」も「格差」も「ヘイト」もなくしていきたいですね。

 年末の「新語・流行語大賞」に選ばれる言葉、そこにノミネートされる言葉、それらの元になる「1年の記録」としての用語は『現代用語の基礎知識2020』に掲載しています。ふだんの生活で気にしていなかったご自分の専門外の事柄や興味のない事柄も載っているはずです。紙媒体での一覧性は、SNSだけでの「フィルターバブル」に陥らず、深堀りだけじゃない隣の少し広い知識を得ることができる利点があります。今を生きる私たちには必ず役立つはずです。どうぞ書店で手にとっていただけたら幸いです。装いも価格も手に取りやすく新しく生まれ変わりました本誌、ぜひご覧いただけたらと思います。次回コラムは、「新語・流行語大賞」を支えてきた人びとについてご紹介したいと思います。

大塚陽子
『現代用語の基礎知識』編集長
2008年版から「現代用語の基礎知識」編集部に配属。

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