「新語と流行語、生まれては消えていく」『現代用語の基礎知識』編集長コラム

文芸・カルチャー

公開日:2020/5/30

『現代用語の基礎知識 2020』(自由国民社)

 ダ・ヴィンチニュースをご覧の皆さま、こんにちは。『現代用語の基礎知識』編集長の大塚です。新型コロナウイルスの影響でたいへんな非日常をお過ごしのことと思います。粘り強く正しいとされる行動を意識しながら収束を願いたいですね。これまで3回にわたって「『現代用語の基礎知識』選/ユーキャン 新語・流行語大賞」のことを紹介してきました。最終回の今回、この新語・流行語大賞の発表を支え続けてくださった方々のことをご紹介したいと思います。

 新語・流行語大賞授賞式の際、「なくてはならない大切なもの」があります。なんだかおわかりになりますか? それは、、、会場での演奏=BGMです。司会の方の音頭で授賞式がスタートしますが式の間ずっと、ここぞ! というところでBGMが流れるわけですが、実は「生演奏」なのですよ!

 エレクトーン奏者の高木佳子さん。1994年の第11回目の式から会場演奏を担当してくださっています。当日、会場で発表されるトップテンの言葉一つひとつに、言葉のもつイメージや授賞語の背景などをよーく検討してくださって、その「言葉」にピタリとあうミュージックを選曲、音づくりを準備してくださるのです。「言葉」の背景にある空気までも踏まえて選んでぴったりの音を奏でる。すごい仕事だなあと常々感じていました。

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 これまで、高木さんが選んでくださった「言葉にあう音」にはどんなものがあったのか、特に印象に残っているものは何か、ちょこっと高木さんにうかがってみました。

 やはり記憶の新しい2019年の言葉と音が印象深いようで、【闇営業】とのお答えが。この言葉には「悲しい色やね」が控えめに響き渡りました。悩みに悩んだ1曲、だそうです。前日までに一応「これでいこう」と決めていた曲がどうもしっくりこないと感じていたそうで、いまひとつ……。悩みに悩んで、もう仕方ないコレでいこう! と眠りについて翌朝、「あっ!」とひらめきが……。目覚めたときに「コレじゃ~!!」と降りてきたのが「悲しい色やね」だったそうですよ。

 言葉の背景からいっても、本当にぴったり。ここまで物悲しい曲調、80年代で、大阪で……。言葉と音がピタリとあう、その瞬間。毎年この生演奏を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか? とはいえ、誰もが参加できるものではないので、会場に取材でこられた報道関係の方々に高木ファンがいるのではないかしら? と思ったりしています。どうでしょうね。

2019年授賞式会場/撮影:大竹直樹

 もちろん、会場音楽のほかにも、会場設営の皆様、舞台上で発表にあわせてパネルをめくってくださる皆様、会場ホテル関係者の皆様、そして、司会を務めてくださるお二方、さらに選考委員の皆様方のおかげで、時代が変わってもなんとかやってこられたものだと思います。歴代の、裏方スタッフとして関わってくださった皆様方には感謝の言葉しかありません。

 「何気なく飛び出した言葉が流行語になる」「そんな言葉の賞をつくる」という創設者の熱い想いがあったからこそ、ここまで続けてこられたのだと思います。一企業が発表する「言葉の記録」としての賞です。いつの間にか「年末の風物詩」とされ定着したかのようなイベントとなった部分もありますが、これからもずっとあたたかい目で見守っていただけたらうれしいです。

 1984年の第1回立ち上げに参画し、長年運営に関わってくださった木下幸男さん。著書『「流行語大賞」を読み解く』(NHK出版)には、以下のような記述があります(以下、引用)。

[……この大賞の時期になると「あのコトバを選ぶべきだ」とか、「あのようなコトバは不愉快だから選ばないでほしい」などの申し入れがあちらこちらからくる。その理由は千差万別だが、まさに“たかが”ではあっても、“されど”流行語の強靭な存在感を感じさせるのだ。]

 「たかが」から「されど」に変わる言葉を見抜くのが、この賞を発表し続ける意義だと感じます。新語を記録していく社会的意義を重い宿題として、感覚を鍛えたいと思います。

 2020年の今年、記録されるべき新語は間違いなく新型コロナウイルス関連の言葉でしょう。新語が次々と生まれています。ほんの2カ月前の状況や情報があっという間に古くなる、今を生きる私たちにとってまったく未知の日々です。将来、歴史の教科書に載るような出来事で簡単には終息しないだろうと思いますが、どんな事象も「新しい言葉」から理解できることもあります。生まれる「新語」から学んでいくことも大切。新しい言葉が、どう広がっていくのか、そこまで広がらないのか。見極めは本当に難しいです。

 カタカナ語の洪水は、事の本質=意味をわかりにくくさせるという意見がある一方、インパクトをもって伝えることが期待される場合もあります。単純に日本語へ置き換えるだけで解決できるわけでもなさそうです。簡単な言葉こそ多くの方に定着しやすい。そこに新語としての存在意義もありそうです。

 人びとの日常会話(SNS含め)で使われ飛び交う言葉は何か。新語がひとり歩きし始めたり、多くの共感をよんだり、自然発生的に派生語が生まれたり。文字通り「流行」は流れ行くものですから流行した後、消えていく言葉も数多くあるでしょう。コロナ関連以外でも忘れてはいけない言葉も生まれています。

 新語として生まれても、時代が変われば消えていく言葉もあります。これまで36年間にわたって発表してきた授賞語やノミネート語の中にも、すでに使われなくなった言葉もあるわけです。過去を振り返ったときに時代の記録として懐かしく思い出す言葉もあるでしょう。これまでもこれからも、時代の「新語」に目を光らせて記録し続けるつもりです。

 全4回にわたる拙いコラムをお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。また機会がありましたらどうぞよろしくお願いします。時代とともに【変わらなきゃ】(1995年授賞語)ですが、紙の媒体のいいところは生き残るはず。日々、試行錯誤して“足踏み状態”が少しくらい続いてもいいのではないでしょうか。これからも少し前向きに進めたらと思います。『現代用語の基礎知識 別冊NEWS版』などのシリーズ別冊なども発売しています。どうぞ書店で手にとっていただけたら幸いです。装いも価格も手に取りやすく新しく生まれ変わりました本誌2020年版、ぜひご覧いただけたらと思います。「新語・流行語をはじめ、ことばにまつわるさまざまな解説が楽しめるWEBサイト『現代用語オンライン』もぜひお楽しみください。

大塚陽子
『現代用語の基礎知識』編集長
2008年版から「現代用語の基礎知識」編集部に配属。

●第1回・12月
新語・流行語大賞、誕生物語。

●第2回・1月配信
2019年を、新語・流行語大賞の言葉で振り返る

●第3回・2月配信
新語が生まれた。

『現代用語の基礎知識2020』発売中!