近所で「東京さんぽ図鑑」キーワード探しをどうぞ『散歩の達人』編集長コラム

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公開日:2020/6/20

『散歩の達人』7月号(交通新聞社)

 こんにちは。散歩の達人編集長の土屋です。

 自粛が続いたこの数カ月。お出かけができず、お店や施設などに行けなかったこと以上に、通勤や仕事、休日の過ごし方、ものの見方や価値観までウイルス禍で大きく変えられてしまった気がします。気持ちがどうしても内向きになってしまい、今まで当たり前に通って見て、食べていた東京らしい風景や味を忘れてしまった方もいるのでは? そんな状況だからこそ、我々は読者の皆さんに身近な東京の魅力に改めて目を向けてもらい、「東京はこんなに楽しいところだった」ということを再認識してもらいたいと考えました。7月号では「東京さんぽ図鑑」を題し、これを知っておけば東京をもっと楽しめるキーワードをビジュアルメインでまとめた図鑑的な特集をお届けします。

 キーワードの数は全部で88個。大きく10カテゴリー「街のお店」「東京の味」「街並み・建築」「東京的風景」「カルチャー・レジャー」「特殊な街」「巨大な人工物」「東京の自然」「民間信仰」「祭りと市」に分けつつ、キーワードをずらり並べています。例えば「街のお店」カテゴリーだったら「東京喫茶」「定食屋」「立ち飲み」「バー」、「東京の味」カテゴリーだったら「東京ラーメン」「たい焼き」「もんじゃ」などなど。これらのキーワード、それぞれは特定の店や場所で撮影していますが、じつはできる限り読者の皆さんの身近にある、汎用性の高いものとして取り上げています。

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 そこで今回のコラムでは、このキーワードが都心に限らず、どこの街にもあるということを、世田谷区西端の私の家の近所で歩いて実証してみます。本誌の特集ではキーワードは88でしたが、紙数の制限もあり、8個のキーワードに挑戦。

 まず思い浮かんだキーワードが「池」(10カテゴリーの中では「東京の自然」)。近くに烏山寺町があり、その一番北に「烏山の鴨池」と呼ばれる池があります。ここももともと湧水が出ていて、目黒川の源泉のひとつでもあるところで、高源院が移転してきたときに池として拡幅されました。冬になるとカモが飛来することで「鴨池」と呼ばれるようになったとか。「せたがや百景」にも選ばれ、地域の人に親しまれています。これからの季節はハスが美しいので、ぜひ早朝散策にどうぞ。

世田谷区北烏山・高源院の弁天池は通称「烏山の鴨池」。中央の弁天堂への橋からもいい景色が見られます。

「街のお店」カテゴリーでは、喫茶店やとんかつ屋などいろいろ思い浮かんだのですが、その中から2つだけ写真付きで紹介しましょう。一つは「パン屋」。パン屋も近所にいろいろありますが、個人的に昔ながらのセルフ式のパン屋さんに惹かれます。『木村屋』は1964年創業の老舗ですが、ただ懐かしいだけじゃありません。かなり攻めたパンがあるのです。それが「ゼリーパン」(200円)。パンの中に本当のゼリーを入れて食べられる涼やかな一品ですが、私もたまに買って帰ります。ただ材料の関係で毎日は作れないのだとか。同じく「プリンパン」も人気で、こちらはいつもあるそうです。

世田谷区粕谷の老舗パン屋『木村屋』のゼリーパン。注文してから生クリームとゼリーを入れてくれます。夏に合わせて開発されたとか。ぜひ今の時期どうぞ。

 もう一つが「立ち食いそば」。誌面でも紹介していますが、最近の東京の立ち食いそばのレベルはすごいです。チェーン店だけでなく個人店も増えてきて、つゆも麺も天ぷらも従来の立ち食いそばのイメージを覆してくれます。近所にある『八兆』もそのひとつ。麺もコシと風味があって、つゆも濃すぎず上品で味わい深く、さらに天ぷらが種類も多くて、どれもおいしい。中でも私がいつも食べるのはかき揚げですが、サクサクの食感と香ばしい風味が、つゆとよく合うのです。皆さんもこの機会に自分の家の近くの立ち食いそばを見直してみてほしいと思います。

世田谷区船橋の立ち食いそば『八兆』のかき揚げそば420円。ここの天ぷらはどれもおいしい。夏は冷やしたぬきが人気。

 続いては近所の商店街から3つのキーワードをセレクト。まずは「ユニーク商店街」(「街並み・建築」カテゴリー)。地元・祖師谷の商店街は、祖師谷商店街、祖師谷みなみ商店街、祖師谷昇進会商店街と3つの商店街が一緒になり「ウルトラマン商店街」という総称で親しまれています。街灯も商店街アーチもウルトラマンモチーフで、商店街グッズも人気。ちなみになぜウルトラマンなのかは、かつて円谷プロダクションの本社がこの街にあったことに由来します。最近は西の方にカネゴン像もできて写真スポットになっています。

世田谷区祖師谷のウルトラマン商店街は街灯からウルトラマン。駅近くはウルトラマンタロウがモチーフ。北と南にも違う街灯があるので探してみて。

 次は「横丁」(「街並み・建築」カテゴリー)。そのウルトラマン商店街を祖師ヶ谷大蔵駅から少し北に行くと「まるよし横丁」という横丁があり、定食屋や飲み屋などが連なり、規模は小さいものの渋い横丁になっています。奥にはアーケードもあって、なかなか壮観です。東京にはあちこちにこんな横丁があるので、そんな狭くて渋い場所を飲みながらさまようのも楽しいですよね。ぜひ近くの横丁を歩いてみてください。

ウルトラマン商店街の祖師ヶ谷大蔵駅から少し北にある「まるよし横丁」。定食屋の『阿部食堂』も人気だ。

 3つ目は「団地」(「街並み・建築」カテゴリー)。商店街を北上すると右手に見えてくるのが祖師谷住宅。1956年に建築された昭和レトロ感満載の団地で、4本の円柱を束ねたような、ちょっと独特な形で南側の円柱に水色が配された給水塔があるのが特徴です。なんとこの給水塔、都公社初のものだとのこと。給水塔マニアも必見の団地です。自宅からもこの給水塔が見えて、なんだかホッとします。

ウルトラマン商店街の北、ふれあい遊歩道の東にあるのが祖師谷団地。けやき通り沿いのアーケード商店街など、そのまわりも昭和感あり。

 商店街以外で思い浮かんだのが、成城学園前駅から喜多見駅へ至る途中にある「坂」(「街並み・建築」カテゴリー)、「不動坂」。このあたりはちょうど国分寺崖線にあたり、どこも急な坂や階段が見られますが、その中でもこの坂、角度も結構急なのですが、切り通しのような形状で、何度もカーブする形状が面白く、初めて通った時には感激しました。坂下にある不動堂から坂の名前がついたそうです。穴場の道に思えたのですが、意外に交通量が多く、昔、喜多見に住んでいた時は、終電を逃した後のタクシーでもよく通りました。

成城学園前駅から喜多見駅への最短ルートとして地元の人には使われる道に「不動坂」はある。車の通りも多いので歩く際は注意が必要。

 最後は「東京の味」カテゴリーから「ローカル酒」を紹介。といっても誌面で紹介したようにお店ですべての種類をそろえている酒場は近所にないため、近所のスーパーでいくつかそろえてみました。本当は「バイス」が欲しかったのですが、近所では売っておらず断念。でもいくつかは皆さんの近所でも売っていると思いますので、ウイルス禍の今はまだ酒場はちょっと、という方はぜひ自宅でローカル酒を味わってみてはいかがでしょうか。

ホッピー、黒ホッピー、ハイサワー、焼酎ハイボールを集めてみました。どれも東京らしい味でもつ焼きが欲しくなります。

 と、ここまでで8つのキーワードを紹介しました。じつは本当は自宅から「富士見」(「東京的風景」カテゴリー)もできるのですが、この梅雨時で撮影はできず……。さらに近所にはとっておきの「奪衣婆」(「民間信仰」カテゴリー)もいて、演歌歌手のようなユニークな奪衣婆をお見せしたかったのですが、残念ながら取材拒否……。また何かの機会にご紹介できるようにチャレンジしてみます。とにかく、私の家の近所でもこれだけできたのですから、東京のどこでも楽しめるキーワードぞろいということがわかっていただけたのではないでしょうか? 本特集は汎用性の高い「東京さんぽ図鑑」になっていると自負しています。

 緊急事態宣言が解除され、都県をまたいだ移動もできるようになったものの、まだウイルスが去ったわけではなく、元の生活に戻るにはまだもう少し時間が必要でしょう。今は本誌を読んで東京の魅力をもう一度再確認し、3密を避けて、今できる散歩を楽しんでください。一日も早く今まで通りの散歩が楽しめるよう、私も心から祈っています。

土屋広道(つちやひろみち)
1972年生まれ。関西学院大学社会学部卒業後の1996年に株式会社弘済出版社に入社(合併を経て2001年に株式会社交通新聞社)。『鉄道ダイヤ情報』『旅の手帖』編集部を経て、2008年より『散歩の達人』編集部所属。2017年11月号より同誌編集長。

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