ボンカレー、銀座カリー……。極私的レトルトカレーの系譜『散歩の達人』編集長コラム
公開日:2020/8/23
こんにちは。散歩の達人編集長の土屋です。
やっと長かった梅雨が明けたと思ったら、今度は猛暑続き。コロナ禍でマスク必須の日常にはより暑さを感じる時期です。まだまだ残暑も厳しいですが、暑いときにはちゃんと汗をかくに限る!ということで、今月号は、散歩の達人初のカレー特集「自由のカレー!」。
“スパイスカレー”の存在が定着して以降、カレーと呼ばれる料理の概念がどんどん拡張しているように思われます。各国のローカル料理。酒場や喫茶店の名物。あらゆるところにカレーはひそみ、街を歩けば発見と再発見の連続。そして街のお店もちろん、家のカレーにもいつも心は踊ります。カレーという料理に、なぜこんなにも気持ちが昂ぶるのか? 探す、選ぶ、作る、混ぜる、味わう、考える。カレーにまつわる果てしない思考の宇宙をできる限り誌面で紹介しています。
「自由のカレー!」特集内では、さまざまなカレーを紹介しています。特集の締めには「家カレーを盛り上げ隊」と銘打ち、「エスニック食材で見つけた お手軽本格カレー」「新たなつけあわせ大研究」「普通の家カレーってなんだ?」「秘密のチャイレシピ」と家のカレーを楽しむアイデアも紹介していますが、個人的には「レトルトカレー」についても触れたかったところ。今回のコラムでは極私的なレトルトカレーの系譜を紹介したいと思います。
レトルトカレーとはいえ、今は大手メーカー以外にも、街の名店が監修したものなど500円を超えるものまで多数。まさに百花繚乱ですが、ここではどこでもほぼ200円以下で買えてしまう、私のカレーライフを支えてくれたレトルトカレーを紹介したいと思います。
まずは大塚食品の「ボンカレー」。1968年に世界初の市販レトルト食品として売り出され、1971年登場のハウス食品の「ククレカレー」とともに、私が子供の頃のレトルトカレーの2大人気でした。袋ごとお湯で温めるだけでできてしまう簡単さに、私も初めて料理? をしたのがボンカレー作りだったのを覚えています。
ただ、なぜかお湯に袋の中身を空けてしまい、1個を無駄にしてしまったのですが……。80年代になると「カレーマルシェ」、「LEE」などが登場し、レトルトカレーはどんどんおいしくなっていきます。ただ、私としてはどのカレーも、どうしてもレトルト独特の風味が気になり、ちょっと敬遠する時期でもありました。
そんな中、90年代に入って出てきたのが「銀座カリー」でした。ちょっと値段は高かったのですが、今までのいわゆる家カレーの延長のようなゴロゴロ野菜が入ったものではなく、薄切りのタマネギと牛肉が入り、デミグラスソースのようなコクが深い濃厚なルーは、まるで洋食屋さんで食べるカレーのよう。初めて食べたときは、今までのレトルトカレーの先入観を覆してくれました。そして敬遠していたレトルト独特の味が(私にとっては)感じられなかったのです。この味に出会ってから私の中ではレトルトでは「銀座カリー」一択。一人暮らしの定番常備品となりました。
その後、1999年には「咖喱屋カレー」が登場。こちらは「銀座カレー」とは違う、家カレーのバージョンアップ版(と私は思いました)で、野菜がゴロゴロ入っているカレーで、ルーは濃厚でスパイシー。こちらもたまに買うようになりました。今も人気商品のようですね。
2000年代に入り、結婚してからはレトルトを食べる機会は少なくなりましたが、衝撃的だったのが、いなばの缶詰タイカレー「チキンとタイカレー グリーン」。編集部にもファンが多い一品です。初めて食べたときは100円ちょっとこんなに本格的な味が楽しめるのかとびっくりしました。大ぶりのチキンは柔らかく、カレーはさわやかな辛さの中にココナッツミルクの甘みが広がり、ハーブも効いていて食べ飽きません。今や数缶は常備しているお気に入りの一品になりました。つい先日は、そうめんにかけて食べてみましたが、それもまたおいしかったです。
しかし、久しぶりに懐かしいレトルトカレーを食べてみると、食べていた当時の記憶も思い出してくるものですね。そして、今はほかにもおいしいレトルトカレーがたくさんあるので、それを食べ比べる企画も楽しかったかも、と感じてしまいました。けれどそれはまた、次の特集までお待ちください。
さて、大特集「自由のカレー!」には様々な企画がずらり。曽我部恵一さんとトリプルファイヤーの吉田靖直さんによる対談「カレーと生活、ときどき音楽」をはじめ、カレーという存在そのものを問う「えっ、この世にカレーは存在しないって?」。本場の味もしっかり紹介する「いま食べたい 世界の“ローカルカレー”4選」。東京のカレーの街を巡る「カレーの街を探検する 下北沢/神保町」。
さらに、「痛快! 間借りカレー放浪記」「発掘! ひそみカレー探検記」「夢中! スタンドカレー変遷記」というさまざまなカレー店のスタイルなどなど盛りだくさんにお届けします。
また、第2特集は、東京から少し離れて北関東の2大タウンを再発見する「前橋 vs 宇都宮」。「散歩コース」「ご当地麺」「名物」「カレー」「パン」「老舗書店」「ゆかりの著名人」といった7つのテーマでそれぞれの街の魅力を追求しています。実家が近い私としては前橋で「鳥めし」も紹介したかったのですが、今回は断念。ただ、名物対決のソースカツ丼で『登利平』は紹介していますよ。詳しくは誌面をご覧ください。
コロナ禍の中、今月号のカレー特集では「テイクアウト」情報を各店に入れてみました。家でも名店の味をお楽しみください。そして今月も3密を避け、本誌を参考に、今できる散歩を楽しんでください。一日も早く今まで通りの散歩が楽しめるよう、私も心から祈っています。
土屋広道(つちやひろみち)
1972年埼玉県生まれ。関西学院大学社会学部卒業後の1996年に株式会社弘済出版社に入社(合併を経て2001年に株式会社交通新聞社)。『鉄道ダイヤ情報』『旅の手帖』編集部を経て、2008年より『散歩の達人』編集部所属。2017年11月号より同誌編集長。
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