いま注目は、川越のリノベと三芳のいも街道!『散歩の達人』編集長コラム

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公開日:2020/9/23

散歩の達人
『散歩の達人』10月号(交通新聞社)

 こんにちは。散歩の達人編集長の土屋です。

 暑さも落ち着き、ようやく散歩しやすい季節になりました。今月号の散歩の達人は3年ぶりの川越エリア特集。今回は、川越とその南、東武東上線の和光市駅から新河岸駅までの各駅周辺を合わせて紹介しています。

 この川越以南のエリア、江戸時代より江戸市中から川越への物流や人の行き来を通して、ともに発展してきたエリアでもあります。その交通を担ったのが水路では新河岸川、陸路では川越街道。今回紹介している東武東上線沿線の街は、新河岸川または川越街道沿いに位置し、じつは川越を語るには欠かせないエリアなのです。散歩の達人MOOKでは紹介したことはあったものの、本誌の特集では初めての紹介エリアでもありましたが、なかなか興味深いスポットぞろい。誌面でもその魅力をたっぷり紹介していますので、ぜひご覧ください。

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『旅籠 小江戸や』前には、旧鶴川座についての説明板も設置。

 今回のコラムでは、本特集では触れられなかった、歴史を感じるスポットを少しだけ紹介しましょう。まずは川越。川越では、本誌でも紹介しているように、かつての駄菓子屋「梅原菓子店」から生まれ変わった『氷川神社 旭舎文庫』を筆頭に、『ちゃぶだいゲストハウス』や『Gallery & Café 二軒堂』など、古い建物がリノベで新しく生まれ変わった好例が市内各所に見られ、街のイメージは変わらないものの、随所で誕生した新スポットの活気もあって、新鮮な気持ちで歩けるようになっています。いつも人気の菓子屋横丁だって今も進化中。ぜひ歩きやすいこれからの季節に訪れてほしい街です。

 最新ネタとしては、かつての芝居小屋「鶴川座」の跡地に、今年7月3日にホテル『旅籠 小江戸や』が開業したこと。120年以上前に芝居小屋として建築、戦後には映画館として使用され、2000年以降はライブハウスや店舗としても市民に親しまれた施設だけに、川越に行くといつも気になる場所でしたが、建物の老朽化もあり、残念ながら取り壊され、和モダンなホテルとして再出発。また川越に新しい空気を運んでくれるはずです。鶴川座のかつての姿は、今発売中の地域情報誌『小江戸ものがたり 第十四号』(川越むかし工房)に詳しく紹介されているので、川越に行ったらぜひ読んでみてください。

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旧鶴川座跡に建てられた『旅籠 小江戸や』。シングルルームからドミトリーまで部屋は各種あり。
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8年ぶりの刊行となった『小江戸ものがたり 第十四号』(川越むかし工房/600円)。

 続いては東武東上線沿線。ちょうど秋冬は「サツマイモ」の季節。川越といえば「いも」とイメージされる人も多いでしょう。江戸時代、サツマイモは「九里四里(栗より)うまい十三里」なんて呼ばれましたが、十三里とは日本橋から川越・札ノ辻までの距離。「川越いも」のことを指しているといわれます。

 でも実際の川越いもの産地は今の川越よりも少し南の三芳町あたり。県道56号・334号のケヤキ並木通りの道は、通称「いも街道」と呼ばれるほど、いも農家が軒を連ねているのです。このいも街道、毎年9月から翌年1月くらいまで、各農家がサツマイモを直売しているので、いも好きにはたまらない道。車で通ると、つい寄り道してしまいそうになります。街道にはサツマイモを使ったスイーツを味わえる『OIMO cafe』もあるので、これからの季節、ぜひ「いも街道」を満喫してほしいです。

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いも街道には、9月からのシーズンには「富の川越いも」ののぼりが点在。いも農家は20軒以上あるので、どこに寄ろうか悩んでしまう。(撮影:鴇田康則)

 ただ、このいも街道。おいしい川越いもを買える農家が多いからすごい、というだけではないのです。このあたりは「三富新田」という、江戸時代に当時の川越藩主・柳沢吉保により開拓が進められた地。ちょっと航空写真を見ないとわかりづらいのですが、いも街道の道を基準に、短冊状に整然と区画された地割が並び、それが江戸時代中期からほぼ形を変えずに引き継がれているのです。それぞれの短冊の地割は、屋敷林と畑と平地林からなり、屋敷林は保水力を上げ、平地林で畑の堆肥となる落ち葉を確保。水が乏しく栄養が少ないこの土地ならではの工夫と仕組みがわかります。ぜひいも街道を訪れたら、そんな三富ならではの風景も実際に感じてもらいたいと思います。

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三芳町から所沢市にまたがる三富(さんとめ)地域は、上富・中富・下富の3地区からなる。写真は元禄7年(1694)に開拓したことを示す碑。(撮影:鴇田康則)

 さて、大特集ではほかにも川越・東武東上線沿線の街の魅力が満載。グルメ情報はもちろん、「自転車屋台『COFFEE POST』と出会う街角」「川越のコーヒー事情が気になる」レコードが聞こえる街で」「伝統の川越うなぎ、お重を開けるよろこび」「創業四半世紀、COEDOビールの挑戦」など、川越の注目記事のほか、「東武東上線わくわく途中下車さんぽ」「朝霞2大レジェンドの記憶」「朝霞の隠れ芸術スポットに迫る!」「志木に舟が帰ってきた!」のほか、今PCR検査でテレビでも注目の『ふじみの救急クリニック』などなど、東武東上線沿線の気になる情報を盛りだくさんにお届けします。

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朝霞の駄菓子屋『太陽堂』には、尾崎豊の直筆サイン色紙と写真が飾られている。

 また、第2特集は「噂の房総へようこそ」。「食の噂! がぶっと内房」「地層の噂! じーっと横断」「波の噂! さーっと外房」とエリアを分けて紹介しつつ、「第二海堡」や「素掘りトンネル」などもコラムにて紹介。ちょっと遠出にぴったりな房総を楽しむヒントを満載に紹介しています。

 やっと東京も時短営業要請が解除されましたが、まだまだ新型コロナウイルスが去ったわけではありません。今月も3密を避け、本誌を参考に、今できる散歩を楽しんでください。一日も早く今まで通りの散歩が楽しめるよう、私も心から祈っています。

土屋広道(つちやひろみち)
1972年埼玉県生まれ。関西学院大学社会学部卒業後の1996年に株式会社弘済出版社に入社(合併を経て2001年に株式会社交通新聞社)。『鉄道ダイヤ情報』『旅の手帖』編集部を経て、2008年より『散歩の達人』編集部所属。2017年11月号より同誌編集長。

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