西武多摩川線も意外にすごいんです!『散歩の達人』編集長コラム

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公開日:2020/12/22

散歩の達人
『散歩の達人』1月号(交通新聞社)

 こんにちは。散歩の達人編集長の土屋です。

 オリンピックどころかコロナ禍も収まらないまま終わろうとしている2020年。2021年こそはぜひアフターコロナの世界を散歩したいものです。

 さて、今月号の特集エリアは「三鷹・武蔵境・小金井」。新宿から中央線を20分乗ると、車窓から見える景色はだんだん広々してきて、ちょうど自然と住宅地の距離感が素敵になるエリア。小金井公園、野川公園を筆頭に大きな公園や周辺に点在する畑などが目につきますが、もちろんこだわりカフェや本屋さん、こだわりの個人店も点在。さらに住民同士のつながりも深く、広大なようでいて案外みんなが顔見知り。“広いけど狭い”のがこのエリアらしさなのです。

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 誰にとっても心地いい距離感は、きっと冬の散歩もあったかくさせてくれるはず。ぜひ広いけど狭い“中央線的スモールワールド”をお楽しみください。

 今回のコラムでは、企画に上がってはいたものの、泣く泣く諦めた西武多摩川線の紹介を。じつは私、2010年9月号で西武多摩川線の各駅をうろうろ歩き回って記事にしたことがあるのです。そのときは各駅にほとんどネタがなくて大変だった覚えがありますが、10年後の今ならどうでしょう? 一人でうろうろ歩いてみました。

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住宅地をすり抜けるように走る単線の西武多摩川線。昭和30年代に登場し「赤電」と親しまれたカラーが西武多摩川線開業100周年記念で復活し、現在も運転中。

 西武多摩川線は、なんでここに西武線?と思うほど、西武沿線から見ると一路線だけつながっていない孤立路線。じつは元々多摩鉄道という多摩川で採取される砂利を運ぶために作られた路線をのちに西武鉄道が合併したという経緯があるのです。

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多磨駅から15分ほど歩くと野川公園に着くが、その手前に新選組・近藤勇生家跡がある。産湯に使われた井戸も残る。

 武蔵境から白糸台までの開業は大正6年(1917)、常久駅(現在の競艇場前駅)まで開業が大正8年(1919)、是政までの開業が大正11年(1922)という歴史ある路線で、新小金井駅などはじつは小金井市内最古の駅(開業時にすでに東北本線に小金井駅があったため、「新」がついた)。

 ほかにも、多磨駅は野川公園の最寄り駅で、多磨霊園の最寄り駅。白糸台駅は京王線との乗り換え駅(武蔵野台駅)。競艇場前駅はかつての終着駅で、砂利採取場がボートレース多摩川に生まれ変わったという、各駅に歴史と存在意義がある駅ばかり。地味に思える西武多摩川線は意外にすごい!? 路線なのです。

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是政駅を出るとすぐに出迎えてくれるのが商店街のアーチ「これまさ君」。

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駅前には砂利を積んだ保線作業車の姿も。砂利輸送を起源に持つ西武多摩川線らしい風景だが、線路の周りに敷く砂利のようだ。

 終着駅の是政駅ももちろんすごいのです(派手な見どころはありませんが……)。気になる是政という名前はこのあたりの地名で、この地を治めていたと言われる豪族・井田是政から来ていると伝わります。駅を出るとすぐ商店街のアーチには「これまさ君」がお出迎え。駅の先にある多摩川にかかる是政橋も2本の主塔が見事な斜張橋だし、駅から地域の鎮守である是政八幡神社も立派な社殿。じつは井田家の墓は「是政塚」として東京競馬場内にあるのです(東京競馬場が移転してくるとき、当地にあった墓地を移転しようとしたところ、親族の反対があって、都の史跡指定を受けて保存されることになったとか)。そんな感じで是政がらみのスポットは豊富です。

 でも是政スポットだけではなく、今回久しぶりに駅から歩いてみると、遊歩道に小川が流れているのを発見。そういえば10年前に沿線を取材したときも、競艇場前駅近くに遊歩道が続いていたことを思い出しました(小柳散歩道でした)。この遊歩道(二ケ村緑道というそうです)、府中郷土の森博物館まで続いているというのもいい。なんだか歩きがいがありそうです。

 この是政駅では、じつはもうひとつ気になっていた店がありました。それはモツ煮で人気の「たま家食堂」。10年前の取材時は食堂をやめていて、パック販売のみの扱いでしたが、今は食堂が復活しているようで、一度店舗で食べてみたかったのです。残念ながら営業時間に間に合わず、今回は紹介できませんでしたが、次回のリベンジを誓い、是政駅に戻りました。

 10年前よりも沿線は面白そうなネタがたくさん。今度は1日かけて沿線をゆっくり歩きたいと思っています。

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是政橋からは夕景が見事。この取材時もカメラを持って撮影している人がいた。

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二ケ村緑道という遊歩道には真ん中に小川も流れていた。なんだかホッとする風景。府中市にはほかにも遊歩道がたくさんある。

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どこか風格を感じる是政八幡神社。境内には府中の名木百選に選ばれたケヤキの大木が鎮座する。

 さて、本誌の大特集「三鷹・武蔵境・小金井」には様々な企画がずらり。カフェ、グルメ、酒場はもちろん、「劇団ハイバイ主宰 岩井秀人と小金井」「山道具でぽかぽか公園スタイル」「噂の“三鷹体操”をマスターせよ!」「攻める個性派本屋さん」「小金井産野菜を楽しむ方法」「ここはキウイフルーツ天国なのだ」「ミドリカワ書房の三鷹ラプソディ」などなど、盛りだくさんにお届けします。

 とくに山道具のページは、この寒い冬になんで公園? と思われるかもしれませんが、山道具を使えば結構暖かく過ごせるものです。土屋は早速、『むさしの山荘』のつま先ダウンを購入しました。

 また、第2特集「東京 古地図さんぽ」は、新年を迎える記念すべきタイミングだからこそおすすめしたい、江戸切絵図を持っての東京散歩案内。「日本橋・人形町」「小石川・本郷・湯島」「板橋・巣鴨・王子」という3コースで、江戸時代から変わったところ、変わらないところを地図を眺めながら歩いてみてはいかがでしょうか?

 残念ながら、まだまだウイルスは収まる気配を見せません。今月も本誌を参考にしていただき、3密を避けつつ、冬の散歩を楽しんでください。

土屋広道(つちやひろみち)
1972年埼玉県生まれ。関西学院大学社会学部卒業後の1996年に株式会社弘済出版社に入社(合併を経て2001年に株式会社交通新聞社)。『鉄道ダイヤ情報』『旅の手帖』編集部を経て、2008年より『散歩の達人』編集部所属。2017年11月号より同誌編集長。

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