今月のプラチナ本 2013年3月号『墓頭(ボズ)』 真藤順丈

今月のプラチナ本

公開日:2013/2/6

墓頭

ハード : 発売元 : 角川書店(角川グループパブリッシング)
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:真藤順丈 価格:1,995円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『墓頭』 真藤順丈

●あらすじ●

1955年、母の命と引き換えにこの世界に生まれ落ちた「ボズ」は、生まれながらに頭に巨大な「こぶ」を持っていた。そこには、双子の兄弟の亡骸が埋まっていた──。祖母に命名を拒まれ、実父には〈墓〉と呼ばれ、世間からは鬼の子と忌み嫌われるボズ。異能の子供ばかりを集めた福祉施設・白鳥塾に収容され育ち、そこで出会ったヒョウゴ、シロウ、ユウジン、アンジュらによって、彼の運命は大きく変わっていく。70年代の香港九龍城、80年代のカンボジア内戦を経て、インド洋の孤島での大量殺戮事件にいたるまで、戦後アジアの50年を生きた男「ボズ」の数奇な人生を描いた、真藤順丈の衝撃作!

しんどう・じゅんじょう●1977年東京都生まれ。2008年『地図男』で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞してデビュー。同賞を皮切りに、『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞と、主要新人賞4賞を受賞し注目を集める。ほかの著書に『バイブルDX(デラックス)』『畦と銃』などがある。

角川書店 1995円
写真=首藤幹夫 
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編集部寸評

圧倒的に豊かな化け物

読みやすい、つるつる読める、一気読み。そんな言い回しが、ほめ言葉として使われるようになったのはいつからだろう。すぐ読めて、明快に笑える、泣ける。それが面白い小説……だっただろうか。本書はゴツい。物理的にぶ厚いし、文体も「サクサク」とは対極にある。墓頭の目に映るもの、感情を揺さぶったこと、そして次々に訪れる死を、言葉に言葉を重ねて表していく。物語にはさまざまな要素が流れ込んで渦を巻き、「泣ける」「笑える」なんてひとことではとてもくくれないし、ジャンル名も付けられない。ボリュームを反映して、値段も高い。つまりめちゃくちゃハードルの高い本だが、それでもおすすめしたい。圧倒的に豊かで、本当の意味で面白い小説だから。こんなキャラで、こういうオチにしよう、という著者の思惑を、軽々と超越してしまった小説。コントロール不能な化け物のような物語なのだ。その爆走に身をまかせる快感を、ぜひ味わってほしい。

関口靖彦本誌編集長。ひとことでくくれない小説なので、レビューはすごく書きづらい。これはヤバイ……という感じが冒頭からぷんぷん臭ってくる、そんな本です

絶望を生き抜くボズの人間力

“渾身小説”というべき、現在の著者のすべてが注ぎ込まれた過剰で濃密な作品だと思う。奇異な人生を送る男の一代記でありつつ、個性的な面々の活躍する冒険群像活劇でもあり、戦後アジアの空気感を切り取った歴史小説的な要素も持つ。グロテスクな死体の描写や凄惨な殺戮シーン、エゴイズム剥き出しの醜悪な人間の姿など、目を背けたくなるような表現も満載だが、読後にはある種の清々しさを覚える。そうした爽快感は、絶望したくなるような不遇のどん底にあっても決して生きることをあきらめないボズの人間力の凄まじさからくるのかもしれない。それは著者の“強くあれ”というメッセージのようにも受け取れる。名前もつけてもらえず、家も持たず、「この頭のなかに死体があるかぎり、ぼくに関わった人間はみんな死ぬ――」、こんな切ない宿命にあっても生き続けるボズ。その生命力の強さはボズの人生を辿る「僕」にも波及し、読者にも活力をもたらす。

稲子美砂次号3売りのギフトブック特集で、宮下奈都さんが素敵な掌編を書いてくださいました。橋本愛さん主人公でその世界観を撮影します。ご期待ください

続きが気になって止められない

真藤さんの作品は過剰だ。読んでも読んでもなかなか進まない。読み飛ばせないのだ。墓頭って誰? 本当にいた人間? 天才児なのか? テロリスト? 物語は少しずつしか明かされていかない。中盤で墓頭の周囲に異能の仲間たちが登場し、舞台は日本から香港へ。物語はぐいぐい展開していく。だって毛沢東まで出てくるんだから。いったいどこに連れていかれるのか? わくわくしながら読むのだけど、人身売買などグロテスクな場面もしっかり描かれ、眼を背けたくなるような一面も。墓頭の一代記は簡単には終わらない。自分の中に簡単に決別できない「死」を内包した男は、周りに死を撒き散らすしかないのか。この男の孤独はどんな爆弾になっていくのか? 先が気になって仕方がないのに、簡単には読み進められないのだ。それでも今回はあえてお薦めしたい。これが物語だ。これが小説だ。この過剰で荒々しい力と向かいあった真藤さんに喝采を贈りたい。

岸本亜紀『Mei(冥)』2号の制作に入りました。4月19日発売です。特集は『ムーミン』のトーベ・ヤンソンです。綾辻行人さん、恩田陸さんの文庫、2月25日発売予定

読者に火をつける作家の真骨頂

ホラー版フォレスト・ガンプともいえる本作。主人公にして“モンスター”墓頭の一代記なのだが、彼の存在が、高度成長期の日本、70年代の香港やポル・ポト政権下のカンボジアなど、この50年の現代史にも実は関わっているのだ。〈他者こそがすべての恐怖の淵源――〉。作中のこの言葉が語るように、人が起こす争いや殺戮の根源は恐怖なのだと、物語は告げる。恐怖が、他者によって、外からもたらされるのだとしたら、それからいかに逃げ、倒すかということになる。しかし、墓頭は恐怖から逃げられない。なぜなら〈生まれながらに彼は墓だった――〉から。もしも自身が災厄の象徴であったなら。人はみな様々な出自やコンプレックスを抱えて生きるしかない。そう腹をくくることで、動く何かがきっとある。恐怖は他者によってもたらされるが、奇跡もまたしかりなのだ。十字架を背負って這い蹲るように生きた墓頭の物語は、私の腹の底を熱くしてくれた。

服部美穂3/1発売の書籍『本当の大人の作法』内田樹×名越康文×橋口いくよ/著 の一部原稿を、ダ・ヴィンチ電子ナビで2/6から毎週木曜に配信します!

濃厚エンターテインメント!

己に“死”を宿す異形のヒーローを、人々は畏れ、崇拝する。戦後からバブル期にかけての昭和を駆け抜けたボズたちの一代記に、のっけから引き込まれた。ただし一気読みなんてできない。どこを切っても濃厚な味わいなのだ! 現代に繋がる世界の革命や混乱のうねりの渦中に身を置く、怪物たちの執念から、著者の並々ならぬ意気込みが伝わってくる。一口に飲み込める代物では到底ない。重たいシュトレンの欠片を摘みながら結末を迎える、まるで読書のアドベントや!

似田貝大介今月25日に黒木あるじ氏の『無惨百物語 にがさない』を刊行します。いや~な話が、ぎっしりと詰まった渾身の百物語!

物語が放つ圧倒的な力

不遇な宿命を背負ったボズの人生が、戦後アジアの時代のうねりとともに激しく揺さぶってくる。ボズとは何者なのか。頭のなかの死体をどうやって出すのか。そんなことを考えながらも、物語の速度とともにページをめくる手が止まらない。本書の中にこんなセリフがある。「世界が君を拒むなら、世界のほうを変えてしまう選択技もある」。ボズに宿った生きる力に奮い立たされ、彼の物語に多くの気づきをもらった。重厚に構築された世界に圧倒されっぱなしの一冊。

重信裕加昨年他界した祖母のお墓参りに。95歳まで生きた祖母の人生をみんなで語り合いました。貴重な帰省となりました

人は宿命から逃れられるのか

すごくたくさんの人が死ぬのだ。ボズの周りでは。周りの人間を次々と死に追いやる宿命を背負った男・ボズ。でもそんな男にも子が生まれ、そしてその子も親となり、その血は続いていく。周りの人間は死んでいくのに、男の血は絶えることがないという不思議な、そして皮肉な構図に、何を読み取ればいいのか。課せられた宿命の重さに耐えながら生きる男と、それと知ってなお男の宿命に魅せられる人間たちの物語は、読後、私の心に重くのしかかった。

鎌野静華オードリー若林さん初出演映画のサイドストーリー『僕のきっかけ』発売中。映画では描かれなかった一也の物語をぜひ!

真摯で崇高で酷く美しい物語

「ぼくって、なに?」という命題を背負い、アジアの50年の歴史を生き、誰がために、他がために生きる姿を獲得するボズ。「心臓二つぶん、あんたにも生きる理由がある」という言霊の発動、「地味で慎ましい営為が呼びこんだ奇蹟」には心が震えた。「混ぜこぜになった数種のパズルを同時に完成させなくてはならない」物語を見事に紡いだ著者に拍手! 語りの強度がすさまじく、先が気になって堪らない。読了後は読み返し細部に唸り、歴史と人生と個人とを考えさせられる。

岩橋真実引用ばかりになってしまいましたが、ぜひ実際に読んで、著者がこの強大な物語に仕込んだ作家としての挑戦を感じてほしいです

小説自体が怪物だ!

一度目は激動する男の一代記として楽しく読んだ。二度目は彼になったつもりで読んだ。すると、腹の底から力が湧いてきた。頭の中から死体を“出す”ことを目的とする彼が戦後のアジアで生きることは、死をまき散らすことにほかならなかった。しかしそれは大同小異、私たちも同じこと。彼は自身の苦悩も、積み重ねた所業も、すべて飲みくだすことで怪物となった。だからこそこの物語は直接私たちの血肉となる。重厚長大な小説だが、ぜひ一読してみてください!

川戸崇央校了期間中に北尾トロさんらと取材で瀬戸内へ。いろいろと考えるヒントをもらった充実した旅。その模様は次号でお届けします

深く、飲み込まれてほしい

頭に「遺体」が埋まっている不気味な男の一代記は、奇怪でキテレツ。さらに油断すると、読み手が我に返ってしまうほどの過剰さに溢れている。最初、本作の世界が魅せる言葉や語り、人物の言動を自分に取り込んでいくのは、安易ではなかった。しかし、ページをめくる度、目を背けたくなる深意を突きつけられ、過剰さにとり憑かれ、男の生き様に惹かれていく。ひとたび潜れば、痺れるほど極上なエンターテインメントが味わえる。ぜひ深く、飲み込まれてほしい。

村井有紀子今号の特集を担当。電車にお風呂と所構わずマンガを読みまくり、まさに“やめられないとまらない”な日々でした

過剰とスピード感に酔う

車輪に巻き込まれて、ゴリゴリ引きずられたような読後感だ。頭のなかに死体をもつ、生まれながらに墓な男――強烈な設定の主人公の居場所は、寒村の座敷牢から、疑惑めいた福祉施設、香港、アジア各地へと一気に移動する。作者は主人公・墓頭を解釈する暇を与えない。読者が目の当たりにするのは、次々と現れる奇妙な人物と暴力と殺戮だ。過去と現在の糸はつながっていても、目の前の過剰さにかき消される。共感なんて野暮だと吐き捨てるような刺激を感じた。

亀田早希いま、今月25日刊行予定の怪談本2冊を校了真っ最中です。JASRAC申請と参拝が必要なお話を収録。片方まだです……

過去のプラチナ本が収録された本棚はコチラ

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