2007年06月号 『うさぎドロップ』1〜2巻 宇仁田ゆみ

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/13

うさぎドロップ (1) (FC (380))

ハード : 発売元 : 祥伝社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:宇仁田ゆみ 価格:1,008円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

2007年5月6日

『うさぎドロップ』1〜2巻
宇仁田ゆみ
祥伝社フィールC 各980円

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 祖父の訃報を聞き、葬儀のために実家へかけつけた河地大吉は、祖父のかくし子・りんに出会う。親戚同士による押し付け合いに業を煮やした大吉は、享年79歳の祖父が残した6歳の女の子を引きとることになる。
 りんが通う保育園を探し、子供服を買い揃え……仕事と育児の板ばさみの中、ゆっくりと二人の絆を築いてゆく。ある日、りんの母子手帳から、母親に関するの手掛かりを見つけ、大吉は彼女に会うことにした。
 本当は叔母にあたる幼子と三十路男の奇妙な同居生活を描く、なごみ系育児コミック。『フィール・ヤン
グ』で好評連載中。

撮影/下林彩子
イラスト/古屋あきさ
 
 

  

うにた・ゆみ●1972年生まれ。98年『ヤングアニマル』に掲載された「VOICE」でデビュー。著書に『トリバコハウス』『酒ラボ』『ゆくゆく』『よにんぐらし』ほか多数。公式サイト「ウニタコウボウ」http://homepage2.nifty.com/unita/


横里 隆

(本誌編集長。筒井康隆さんの新刊『巨船ベラス・レトラス』には出版界で働く者として大いに刺激を受けました。さすが筒井さん!)

このろくでもない世界の
ふたりぼっちたちに祝福を

大人なのに大人になりきれない“大吉”と、子供なのに無邪気でいることを許されない“りん”。ちゃんとした大人でもちゃんとした子供でもないふたりが、ちゃんとした人たちよりもしっかり手を繋いで生きていく物語。世の中に明確な居場所のないちっぽけな二人が一生懸命身を寄せ合って生きていく様は、いじらしくてかわいい。そして何より、今まで自分勝手に生きてきた大吉が、りんを通じて“か弱き他者の気持ち”に気付いていく過程がいい。出社前、りんを保育園に連れて行く道すがら、満員電車にもみくちゃにされながら大吉はつぶやく。「キツイなー、子連れで朝の地下鉄…」と。また、保育園に到着しては、「俺のいつもの生活圏とは全く別の世界で、ただただ衝撃的だった」と感慨を深める。でも、それらは子供や母親たちには当たり前のことばかりなのだ。ドタバタな育児への挑戦から導かれた発見は大吉自身を成長させていく。最近、擬似家族モノの名作小説&マンガが数多く存在するが、その中でも花マルでおススメの作品です。


稲子美砂

(本誌副編集長。主にミステリー、エンターテインメント系を担当)

愛情が育つ瞬間

「子どもを育てる」ということは「自分を変える」ことなのだ。仕事の仕方、生活の時間帯や食事、交友関係……経済的な負担もぐっと増えるだろうし。でも、そんな変化も楽しいかもしれないと、本書は思わせてくれる。子どもが苦手な私のようなものにですら、だ。愛情ってどうやって育つのだろう。血がつながっているとか、そんなことはあまり関係がないのかもしれない。1巻の後半に「わたしがおねえさんになったら、ダイキチしんじゃうの?」と不安げにりんが尋ねるシーンがある。ダイキチは「りんがおばさんになるぐらいまでは……絶対死なん、まかしとけ!」と言って、りんを強く抱きしめてやるのだ。こんな日々の積み重ねがお互いを変えがたい存在にしていく。慈しむことのすばらしさに気づくコミック。


岸本亜紀
(本誌副編集長。幽ブックスまもなく刊行です。わが息子は1歳6ヶ月になりました。)

素直でかわいい子供の
よいとこが描かれた漫画


出産のすさまじさを描いたコミックエッセイ、実話風子育て漫画などは、子供のいない人たちには「?」な作品群だ。本作は、独身、トップ営業マンがある日突然6歳の女の子のパパになってしまうという設定。漫画を読んでいると、日本では、育児をしながら社会で働くということがまだまだ大変だということや、自分は大人になって間もないのに、子供が持っている「生きるちから」をすっかり忘れてしまっていることに気が付く。作品の中では、主人公のりんちゃんが「子供然とした子供」で、なんともほほえましい。著者には『よにんぐらし』というコミックエッセイ作品があるが、日常で培った「子供を愛する力」がフィクション化され、まっすぐで素直な作品に仕上がったことがとても嬉しく思う。


関口靖彦
(穂村弘さんの弊誌連載をまとめた『もしもし、運命の人ですか。』が、大好評発売中です!)

どこにでもいるのに、
かけがえのない存在

好きな人とか家族とか、大事にしよう。読み終えて、素直にそう思わせてくれるマンガだ。ふだんは忙しかったり機嫌が悪かったり斜にかまえたりして、忘れがちなこと——好きな人を大切にしよう。ダイキチがりんに言う「べつにだっこぐらい いつまででもしてやるよ」、りんがダイキチにいう「こんどダイキチがないたら わたしがだっこしてあげるから」。どこにでもいるサラリーマンと、どこにでもいる子どもが、お互いをだっこしようと決めたとき、かけがえのない二人になる。その力。時間のやりくりだって必要、家事もきちんとしなきゃいけない、明日の健康だって考えねば……それでも、この人を大切にする。その決意が、世界にあふれる平凡な人ひとりひとりを、生かしているのだ。


波多野公美
(4年ぶりにテレビのある生活をしています。次は大容量のHDDレコーダーがほしいです)

愛しい気持ちが湧き上がる

著者の作品に、学歴、職種、才能、家柄などがとりわけ秀でている人は出てこない。異常な人や、異常な事件も出てこない。舞台は日々の生活。登場するのはごく平凡な小市民。どこにも派手さはないのに、読んでいるととにかく愛しい気持ちが湧き上がってくる——それが宇仁田作品の共通点だ。あたたかい読後感の秘密は、そこに根源的な人間への愛情と信頼があるからだと思う。恋愛、結婚、出産、子育て……変化する自身の日常を、つねに最良のかたちで作品に反映させてきた著者が、この先、どんな「日常」を作品で表現するのか、一生読み続けたい。


飯田久美子
(第2回ダ・ヴィンチ文学賞が発表になりました。詳細は8ページに! 幽の第2回もよろしく!)

その関係に名前はない

「ダイキチとりん」としかいいようがない。父娘でも、兄妹でも、友だちでも、恋人でもない。法律的・血縁的にいえば、すごく年下の叔母とすごく年上の甥だけど、それは何も説明していない。2人の関係を説明するものは何か。日々の生活の積み重ね、それだけが2人の関係を作り語る。一見あり得ない設定なのにそう思わせないのも、日常の仔細を丁寧に描いてるからだろう。誰かとつながるということが、法律や血みたいな大きな物語によってでなく、日々の小さな積み重ねによってであることを、『うさぎドロップ』は声高に雄弁には叫ばない、でもたしかにそう感じる。


服部美穂
(次号の裁判特集の参考に、映画『それでもボクはやってない』を観て考えさせられました)

ぜひ男性に読んでほしい

働き盛りの三十路の独身サラリーマンが6歳の女の子を引き取って育てる。勢いとはいえそれを実行したダイキチには十分いい男の素質があると思うが、それ以上に、彼がりんと一緒に過ごす中でぐんぐんいい男になっていく様に感心した。デキル男は通勤ラッシュに泣き言を言わないし、仕事が忙しいなどと文句を言わない。多少の不摂生もやむを得ない。それでも結果を出すだけだ。だが、子供が一緒ではそうはいかない。彼は、一人で生きるだけでは絶対に気づかなかったことに次々と気づいていく。ただ仕事がデキル男よりも断然イケてる。惚れた。


矢部雅子
(この本の進行全般とトクする20冊などを担当)

甘くないけど甘い子育て

「ワケわからん生き物」から、何よりも優先する「大事なモン」に変化する愛情の倍増っぷりがすごい。女子どもに縁遠い無骨な男の視点が子供を育てるまなざしに変わると優しさと覚悟をどんどん手に入れていく様がすごい。出会いからめきめき豊かになっていくりんの表情がそれを証明している。ダイキチのように突き抜けた覚悟のできる30歳はそういないし、勢いと正義感と直感で子供は引き取れない。現実はそんなに甘くない。それでも、大事にしたら大事にされる。そんなあたりまえの気持ちのやりとりが詰まった幸せのお話だ。


似田貝大介
(第1回『幽』怪談文学賞の受賞作『夜は一緒に散歩しよ』と『七面坂心中』が5/18に発売です!)

子供と大人のいい関係

子供は好きだけれど、うるさいクソガキには手を焼く。りんからは物静かで大人びた印象を受けるけれど、それは自分の感情の出し方がわからないという子供らしい葛藤の中から生まれているのだと思う。だから大人は振り回される。突然養うことになった6歳のりんを、ダイキチはどう受け入れるべきなのか困惑する。子供はバカじゃないし、物を知らないわけでもない。りんの敏感な感受性や奔放な言動から、大人たちは初めて気付かされることがある。少しずつ築き上げるりんとの絆、りんを介した大人同士の絆で、ダメな大人たちは成長させられてゆく。


宮坂琢磨
(本誌の連載「マンガ狂につける薬」が3冊目の単行本化。6月1日発売です。『幽』怪談文学賞もよろしく!)

大人力ってなんだろう

「いくら親戚の子だからって、どうして河地さんが“犠牲”にならなきゃいけないんですか!?」りんのために異動を願い出た大吉に、後輩が投げつけた言葉だ。明日から小さい子供の世話をしなければいけないとなれば、自分の生活に制限ができるのは当然で、それを犠牲と考えるかどうかは人それぞれだ。けれど、そういった空気をりんに伝わらないように頑張る大吉をみて、これが“大人”だと思う。自分は邪魔者だと感づいている、りんの居場所を、りんと一緒に作り上げていく様子は、読者を安心させる力強さがある。子供を前にした大人が、大人であろうとするカッコよさって、いいよなあと思う25歳彼女いない僕。

イラスト/古屋あきさ

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