今月のプラチナ本 2014年3月号『亡霊ふたり』 詠坂雄二

今月のプラチナ本

公開日:2014/2/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『亡霊ふたり』 詠坂雄二

●あらすじ●

ボクシング部に所属する高校1年生の高橋和也は、校外でのランニングの最中に、同じ高校の同級生・若月ローコと初めて出会う。名探偵に憧れているという彼女は、魅力的な謎に遇うため、日々の努力をかかさない。この日をきっかけに、自らの探偵活動に和也を付き合わせるようになるローコだが、実は和也が、卒業までに最低でも人をひとり殺そうとしている殺人志願者であることを、知らなかった……。運命か偶然か出会ってしまったふたりは、はたして互いの夢に近づけるのか!? 詠坂雄二が放つ、ミステリーというフィルターを通して描いた鮮烈の傑作青春小説!

よみさか・ゆうじ●1979年生まれ。2007年、光文社の新人発掘企画(KAPPA‐ONE)に応募した長編『リロ・グラ・シスタ the little glass sister』でデビュー。以降、『遠海事件』『電氣人閒の虞』『ドゥルシネーアの休日』『乾いた屍体は蛆も湧かない』『日入国常闇碑伝』、作品集『インサート・コイン(ズ)』などを発表し、注目を集める。

東京創元社 1575円
写真=首藤幹夫 
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編集部寸評

 

二人がいっしょにいる理由

感想をひとことで言うと、「かわいい」。個人的に、こんな甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーを読んだのはひさしぶりでした。名探偵になりたい女の子は、推理力を発揮しようにも、そもそも“謎”に出会えない。何事もない学校生活の中で、無理やり謎を見つけ出そうと奔走する――それが彼女の青春だ。そして人を殺すことが目標の男の子は、何かにつけて彼女と行動をともにする。いずれ彼女を殺すため、その状況をととのえるため、と自らに言い聞かせながら。「それは、恋しちゃったからだよ!」と何回脳内でツッコんだことか。まだ「好き」を知らない二人が、それぞれの夢を通して一緒にいようとする。これを「かわいい」と言わずして何を! そして本書がすばらしいのは、この「かわいい」とミステリーが両立している点。名探偵という存在はあり得るか?という視座を備えつつ、著者ならではの緻密な伏線がはりめぐらされた、高品質娯楽作。

関口靖彦本誌編集長。詠坂さんは、デビュー作『リロ・グラ・シスタ the little glass sister』の文庫版も出たばかり。『亡霊ふたり』に登場する、吏塚高校を舞台にしています

 

会話を楽しむ青春ミステリー

推理小説によくある名探偵の謎解き披露から始まったので、ガチガチの本格推理モノ?と思っていたら、ボーイ・ミーツ・ガールの青春小説だった(ミステリー要素ももちろんあり)。本作で特筆すべきは主人公二人のキャラ。名探偵志望の若月ローコは「世間の常識を気にせず自分のルールを押し通してためらわない」と相方の高橋に言われるほど思い込みの激しい高1女子。ボクシングで注目される高橋和也は、完全犯罪の殺人志望を掲げる一見クールな高1男子だが、その実はローコに振り回されて、くされ縁といってもいい関係。そんな二人+友人たちのリアルでテンポのいい会話がむちゃくちゃ楽しい。コミカルななかにも切実さが詰まっていて、時折そんなセリフにキュンとした。後半、伏線もきっちり回収され、ミステリーとしての満足度も○。今後はサブキャラを主人公にした続編などもおもしろいと思う。シリーズ化希望します!

稲子美砂3月発売予定で『短歌ください』の2冊目の単行本を制作中。陣崎草子さんがダイナミックかつ大胆な装画をあげてくださったので仕上がりが楽しみです

 

青春で本格なミステリー

名探偵を志望している若月は言う。「解明を待ってくれている謎なんて、軽い奇跡」と。今ドキ名探偵や殺人鬼なんて、リアルじゃない!と思う読者もいるだろう。そこをあえて意識することでミステリー好きの読者にも、そうでない読者にも届く物語となった。名探偵になるために何が必要なのか、彼女の行動と発言を読めば、ミステリーの面白さが語られたも同然。殺人志願者の和也は殺人鬼になるために無駄なことは一切しない。彼に恋する女子高生はクールに切り捨てられるし(笑)。目的以外のものは一切いらない高校生二人は皮肉な運命によって出会ってしまった――。周到に用意された設定。この緊張感満載にもかかわらず青春なところが大きな魅力だ。不器用で、まっすぐな主人公たち。ラストの大どんでんは少しせつなく、うすら怖い。今後シリーズになって二人が成長したとき、どんな対決をするのだろう。多くの人が読んで楽しめる青春本格ミステリー。

岸本亜紀3月7日刊行の『消えてなくなっても』椰月美智子さんの本を作っています。これが本当に泣ける物語なんです。たくさんの人に読んでいただきたい、優しい傑作です

 

胸キュン青春ミステリー

名探偵志願の女子高生と、殺人者志願の男子高生。ローコと和也は賢くて一見大人びていて、二人のその切実でいびつな動機にも最初は危うさを感じるが、その背景に見え隠れする若者ならではの真剣な現実逃避願望や、隠しきれない彼らの瑞々しさに、キュンキュンしてしまった。この二人がとっても魅力的! ボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーの良作は数あると思うが、この読み心地はとても新鮮。ひねくれているようで真っすぐ。クールなようで熱い。お互いを利用しているつもりが、気になる。それは恋でしょ!大人びているけど、自分のことで一生懸命で奥手な二人が、自分の恋心のようなものを持て余しまくってる様にも胸キュン。青春だなあ。甘酸っぱいなあ。冒頭から彼らの会話が軽妙でするする読めるので、大人はもちろん、現役まっただなかの高校生にもぜひ読んでほしい。「青春」も「本格ミステリー」もきっちり味わえる、爽快青春ミステリー。

服部美穂 bibliophilicの皆さんと半年かけて製作してきた本誌創刊20周年コラボグッズの仕上がりがとってもいい感じ! 5月号をお楽しみに!!

 

いびつで爽快な青春ミステリー

ローコと和也は、明らかにわけアリでいびつなコンビなのに、爽やかに感じてしまう。それは彼らが青春真っ盛りだから。大多数の中高生は、さまざまな誘惑に翻弄されながら大人になってゆくのだけれど、ふたりはそれぞれの目的に向かい、最短経路をつき進もうとする。荒唐無稽な夢だからこそ、真剣に立ち向かわなくてはならないと信じている。彼らをとりまく周囲の人物も魅力的だ。ローコ、そして和也とともに“謎”を探し求めたくなる。物語の続編を読んでみたい。

似田貝大介キャラクター特集を担当しました。年末年始に、さいとう先生、美内先生、嶋田先生に取材させていただきました。縁起物です

 

ミステリー+青春の新鮮バランス

名探偵志願の女子・ローコと、殺人者志願の男子・和也。このコミカルな高校生の組み合わせが新鮮だ。名探偵になるために必要なものは「謎を解こうとする気持ち」、その謎に遇うことは「奇跡」だと語るローコの真摯な思い。ひたすら夢に情熱を傾ける彼女を見守る和也の、思春期特有の複雑さとピュアさ(殺人志願者だが)。非現実な夢に近づこうと走り続けるふたりの行方を追いながら、ミステリーの面白さ、青春の甘酸っぱさを味わわせてもらった。読後感も爽快!

重信裕加本誌今月号P84の『ビブリア古書堂の事件手帖』第5巻刊行記念、三上延さん+杉江松恋さん対談記事もミステリーファン必見です!

 

夢もいろいろ

「名探偵志願の女子高生と、殺人者志願の男子高生。」そんな夢を持つ二人の高校1年生の物語。現実逃避傾向はなはだしくて、中高生らしい空気感をうまく出しているなぁと思いながら読んだ。彼女らの夢への向きあい方は、幸か不幸か真剣だ。生まれて約16年。知識、経験、社会やその中に生きる自分についての意識が不足なのは仕方ない。でも不足しているとわかったとき、子どもの夢から大人の夢へと形を変える。熱量がそのまま移行するかは人それぞれだけど。

鎌野静華闘病の末、ワンコが神様の元へ。たそがれていたら妹が「元気だして。長野にいい子がいるよ」……ブ、ブリーダーのサイトね……

 

制服の下の、論理(ロジック)と青春

名探偵と殺人者。こういう自分になりたいという像を本気で見据え、彼らなりの非常に筋の通った論理で積極的に行動している。お互いを利用対象と思いながらも徐々に唯一無二の存在になっていく過程がいとおしい。ふたりの“亡霊”っぷりは、青春時代ならではのものかもしれない。屈折していて、真摯で。こじらせてて。応援したくなるのとはちょっと違うけど、彼らが好きだ。常人には理解できない憧れを抱えるふたりの関係性にも、なぜだかとっても憧れてしまうのだ。

岩橋真実近刊ではマンガ『はるひのの、はる』もとてもよかった。一風変わったボーイミーツガール+謎解きなら『少女ノイズ』も大好き

 

スキのある美少女探偵

これほどまでに宿命的なボーイミーツガールがあっただろうか。物語の主役は名探偵志望のローコと殺人者志望の高橋。ミステリーには欠かせない“つがい”の卵である二人は、強い憧れを原動力に勇気と知性とを存分に発揮し、対照的な魅力を備えたキャラクターとして大活躍。ミステリアスでときどき子どもっぽいローコを見つめる高橋の眼差しは、危険な思惑を孕みながらも徐々に変化していき……。二人を見守る学園の脇役たちもとても魅力的。これは続編がある!?

川戸崇央近所のマッサージ店が60分100円キャンペーン。怪しすぎる……校了したら、さぐりに行ってこようと思います

 

みずみずしい青春小説だ

強烈な憧れから名探偵になりたい、真っ直ぐな女子高生の若月。自由な人生を送るため、殺人者になるべく若月を狙う男子高生の高橋。表裏の目標を抱く2人は出会い、夢を重ね、謎解きの日々を介して、青春の日々を謳歌している。若月の「名探偵を目指すにあたって本当に難しいことは、謎に遭うこと」という言葉には笑って頷いた。脇も含めキャラクターがとても魅力的。ミステリーの中に、みずみずしい煌く青春が交差する、新感覚の青春小説。

村井有紀子TEAM NACS戸次重幸さんの初小説『ONE』絶賛発売中! サインお渡し会も大盛況。ありがとうございました

 

ちょっと奇妙な青春ミステリー

殺人犯になりたい男子高生と名探偵になりたい女子高生。こんな奇妙なバディは珍しい。しかも、彼の最初の獲物はその女子高生だ。トンデモな夢を声高に語り、片端から謎を解く彼女を手伝い、殺すタイミングを狙う彼。だが、彼女に危機が迫れば助けに走り、彼女から覚えた思考法を駆使して謎を解いてしまう。……甘酸っぱい! 10代特有の壮大な夢を行動に移す主人公たちと、いくつも現れる謎解きが絶妙にマッチしていてぐいぐい読まされる。爽やかな読後感だった。

亀田早希オペラ沢かおり『怪運☆マニア』発売中です! 著者の世界観を表現するため、凝った造本に。書店で見たら開いてみてください!

 

 

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