2009年05月号 『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』(1〜3巻)太田垣康男 C.H.LINE

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/6

FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE 1 (ヤングガンガンコミックス)

ハード : 発売元 : スクウェア・エニックス
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:太田垣康男 価格:545円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』(1〜3巻)

太田垣康男/原作 C.H.LINE/作画

●あらすじ●

ゲーム「FRONT MISSION」シリーズの世界観を基にして繰り広げられる、リアル戦争アクションコミック。アジア、オセアニアを中心とした連合国家「O.C.U.」と、南北アメリカを中心とした連合国家「U.S.N.」の間で覇権争いの舞台となっているハフマン島で、第二次ハフマン紛争と呼ばれる戦争が勃発した。ヴァンツァーと呼ばれる機動兵器を主力に、ハイテクを駆使して繰り広げられる戦争を、ジャーナリスト、ヴァンツァーの日本人パイロット、ヴァンツァー狩り部隊、敵の勢力圏に取り残された兵士と彼に助け出された少女、そして残酷な映像を求めて戦場に現れ、それをネットで公開する歪んだ戦争カメラマンなどを通して生々しく描く。『ヤングガンガン』で連載中。

おおたがき・やすお●1967年、大阪府生まれ。88年、アフタヌーン四季賞の佳作に選ばれ、デビュー。本作では原作を担当している。他の代表作に、近未来の宇宙飛行士たちを描いた『MOONLIGHT MILE』などがある。

FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE
スクウェア・エニックス ヤングガンガンC
530〜540円
写真=川口宗道
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編集部寸評

戦場の陶酔を廃した本当の恐怖

人の心は戦いに燃え、勝利に陶酔する。人間には生存本能からくる戦闘本能があるから。その本能が架空の物語やゲーム、スポーツなどで昇華されるのはいい。しかし国家の生存本能であり自己顕示である“戦争”を認めてはならない。戦場にカタルシスはなく、あるのは殺し合いの恐怖だ。本書はそれを執拗に描く。戦場のロマンチシズムを徹底的に廃し、腕がちぎれ、脳しょうが飛び散る。人と人が向き合って殺し合う地獄が現れる。それだけでもすごいが、この作品にはひとつ仕掛けがある。それは狂言回し役の犬塚の存在だ。戦場の映像配信に逸脱した執着を持つ彼の狂気に怖れと嫌悪を感じながらも引きずり込まれそうになる。それこそが戦争に対する人々の素の感情であり、狂気の力だろう。ここまで描いた戦争マンガはかつてない。

横里 隆 本誌編集長。今号で弊誌は創刊15周年を迎えました。15年を振り返り感無量。読者の皆様に心から感謝を!

私達の頭上をミサイルが飛んでも

世界のどこかで起こっている戦争に対して私達が抱く感慨。モニター越しにどんな残虐な行為が繰り広げられていても「銃口が近づかない限り、全ては海の向こうの他人事」なのだろう。本書は、予測する間もなく戦争に巻き込まれることになった特派員・松田の目を通して戦場の容赦のなさをグロテスクに描いていきながら、犬塚という戦場にいながら戦争を客観的に眺め、ある種楽しんでいるような存在を置くことで人間の別の本能を提示する。そして彼の記録する残酷な映像を喜んで観る人々。戦場の恐怖を肌で知った松田すらも、そちらに取り込まれていくさまをみると、私達は自らの頭上をミサイルが飛んだとしても正しく現実を理解できないのではないかという恐ろしさを感じた。2090年という設定だが、現代であっても違和感はない。

稲子美砂 谷川さんが「『ダ・ヴィンチ』によせて」くださった詩を蒼井優さんの朗読でお届けできることが嬉しいです

一瞬で戦いにはまってしまった

ジャーナリストとして赴任した場所で戦争勃発、うーむ嫌な展開だな〜と思っていたらいきなり容赦ない戦いが始まる。血でぐちゃぐちゃだし、戦闘マシーンは超強そうだし、パートナーである犬塚は不気味で狂気に満ちているし。ひたすら物語から目が離せないのだ。この極限状態の中で、戦い続けることを強いられてきたアカギ大尉が、キノの傷ついた心に出会うことで、お互いが温くとけていくところなど、人間ドラマもあり読みどころ満載。戦場のすさまじい残虐シーンに「こわ〜、殺さないで〜っ」と叫んでいたはずが、ラストでは「いけ〜っ、とどめを刺せ!!」と犬塚にシンクロしてしまう。私の中の狂気がむくむく立ち上がっていく様を自分で見てびっくりした。久々に熱中した。4巻が刊行されるのが待ち遠しい!!

岸本亜紀 立原透耶『ひとり百物語 怪談実話集』東雅夫『怪談文芸ハンドブック』ともに絶賛発売中

おれの中にも犬塚がいる

この作品のキモは、狂気の戦場カメラマン・犬塚の存在だろう。人の生き死にに頓着せず、戦闘そのものを純粋に楽しむ傍観者。兵士ひとりひとりの痛みや哀しみを描くと、ふつうは“いい話”になってしまうところ、犬塚の視線が「しょせん兵士は、戦争という巨大な機構のイチ歯車でしかない」ことを常に読者に意識させる。その非人間性こそが、戦争を描く作品には必要なのだ。そしてまた、犬塚の存在が効いていると思うのは、犬塚の気持ちがわかってしまう瞬間である。機動兵器のバトルのクライマックス、犬塚の「刺せ! とどめを刺せ!!刺せェェ!!」という叫びに共鳴する部分が、確かに自分の中にもあるのだ。戦争の悲惨さに胸を痛めながら、その胸の中に人を殺す衝動もある│キレイゴトではない戦争を、犬塚が見せてくれる。

関口靖彦 今号ではオールタイム・ベスト・コミック特集を担当。自分の推した作品はみんなランク外でした

目に見えるものしか信じないこと

小学校でいちばん怖かったのは、トイレの花子さんでもなく、血の涙を流す音楽室のベートーベンでもなく、図書室にあったベトナム戦争の報道写真だ。戦争って怖いと思った。だから、犬塚はえらいと思う。その情報がどういう動機でもたらされたものなのか、とかは関係ない。それはあとからつくられる物語でしかない。犬塚とあのヤリマンの女の子は、物語に頼らない、とてもタフな人に思え、すごいなと思いました。

飯田久美子 宮木あや子さんの葬儀屋さん小説『セレモニー黒真珠』大好評発売中です。笑って泣けます!

カメラ越しではわからない戦争

1巻「戦争の透明人間」は腹の底をえぐられるような物語だ。9・11テロでビルに2機目の飛行機が激突する瞬間をテレビの生中継で観ていた私は、これから世界はどうなるのかと恐怖したが、さほど変わらない私の“現実”に安堵し日常に戻っていった。だがあの日、ハフマン島にいた松田や栗原の人生は一変した。彼らもきっとあの地を訪れる前は、私と同じようにカメラ越しに遠くの“現実”を傍観していたはずなのだ。

服部美穂 取材で神戸に行った際に立ち寄った有馬温泉で、人生初の路上猿回しを見ました。私の現実は平和です

なんとなくわかる……気がする

私は戦争を知らない。だから漠然とした不安を持ちながらも気にすることなく生活している。でも本当は恐怖から逃げながら、鈍感なふりをしているだけなのかもしれない。自分が当事者になったことを考えれば、憧れなんてありえない。湾岸戦争がはじまった日の夜、一人布団の中で恐怖に震えていた。その一方、ゲーム感覚で遠い国の爆撃シーンを観る気持ちも理解できる。心をくすぐるメカと武器。破壊と力。犬塚は私だ。

似田貝大介 1特コミックランキングは必見です。アンケートにお答えいただいた皆様、ありがとうございました!

モノクロで目覚めるリアリティ

絶望のなかの生への希望。それだけを救いに、息をのみ一気に読んだ。2090年の戦場が、私たちのリアルな今を引き寄せる。ネットに群がる興味の暴走、9・11で知ったはずの終わらない争い。「みんな無関心なだけよ」と強がってみせた彼女のつかの間の幸せ。その1分後に起こる運命としては片付けられない展開……。恐いのは、タガが外れていく人間の弱さだ。だからこそレンとキノに救われた。その先の物語も、きっと。

重信裕加 今号の付録DVDに、たむらぱん登場! これまでの連載とあわせて、ぜひ。「キースとモモ」名曲です!


惨劇がなくならないのは何故だ

戦争や飢餓のショッキングな映像に触れたとき、そこにいるのが自分だったらと考えて、きっと正気を保てないだろうと思う。でも実際にそうなったら、それが日常になるだけの防衛本能が自分にあるだろうことも予想できる。本書には、その過程にいたる様々な人が登場し、戦争の異常性と人間の本能を描き出す。だからこそ、私が怖いのは犬塚ではなく、松田だ。彼が今、正気なのだとしたら、とても恐ろしい。

鎌野静華 15周年記念DVD、土屋礼央さんの企画は必見です。左利きの人にそんな苦労があったとは……

それでもまだ戦争は遠いけど

昔から漠然と、物語だとたぶん私は命乞いをする側だと思っていた。使命を背負うヒーローにも献身的なヒロインにもなれない、ちっぽけな存在。想像して、自己嫌悪。だけど現実、そんなご立派な人がどこにいるだろう。隣の誰かを必死に守るのは自分のため。逃げるのも、戦うのも、全部そう。そこには美しさとか誇りとか矜持とか、そんなものはたぶんない。生きたいと本能が叫ぶ、それだけ。ひしひしと、そう思った。

野口桃子 第二特集で取材した池谷裕二さんのお話に大興奮。脳科学勉強したい!ゼミ入りたい!と本気で思った

犬塚ははたして異常なのか

この作品で、読者に一番近い立場の登場人物は誰かを考えたとき、それは間違いなく傍観者たる犬塚だと気づき、愕然とした。もっと言えば、我々は犬塚よりなお戦争に対して不感だ。現実の世界で今なお続く戦争のニュースに接しても、傍観すらしていない。もちろんそれが悪いこととは思わない。それが日常だ。でも、我々は知らなすぎるのではないか。少なくともそこに人びとの痛みがある、その事実だけでも胸に刻みたい。

中村優紀 こんなハードなものから『サンレッド』『荒川』みたいなゆるいものまで。『ヤングガンガン』、大好きです

半分人間じゃなくなっても

「リサイクル部隊」のアカギ大尉。彼が最も「人間らしい」感情や表情を持つことに著者の凄さを感じた。「棺桶に逆戻り」と呟き、精一杯の笑顔を浮かべ、キノの足元を撃つ。心に焼きついた。そして戦争は手段が目的化する最たるものだから、彼はあそこで敵を刺さなきゃいけない。でも、何たる悲劇と瞬間的に感じた。戦争は始まったら戻れない。リサイクル部隊も現実に十分ありうる。だからこそラストは少しだけど救われた。

岩橋真実 コミックダ・ヴィンチでご紹介『7SEEDS』は、ほんとうに読み始めたら止まらない作品です。男の方もぜひ

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