【ダ・ヴィンチ2015年11月号】『キングダム』特集番外編

特集番外編2

更新日:2015/10/8

【ダ・ヴィンチ2015年11月号】『キングダム』特集番外編

歴史モノが苦手という女性でも絶対ハマります!!

編集H

 歴史は苦手で、中国史にも三国志にもさして興味のなかった私が、数年前に突如ドハマリしたマンガ『キングダム』! こんなに面白いマンガがあったとは! と当時は毎日家に帰って『キングダム』の続きを読むのが楽しみで、連載に追いついてしまったときは、日々の楽しみを失ってしまったと思うほど。だから、まだ未読でこれから一気読みできるという方が本当にうらやましいっっ。

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 今回は王騎将軍を入口にした特集でしたが(俳優・鈴木亮平さんの王騎グラビアは必見です!)、『キングダム』の魅力は個々のキャラクターの多彩さです。

 特集を作るにあたって、『キングダム』好きの人に会うと「誰が好き?」と色んな人に聞いたのですが、いわゆる人気キャラクターではないキャラクターでお気に入りのキャラクターを挙げる人がとても多かったです(アニメ版王騎で声優を務めた小山力也さんも意外なキャラクターについて語ってくれました。本誌でご確認を!)。

 私も一人挙げろと言われると難しいのですが、少ない女性キャラクターがみんな素敵なところも『キングダム』の魅力だと思います。美貌と武力をそなえた楊端和に羌瘣、愛らしく知力にたけた河了貂だけでなく、健気な向に、毒婦・太后。タイプは違いますが、みんな魅力的! どの女性も男性たちに負けない存在感があって、ちゃんと人間ドラマが描かれているので、女性も感情移入して読めるのだと思います。

 ちなみに、今回取材させていただいた中国史学者の渡邉義浩さんが語ってくれた、楊端和と羌瘣の担っている役割も大変興味深く面白かったです。個人的には原作者の原泰久さんといつか直接対談していただいたらとても面白い記事になりそうと思いました。(ヤングジャンプ誌上でぜひ!)

 このように、歴史に疎い私の興味の幅を拡げてくれ、何よりもマンガとしてとにかく楽しませてくれる『キングダム』今からでも充分間に合いますので、特に食わず嫌いでいる女性の皆さんにぜひぜひ手にとっていただきたいです!

 

九州が生んだ『キングダム』

編集K

 中国が国慶節を迎えるなど、訪日観光客が各地で増えている10月上旬。中でも中国大陸に近い九州には船来の中国客が押し寄せ、長いスパンで活況を見せているという。

 そんな九州に生まれ、いまも在住しているのが『キングダム』の作者・原泰久。今回弊誌では、福岡にある原の仕事場に、メディアとしては初めて潜入させて頂いた。

 これまで弊誌では『NARUTO』や『進撃の巨人』といった近年を代表するヒット作について特集記事を組んできたが、いずれのインタビューでも作者の故郷に対する思いや、作品への影響を示唆する発言が印象に残っている。

 マンガを生み出すのがマンガ家という人ならば、その人を育んだ街は作品に一体どんな影響を与えるのだろうか。

 少年誌らしい未成熟な主人公たちに作者が自身を重ね合わせるのであれば、彼らを取り囲む環境が作者の原風景と似通うことはあるだろうし、彼らが守ろうとする世界の行く末は、作者が幼少期に育んだ素朴な感情に基いて描かれているのかもしれない。

 一方の『キングダム』は、典型的な青年マンガだ。ここ数年の青年マンガを代表する作品となった歴史大河は「情報量が多さ」が圧倒的で、作者の原泰久は前職がシステム・エンジニアという理系畑の人間。作品からほとばしる熱量とは正反対の、クールな第一印象には驚きを隠せなかった。

 理詰めで設計された戦場の配置や用兵の展開に加え、政治、経済、外交を複合的に絡めた各国内外の駆け引きなど、春秋戦国時代という資料に乏しい時代のダイナミズムを、大胆かつ繊細に描き切っている『キングダム』。ズシリとした物語の世界に入り込む楽しみで、読者を満たしてくれる傑作だ。

 原の故郷は福岡県との県境、佐賀県三養基郡基山町であり、会社員経験を経て、デビュー後に上京。現在では仕事場を福岡に移している。冒頭にも述べたように、中国大陸が近いという地理的な要因から、政治・経済両面での交流が盛んだった九州地方。山や湖が点在する地形もユニークで、名城の誉れ高い熊本城などの旧跡も数多い、人と自然が適度に融合したエリアだ。

 原へのインタビュー前夜に福岡空港へ降り立つと、夏の余韻を残す街は時計を見るのが嫌になるような熱気に包まれていた。中洲へ足を向けると屋台で地元男性に声をかけられる。コップ酒を酌み交わしながら携帯のカメラを向けると陽気にポーズをとり、「いま博多ば賑わっとるばい!」と酒瓶を押し付けてきた。店内に飛び交う英語や中国語はアクセントに過ぎず、博多弁が優勢だ。翌日に備えてはやめに切り上げ、酔いざましにとたっぷり1時間以上かけて街を歩いたが、どの店も酔客で賑わっていた。

 こういう土地に生まれ育ったから、原は『キングダム』という豪快でぶっ飛んだ作品を描けたんだなと素直に感じた。血はたしかに流れているのだと思う。

 では今回、弊誌が特集の主人公に据えた王騎はどうか。彼のモデルは『史記』に記された王齕や王齮とされているが、同じく『キングダム』の登場人物である王翦や王賁ら王姓の人物は軍事エリートとして描かれており、王騎もそれなりの血筋にあることが想像される。

 そうは言ってもこの時代の正確な史実はないに等しく、別の側面に注目したときに、この王騎というキャラクターが生まれた経緯に大きく関わっているのが原泰久の師匠・井上雄彦氏であり、その仕事場である。

 詳しくは本誌のインタビューを参照してほしいが、原泰久が大尊敬する井上雄彦氏の仕事場で起きた「おちゃめな事件」をきっかけに生まれたのが王騎だとすれば、妙に納得がいくのは筆者だけだろうか。

 圧倒的な武勇と部下を育てるカリスマを併せ持ち、ユーモアも忘れない王騎。彼が生まれ、後に作者の想像を超えて成長を遂げたとき、『キングダム』という物語の骨子ができあがったのだ。

 いよいよ今月19日にコミックス40巻が発売され、信が再び躍動する舞台が整った感のある『キングダム』。重厚なエンタメ大河のこれからを楽しむための準備として、本誌とともに「王騎の物語」を総括してほしい。

以上