【ダ・ヴィンチ2016年2月号】今月のプラチナ本は 『アルテ』

今月のプラチナ本

更新日:2016/1/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『アルテ』大久保 圭

●あらすじ●

16世紀初頭、ルネサンス爛熟期のフィレンツェ。貴族の娘で15歳のアルテは、“女性の幸せは結婚だけ”だった時代に逆らって、画家工房に弟子入り志願。“女であること”を理由に無数の工房から門前払いにされ続けるが、持ち前の負けん気で、無口で厳しい親方のレオに認められ、晴れて弟子入りを果たす。しかしその仕事の厳しさは予想以上で……? 高級娼婦のヴェロニカや修業仲間のアンジェロ、ヴェネツィア名門貴族のユーリなど、さまざまな人に出会いながら一人前の画家を目指す、少女・アルテの奮闘記。

おおくぼ・けい●2011年、鳴海圭名義で『Fellows!』よりデビュー。12年より、大久保圭名義で活動。13年、『月刊コミックゼノン』に読み切り「工房の乙女」を発表したのち、初連載『アルテ』をスタート。

大久保 圭
徳間書店ゼノンC 各580円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

自分の仕事を手に入れるための気概

初めは「元気をもらえる」マンガだと思いながら読んだ。だが読み進めていくと、ちょっと違う。「ケツを蹴り上げられる」とでも言おうか。「お前は何をやっているんだ」と問い詰めてくる、そんな迫力のあるマンガなのだ。といっても主人公のアルテは、人を責め立てるような人物ではない。やるべきことを一所懸命にやる。そして自ら苦闘するうちに、ようやく仕事の楽しみを見出す。アルテは自分の力で、自分の仕事を手に入れているのだ。対して自分はといえば……与えられた環境や仕事に疲弊して、座り込んでいるだけではないのか。やりたいことをやるには、自ら立ち上がり、苦しみながら進むしかないはずなのに。気がつけば「やりたいこと」より「ラクなこと」に傾いてしまう自分は、『アルテ』にケツを蹴り上げてもらうべきなのだ。

関口靖彦 本誌編集長。著者の画力も、本作の大きな魅力。アルテのはつらつとした表情にはハッとさせられることもしばしば。風景を微細に描き込みながら、人物を埋もれさせない技量にも圧倒されます。

 

お仕事マンガというよりスポ根マンガ

女性蔑視の時代に自らのやりたい絵の仕事に向かって邁進していくアルテ。第1巻では、その真っ直ぐさがあまりにド直球で、そこになんの屈折も戸惑いもないので、好きな人と馴染めない人と大きく分かれるかもしれない。「女だから」という理由で門前払いされるなか、不屈のど根性で課題をクリアしてアルテの姿を見ていると、お仕事マンガというよりもスポ根マンガの印象。このころの画家って芸術家というよりも職人的な存在、まさに修業の世界なのだ。2巻以降は、さまざまな立場の脇役陣が登場し、物語に膨らみが出てくる。自分が前向きに頑張るだけでは解決しない問題─成長譚はここからスタートと入った感がある。画家を目指す設定なので、そうした職業的な薀蓄も期待しつつ、アルテがどのような女性に育っていくのか、その変化に注目したい。

稲子美砂 村田沙耶香さんの『消滅世界』が面白かった。「ディストピアというよりユートピア」といってしまうところが村田さんらしい。個人的には半分くらいの要素はすでに現実化しているように思う。

 

やわらかに奮闘するアルテの今後に期待!

女がひとりで生きることがこの現代の比ではないぐらい困難だった16世紀初頭のフィレンツェ。貴族家系出身のアルテは、傍からみれば非常に恵まれた出自だが、アルテにとっては、誰かの力に頼らないと生きていけない現実は、しょせん不自由で頼りないものだ。私が共感したのは、師匠のレオに弟子入りの動機を本音で語っているシーン。彼女が自分の原動力である“怒り”と覚悟について語っているところだ。本書には、高級娼婦のヴェロニカや針子のダーチャなど、立場は違うが、同じく自分自身の力で生きるべく格闘する女たちが登場する。彼女たちはみな、明るく、たくましい。きっとその笑顔の下にはみな“怒り”を抱えながらも、誰を責めるでもなく、ならば男より頑張るしかないと腹を括って生きている。そんな彼女たちは清々しく美しい。

服部美穂 1特の落語特集で、落語に関わるいろんな方にご協力いただいたのですが、落語の世界に生きる方々は、皆さん本当におおらかで気さくであったかい方ばかりでした。落語の懐の深さを痛感!!

 

美しい街並みとキュートな女の子の物語

アルテは女が職人になることなど考えられなかった時代に起こりうる様々な逆風を、笑顔と気合いで乗り越えていく。彼女の持つ“強さ、無邪気さ”とも言い換えられる、ある種の“無神経さ”は、前を向くには必要な力だ。「自分自身の力で生きられる道を目指したいんです」。何故職人になりたいか、という問いに対する主人公・アルテの答えは、今の日本に生きる私も気にしていくべき課題だと思う。ど根性なアルテの物語とともに、16世紀を舞台とした街並みの美しさも必見。

鎌野静華 昨年に引き続き香川選手を応援しにドルトムントへ。試合も楽しかったし、クリスマスマーケットも綺麗だった。ニシンとじゃがいもって合うんですね。

 

弟子を撫でる師匠 〜束縛を乗り越えて〜

アルテの師匠、レオさんは節目節目で弟子の頭を撫で回す。21世紀の日本では壁ドンという言葉が流行りましたが、行為に移そうとする男子は少なかった(はず)。でも師匠による弟子撫では、お互いの師弟関係なしには成立しないんです。己の身分にとらわれず挑戦した二人が、色んな意味でとっても羨ましく思えるシーン。自分の欲求に従うことが女性にとって難しかった時代に、真っ直ぐに生きようとするアルテを無自覚に揺さぶる師匠。恋と仕事。アルテは最後に何をつかむのか。

川戸崇央 沼津マリーさん単行本『実家からニートの弟を引きとりました。』が発売です。笑える序盤、結末はしっとり展開の姉弟二人暮らし。ぜひご覧ください!

 

働く女性必読な一冊

女性がひとりで生きていくことに、自尊心を持って仕事をすることに理解がなかった時代。アルテはひたむきに画家を目指し走っていく。彼女の懸命な姿勢に胸を打たれつつ、また周囲の女性たちも素敵だ。アルテがヴェロニカの笑顔に感じた「この笑顔のうしろにどれだけたくさんの事を隠しているのだろうか」。この繊細さはもしかしたら女性同士にしか感じられないかもしれない。笑顔で、しなやかに、色々なものを隠しながら働いているのは現代女性も一緒。働く女性必読。

村井有紀子 祝! 星野源さん紅白初出場! この原稿を書いているのは12月ですが、いまから楽しみで仕方ないです。紅白決定の裏側は連載エッセイで→P146

 

挫けない心を思い出させてくれるお仕事マンガ

「自分の力で生きていけるようになりたい」と画家職人を目指して奔走するアルテ。女であることが数々の逆境を生むが、そのたびに負けん気を発揮し、臆せず立ち向かっていくひたむきさが爽快だ。読んでいるこちらも、何かにもっと熱くなりたくなってくる。舞台はフィレンツェからヴェネチアへ移るわけだが、工房を離れている間、アルテの新しい経験や画家としての成長が、ほのかに灯っているレオ親方への恋心とあわせて、どう展開されていくのか……。次巻が待ち遠しい。

地子給奈穂 アルテとレオ親方はもちろん素敵なのだが他の登場人物も魅力的。とくに高級娼婦・ヴェロニカ。美しくて底知れなくてカッコイイ。友達になりたい。

 

新年の自分を発奮させてくれるかも

“女だから”という理由で、自分の力で生きることを諦めたくない。」そんな信念を持った女の子が、圧倒的男性優位の中世フィレンツェで、画家として大成を目指す──。中世版“働く女性応援モノ”か、と思ってしまうが、侮るなかれ。主人公・アルテの嫌味のないしなやかな強さは、男女関係なく勇気を与えてくれる。キラキラと輝くキャラと、美麗な背景に目を奪われがちだが、圧倒的な熱さを備えた“スポ根画家マンガ”なのだ。ありそうでなかった作風に、今後も期待!

鈴木塁斗 後輩の髙岡とは1歳差ですが、地元に帰ると、友人の中に学生は残っておらず……結婚や出産がリアルに迫る時期(25歳です)。今年は頑張ります(?)

 

頑張る横顔の美しさ!

ルネサンス期のフィレンツェ、街には絵画や彫刻を手掛ける工房が立ち並び、芸術家たちは自らの腕一本で富を築くことを夢見て、切磋琢磨する。そんな世界に貴族の子女であるアルテはたった一人で飛び込んだ。圧倒的な男社会で差別され、軽んじられても根性で道を切り拓く姿がまぶしい。なにより痛快なのは、彼女の原動力が「女性だから自分の人生を選べないこと」への怒りにあること。清々しいほどにスポ根なのだ。年初めにうってつけ、効果抜群の活力剤となる作品。

高岡遼 飲み会シーズン。高校時代の友人と居酒屋に行くと、学生と社会人が入り混じることに。学割がある店、社会人割がある店、店選びはいつも難航必至です。

 

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