今月のプラチナ本 2012年1月号『野蛮な読書』 平松洋子

今月のプラチナ本

更新日:2011/12/6

野蛮な読書

ハード : 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:平松洋子 価格:1,728円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『野蛮な読書』

●あらすじ●

「一歩も動かないのにどこかへ行ける。しかも、だれにも知られずに。(中略)本は時空間を突破する魔法の絨毯だったのだ」(「第一章 贅沢してもいいですか」) ―こどもの頃から本に慣れ親しみ、食文化と暮らしのエッセイストとして活躍する平松洋子が、日常の中にある読書の愉しみ方を個性的な視点で描き出した名随筆。沢村貞子、山田風太郎、獅子文六、宇能鴻一郎、佐野洋子、川端康成をはじめとした全103冊の本の旅へ、新しい発見とともに、味わい深くエスコートしてくれる一冊。

ひらまつ・ようこ●1958年、岡山県倉敷市生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。エッセイスト。『平松洋子の台所』『買えない味』(第16回Bunkamuraドゥ マゴ文学賞受賞)『おとなの味』『夜中にジャムを煮る』『焼き餃子と名画座 わたしの東京味歩き』『サンドウィッチは銀座で』(谷口ジロー/画)など著書は多数。

集英社 1680円
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

こんなふうに読書を語りたい!

こんな雑誌で仕事をしていながら、本を紹介したり批評したりするのは難しいと思っている。本はとても個人的なものだから。僕が感銘したからといって必ずしもあなたの心に響くとは限らない。だったらいっそ「野蛮な読書」として個人的な読書体験を綴ったほうが嘘はない。平松さんはそんなふうに弾をよけながら、その実、読者を強烈に誘惑していく。本の魅力の渦に巻き込んでいく。その技は見事だ。勉強になるなぁなんて頁を繰っていたら、いつのまにか勉強なんてさっぱり忘れて読みたい本で溢れていた。だってこんな言葉で紹介するのだ。「小説ぜんたいが救いを求めながら、救いそのものなのだ。凄いぞ、トム・ジョーンズ」と。うへえ、またやられた〜!と読みたい本リストに追加する。平松さんの野蛮に、わたし、おののいたんです。

横里 隆 本誌ご隠居兼編集人。山岸凉子『日出処の天子』〈完全版〉第1巻が11月22日に発売になりました。世紀の傑作をぜひ!

本という枠を遥かに超える読書

平松さんの読書の、なんと深いことか。私も読書好きのつもりでいたが、薄っぺらい味わい方しか出来ていないと思い知らされた。字面だけを追って「面白い」「よくわからない」のひと言で終わってしまうのが私の読書。だが平松さんのそれは、活字が食べものにつながって肉体をも揺さぶり、風景と呼応して目に焼きつき、遠い記憶を掘り起こすことで時を越える。それは、〝そこに書かれていること〞だけではない読書。たとえば同じ著者の本でも、時代を追って何冊か読むことで、著者の変化が見えてくる。その意味を考えることで、一冊一冊の読み解き方がぐっと深まる。さらに自分の経験を重ねて鑑みれば、本の中に描かれた感情が、まさに自らの血肉となる。私もそんな読書がしたい――読み飛ばしてきた本を、あらためて手に取ろう。

関口靖彦 本誌編集長。備忘録としてブログに読書感想をつけているのですが、忘れてしまうのは自分の読みの浅さのせいでした

文章にそそられて書きたくなる

タケダさんから小包が届いた。いそいそ開けると、京都土産の「カステイラ」である。うわ、まえから食べてみたかった「大極殿本舗」謹製ではないの――この冒頭から持っていかれる。平松さんは文章そのものがすでに美味しそうなのだ。さすが食エッセイの達人。題材が食べ物でなくても、人のお腹を「グウ」と鳴らせるのが上手い。本書を読むと「読みたくなる。食べたくなる」は当たり前で、さらに「書きたくなる」。口語を多用した軽やかな文体と大胆な比喩、鋭い分析とユニークな妄想(山下清と叶恭子のご対面には笑った)は、私もこんなふうに書きたいという欲求に火をつける。が、おいそれとは書けない。平松さんが宇能鴻一郎の文章を評した「無防備な文章なのにしたたかなリアリティがある」。これがそのまま当てはまると思った。

稲子美砂 宇能鴻一郎の「あたし」小説はかつて週刊誌で愛読していた。絶版も多い宇能作品だが電子書籍なら読めるものも結構ある

体ぜんぶで本を味わう快楽

はじめて本の世界を知った子ども時代の感覚を思い出させるエッセイ集。だが、沢村貞子の献立日記の4日間の空白に貞子の覚悟を感じ、文学と官能を描いた宇能鴻一郎の佇まいのきれいさを想像する楽しさは、大人になった今だからこそのもの。平松さんのワクワク感が伝わって、今すぐ本屋に行きたくなる。何度も読みたくなるし、登場する本も読みたくなる。読んだらまた『野蛮な読書』を読み返したくなる。そんな本だ。

服部美穂「価値観再生道場 これなんぼや?」の書籍化『原発と祈り』が12/16、古田新太『魏志痴人伝』文庫が12/22に発売!

たった数行で恋に落ちる魔力

街角を散歩しながら、本やごはんに想いを巡らせている臨場感が楽しい。次々に浮かび上がる本のあぶく。著者とともに寄り道しながら散乱した思惑が、最後はすとんと着地。思わず「お見事!」といいたくなる。頷いたり唸ったり読み手は忙しい。でも次の一手が気になってやめられない。本書では多数の本が紹介されるが怯む必要はない。食べたこともない食べ物に涎を垂らすように、たった数行で未読の本に恋してしまう。

似田貝大介 怪談専門誌『幽』16号がまもなく発売。「怪談通信」では、怪談文学賞&怪談実話コンテスト受賞者を発表

読書欲と食欲がとまらない

わずかな時間を見つけては本を読み続ける平松さんの、満ちたりた日常が伝わってくる。特に第一章〜第二章で綴られる、食に関するエピソードがたまらない。ふつうの人の『おべんとうの時間』から、女優・沢村貞子が26年間もつけていた『わたしの献立日記』まで、頁をめくるごとに読書欲と食欲が交互に襲ってくる。そして本を通じていろんな人の機微にふれ、ほろりとさせられるのだ。こんな読書体験は、そうそうない。

重信裕加 年末進行もあわただしく、気がつくと今年もあとわずか。最近、素敵に歳を重ねている女性たちに憧れます

もっと本が好きになる!

第二章「わたし、おののいたんです」を、非常に興味深く読んだ。描かれている宇能鴻一郎、池部良、獅子文六、沢村貞子それぞれの魅力が満載で、章を読み終えてすぐに、各人の著作を読みたくなった。特に宇能鴻一郎作品の変遷はすごい。純文学から官能小説へ。宇能鴻一郎ただ一人が描くことのできる官能の世界、その世界を感じてみたい。そしてその後に、官能小説を究めた作家が手がけた〝食のエッセイ〞を堪能したい!!

鎌野静華 今更パンケーキにハマる。昔は食事が甘味だけなんてありえなかったけど、今じゃ夜ゴハン=ケーキとか……危険すぎる

何度でも、出会うたびに

布団の中で本を読むのが好きだ。本書にもあるように、一歩も動かないのにどこかへ、だれにも知られずに行ける。本との理屈抜きの出会いと「本は本を連れてくる」幸福な連鎖。そうそう、このたまらなさ。著者の幸福な読書生活のお裾分けをもらって本当に楽しい(そして食エッセイの名手、食欲も刺激される)。「読み終えたばかりの本がそこにあり、ふたたび指が触れたがった。」うん、佳い本とは何度でも同衾したいです。

岩橋真実 ここ1年の個人的ベストは金原ひとみ『マザーズ』と松浦寿輝『不可能』、マンガは迷いますが『25時のバカンス』表題作

本の虫は、本の虫を連れてくる

本が放つ魅力によって読む場所を選ぶことがきる著者はホンモノの本の虫だ。開高健の『戦場の博物誌』をハンバーガーショップで読むくだりがたまらなくいい。読書する場所によって、その物語が体に沁み入ってくる濃度はぐんと違ってくる。これはもう、圧倒的に大人ならではの贅沢の行為。1冊1冊に寄り添う著者の日常も刺激的で、読書は日常を豊かにしてくれるんだなァと、しみじみといい気持ちになりました。

千葉美如 結婚当初、私も沢村貞子のように献立日記をつけていたことを思い出した。1カ月で挫折したあのノートは何処へ……

この本は昼間に読むべきである

深夜にこの本を読み終えたとき、私は後悔した。この時間では本屋が開いてない!! 知人から「あいつはスゴい」と聞かされると、本人から武勇伝を聞かされるよりグンとその人の株が上がったりするが、平松さんの読書エッセイだからこれはもう本好きにとっては麻薬だ。特に印象深かったのは宇能鴻一郎のところ。宇能がつむぐ艶かしい言葉が、平松さんのフィルターを通して迫ってくる。早く喫茶店で『鯨神』が読みたい!

川戸崇央 ついにきました! 今月の特集は僕も担当したブックオブザイヤー!! もう今年が終わった気がする。……早いか

本読みにはたまらない本

日常の些細な出来事から、さまざまな本に繋がっていく。流れるように、多様な作家と作品世界にいざなってくれる。「本好きにはたまらない本」。食や暮らし分野を中心に執筆している著者の視点と文体をもって紹介される本の数々は、女性心をぎゅっと掴まれるものが多かった。私はタレントさん取材が多いので、『映画俳優 池部 良』編者の言葉にぐっときた。〝恋に落ちる瞬間〞。そんな気持ちを大事に私も本を作りたい。

村井有紀子 第1特集を担当。ヘトヘトで実は10、11月の記憶があまりない。でも川戸↑に黙って〝くるり〞ライブに行ったのは内緒

スパイシーな読書疑似体験

太宰治の食べもの観に触れたかと思えば、現代の食卓に飛び、そこから短歌に飛んでまとめて家族論へ、とめまぐるしい。どんどん提示される書名に圧倒されながらも、絶妙な着眼点にしびれてしまう。こんな読み方あったんですね、と襟を正して読ませていただいた。日常生活にどんどん読書の記憶が飛び込む著者の生活の疑似体験は刺激的。何度も読み返し、参考文献を覚えるくらい噛みしめたい。

亀田早希 今月から編集部の一員となりました。ノンフィクション系から文芸系に読書生活が一変。妄想にふける時間が増加中

読者の声

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