【ダ・ヴィンチ2017年2月号】今月のプラチナ本は 『i(アイ)』

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あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

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『i アイ』

●あらすじ●

シリアに生まれ、アメリカ人の父と日本人の母のもとへ養子としてやってきたワイルド曽田アイ。アイの家庭は裕福で、両親は優しく、つねにアイの意志を尊重してくれる。しかしアイは物心ついたときから、恵まれた自身の環境を思うたび、また内戦、地震、テロといった悲劇にさらされる人々を思うたび、「どうして私ではなかったんだろう」と苦しくなるのだった。そんな痛みをひそかに胸に抱きつつ、成長したアイは数学の道に進み、親友のミナや恋人のユウなど、かけがえのない存在と出会っていく。しかし世界ではなお様々な悲劇が起こり続け、アイはそこで死んだ人々の数をノートに書き留め続けるのだが──。

にし・かなこ●1977年、テヘラン生まれ。2004年『あおい』でデビュー。07年『通天閣』で織田作之助賞、13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年『サラバ!』で直木賞を受賞。『舞台』『円卓』『炎上する君』『まく子』など著書多数。

『i アイ』
西 加奈子
ポプラ社 1500円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

人はここまで思い至れるものなのだ

読み進めるために、覚悟の要る本だった。なにしろ冒頭の1行から、この本はものすごく大切なことを伝えようとしている、生きることの核心に触れようとしている、そんな緊張感が満ち満ちているからだ。「この世界にアイは存在しません。」アイは主人公の名であり、愛であり、I(自分)である。そして「存在する/しない」ということ。人の命が生まれたり消えたりすることの、あっけなさと重大さ。この残酷なことばかり起きる世界で、自分には何ができるのか、という問い。ラストの海のシークエンスでは、読みながら涙が止まらなかった。この作家は、海から生まれたすべてのものを愛そうとしている。決心している。それはもはや神の愛に近いが、不遜は微塵も感じられず、人はここまで思い至れるのだという輝きが本書からあふれている。

関口靖彦 本誌編集長。本書の帯に中村文則さんが書かれた「この小説は、この世界に絶対に存在しなければならない。」に賛成です。この時代に本書が現れたことには絶対に意味があるはず。

 

そのメッセージは“西加奈子そのもの”

一読して受けたのは、西加奈子という人間そのものが小説として表現されているという印象。『サラバ!』を経て、この境地にたどり着いた西さん。ここに描かれているのは、彼女自身のストーリーではないが、「今」の彼女の願いであり、切実なメッセージなのだ。政治的・経済的に安定した日本に生まれ、ここで生活していると、なかなか身近に感じられない世界の悲劇的な現実。そんな私にとって、養子として日本で暮らすシリアの少女の苦悩は、胸を衝かれたような驚きがあった。幸せに対する罪悪感――自分はなぜ生まれ、どう生きていけばいいのか。普遍的な問いに対して、彼女が思い悩む姿は自分と同じだが、その先には世界が広がっている。彼女に友人のような親近感を覚えたときに、思った。知らなければ――そう、そこからすべては始まるのだ。

稲子美砂 「東村アキコリターンズ」。7年ぶり、46Pの大特集です。マンガ家&プロデューサーとして活躍中の東村さんの「今」とは? 吉高さん、五関さんとの対談の中にもパワーの秘密詰まっています。

 

幸せを正しく享受するにも強さと覚悟がいる

シリア生まれの養子として両親の元にきたアイ。現状を「不当な幸せ」ではと悩み、「世界の不均衡」の犠牲者たちへ想いを馳せる。アイの想いは、国・時代に関わらず、多くの人が通った道だろう。それが西洋のノブレス・オブリージュ、イスラム教のザカートといった今なお世界中に残る概念につながっているのかなと。貧富の差だけではない“自分は恵まれている”と思う人々の心によぎる想い。自分の幸せと他者の不幸の折り合いをつけたいと思うのはなんだかとても人間的だ。

鎌野静華 私も幸せで申し訳ないと思うが、今生は解脱目前のご褒美と勝手に思って享受している。解脱でなければ次は地獄かもと恐れおののきながら。

 

2017年はこの物語を胸に歩みたい

ラブレターを握りしめるように読んだ。純愛に満ち溢れた小説で、感謝の気持ちが止まらなかった。聡明なのにもどかしいほど不器用なアイの人生が、〈自分に素直であれ!〉と私に語りかけてくる。彼女は自覚的なマイノリティーだ。そうした線引きを受け入れ、枷とともに生きることをアイは必要としていた。彼女の胸の内すべてを掬い取り、大切な人に伝えてくれる言葉など存在しなかったのに。そんなアイの目線がたまらなく愛しかった。私は私のiを育てていこうと思った。

川戸崇央 back numberさんの特集を担当させていただきました。10代、20代から熱烈な支持を受けるバンドですが、30歳の私、楽曲に涙させられまくりです。

 

存在している、それを噛みしめる

日々ニュースが流れていく。ネットで、テレビで、新聞で。小学生の時、私は神戸の震災を体験した。その時、報道に対しこう思っていた。「なんて他人事なんだろう」「この怖さが分かるものか」。アイは、人を想い、祈る。想うことに、救われることもある。実は私もアイと同じように、生き残った価値とはなんだろう、と考えたことが幾度かあった。でも読後、こう噛みしめた。ちゃんと、今、存在している。精一杯生きてけ、自分。明日に立ち向かう力強さを、存分にもらった。

村井有紀子 担当している星野源さんの『いのちの車窓から』が単行本化!&大泉洋さん『大泉エッセイ』翻訳版が世界へ……! 2017年は楽しい年に!

 

いま、ここに私がいることの証明

大きな悲劇に見舞われたり、誰かに激しく傷つけられたりしたわけではない。むしろ、“理由”もなく満たされた環境にあり、自分を愛する人に囲まれて生きてきた。だからこそ、世界から自分が少しずつ遠ざかっていく。アイは複雑な背景を持った女性だが、でもその疎外感はわかる気がする。さまざまな痛みを免れてきた罪悪感を手繰り寄せ、その理由をどこかに求めてしまうことも。「自分がこの世界にいるということ」この難問に本書はひとつの証明の仕方を教えてくれる。

高岡遼 海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にどハマリしまして、コツコツとシーズン6まで(全60話)視聴。シーズン7は今夏予定。“夏来たれ!”

 

温かな家で、遠い国の痛みを想う

遠くの国の悲劇を伝えるニュースに胸を引き裂かれながら、無意識に甘い菓子を頬張ろうとしている自分に気づいて吐きそうになる。このシーンのアイが好きだ。「不当に恵まれている」違和感に、吐くほど苦しむアイ。その姿に、「あなたは違和感に蓋してないか?」と問われている気分になった。自分が痛くないときに他者の痛みを想うのは難しいし、偽善者と言われるのも怖い。それでも想う努力を怠らないこと。ずっと見ないフリをしてきた世からの視線を感じながら読んでいた。

西條弓子 幼い頃、幸せを感じると「でもこれはやがて終わってしまう」と即効で悲しくなるネクラな子どもだったので、遠足の写真はもれなく顔が暗い。

 

 



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