【ダ・ヴィンチ2017年5月号】今月のプラチナ本は 『昭和の店に惹かれる理由』

今月のプラチナ本

更新日:2017/4/15

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『昭和の店に惹かれる理由』

●あらすじ●

目黒のとんかつ「とんき」、湯島の居酒屋「シンスケ」、神保町の寿司「鶴八」と餃子「スヰートポーヅ」、神田のおでん「尾張家」、渋谷の焼鳥「鳥福」、日本橋の天ぷら「はやし」、鎌倉のろばた焼き「田楽屋」、銀座のコーヒー店「カフェ・ド・ランブル」、秋田市の「BAR ル・ヴェール」。ふだんは表に出ることのない10の名店を訪ね、昭和をつくってきた人々の技と心を聞く。「サービス」では辿りつかない「何か」を探るノンフィクション。

いかわ・なおこ●1967年秋田県生まれ。「食」や「飲」に関わる人々や店づくりなどについて取材、執筆するフリーライター。『dancyu』『料理通信』『メトロミニッツ』などで連載。著書に『僕たち、こうして店をつくりました』『シェフを「つづける」ということ』などがある。

『昭和の店に惹かれる理由』

井川直子
ミシマ社 1900円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

「昭和」礼賛には抵抗があるけれど

昨今の昭和礼賛ブームには個人的に抵抗を感じていたので、本書の題名を見たときにはちょっと身構えた。昭和の店は「きちんと」していたというまえがきを読んでも、自分の脳裏に蘇るのは卓も壁も油でべたべたした中華屋だったり、中途半端に機械化して味を落としたそば屋だったり。そういうのも「昭和」でした。では本書の「昭和」は何かというと、「つなぐ」ということかなと思った。先代、先々代から引き継ぐものと、自分の代で変えるもの。でも変えるときにも、先代、先々代の顔が思い浮かぶ。彼らの前で胸を張ってできることしか、できない。自由ではないが、そこには指針があり、自分の選択に理由が持てる。「なんとなく」はありえない。それが著者のいう「きちんと」なのだろうし、ここに描かれている人たちの姿には確かに憧れを覚えた。

関口靖彦 本誌編集長。「昭和」「平成」という元号の問題ではなく、師弟という在り方の問題なのかもしれません。平成に始まった店でも、これからきちんとつながっていく店はあるはず。

 

名言満載。その店の文脈を知れば、さらに旨くなる

「きちんとはしていても、正し過ぎない。見守ってはいても、構い過ぎない。そういう素っ気ない距離感が人を落ち着かせる」(とんかつ とんきの「型」)。「正しい正しくない、粋だ野暮だで語らない。気後れ、緊張、疎外感といった負の感情を微塵も感じさせない全肯定が、食べ手を縮こまらせず、自由を生む」(神保町 鶴八の「窓口」)。 本書で紹介されている10軒はどれも訪れたことがなかったが、どの店にもすべからく惹かれた。飲食店なのだから、その場で美味しく、楽しくいられることが第一なのだが、この店に行けば、それを超えた何かに出会えるような期待が膨らむのだ。店主との間に信頼関係性を築き、年月を掛けた丁寧な取材の末に生まれた贅沢で誠実な一冊。各章の最後の添えられた注釈も非常に興味深く、著者の探究心の深さと読者への愛が滲む。

稲子美砂 いくえみ綾さんの「太宰治愛読過去」に多大な納得感あり。映画『3月のライオン』は前後編各2回鑑賞。でももっと観たい。5売特集取材のため、穂村弘さんと京都へ。今月は怒涛でした。

 

お酒はあんまり飲めないがBARは憧れる!

「お店にいったら、おいしいものが食べられる」。私の中に、無意識に刷り込まれている信頼感。これはきっと本書に登場する10のお店を代表とする、日本各地の飲食に携わる人たちのがんばりとプライドに支えられているんだろうな、とページをめくりながら感謝した。特に第十章に書かれたBAR ル・ヴェールの話は興味深かった。「自分たちが人や文化を育てているという自覚を持って役割を引き受けている人々」を羨ましく思ったし、いつかそうなれたら……とも思う。

鎌野静華 『マンガで簡単! 女性のための個人型確定拠出年金の入り方』発売中! 私も申し込みしましたが、手続き完了まで2カ月かかるのは本当でした。

 

知は極上のスパイス

飲食店はライブ会場みたいだと思う。お店の人とお客さんが目配せし合って食事を盛り上げていくあの感じ。チェーン店のお金と胃袋が直結した雰囲気も嫌いじゃなくなってきた。リズムのとり方が違うだけで、どちらもちゃんと自分の分を果たしている感じがする。この本に出てくる職人たちも、それぞれのやり方で踊っているんだと思った。妄想の中で暖簾をくぐり、覗き見たそこはとても眩しい。こういうお店があると知るだけで、日々の食事がより楽しくなる。調味料のような本!

川戸崇央 紗倉まなさんの小説第二弾『凹凸(おうとつ)』の発売即重版が決定! とくに渋谷で良く売れています。本誌70Pには著者インタビューが掲載です。

 

「粋」な食事の時間は至福なのです

本気で忙殺されている。落ち着いたら、美味しい料理をゆっくり誰かといただこう。そんな時、思い出すのは、料理もさながら、魅力的な店主たちとの「会話」だ。そう、粋な会話と上質な料理を味わいたいのです。本書に登場する店や店主は、こういう店に通える大人になりたかった、という憧れが詰まっている。第十章で出てくる「わきまえ」に深く頷く。客としても食事をする空間を大切にしたいし、それができる店は至福の時を与えてくれる。「昭和の店」には粋な愛情が溢れている。

村井有紀子 星野源さんエッセイ集『いのちの車窓から』が発売&今号の「総力特集」も担当。たくさん時間を割いていただき、協力くださった著者に感謝(涙)。

 

経験を味わうお店

社会人になってから、たまに美味しいものを食べる、という楽しみが増え、先日はじめてのフグ鍋に。少し構えたけど、とてもよかった。裏路地にある店の戸をゆっくりと引くとこぼれる湯気と出汁の香り。年季が入っているが、きれいに磨かれたテーブル、てきぱきと世話を焼きながら色々話しかけてくれる店主と女将さん。「美味しかった」以上に「いい経験したなあ」という充実感で満たされた。本書で紹介されている昭和のお店たちは、そんな経験を味わう楽しさが詰まっていた。

高岡遼 5月公開の湯浅政明監督作品『夜明け告げるルーのうた』ノベライズ連載スタートしました。今月公開の『夜は短し歩けよ乙女』と一緒に是非!

 

いつか「正しい感じ」になれるかな

いまどきのお洒落カフェより昭和な喫茶店のほうがいい、とよく聞く。私もそう思う。でもそれってナゼだろう。ちゃんと言語化できないと、平成な店はいくらがんばっても昭和に敵わない気がして不安になる。でも、もう大丈夫。名店の知恵を、井川さんがつぶさに書きとめてくれたからだ。井川さんは「昭和の店の良さはこれ」と一言で定義はしないけれど、本書を読めば名店を名店たらしめている「何か」を学ぶことはできるかも、と思える。思えることが大事なのだ。

西條弓子 いくえみ綾さんの特集を担当。マイ・ベストいくえみ男子は『あなたのことはそれほど』の涼太(美都の旦那)です。あの闇の深さ。たまりません。

 

 

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