【ダ・ヴィンチ2017年7月号】今月のプラチナ本は 『かがみの孤城』

今月のプラチナ本

更新日:2017/6/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『かがみの孤城』

●あらすじ●

学校で居場所を失ってしまった、中学1年生の安西こころ。学校に行くことができなくなり、自宅にこもる日々が続いたある日、部屋の鏡が突然まばゆく光り始める。輝く鏡に吸い込まれたこころは、気づくと城に横たわっていた。城にいたのは、狼のお面をつけた不思議な少女“オオカミさま”と、こころと似た境遇の7人の子どもたち。オオカミさまは子どもたちにこう告げる「お前たちには今日から三月まで、この城の中で“願いの部屋”に入る鍵探しをしてもらう。見つけたヤツ一人だけが、扉を開けて願いを叶える権利がある」。城には鏡で出入り自由、でもいられるのは9時から17時まで。それぞれ胸に秘めた願いを叶えるため、7人は隠された鍵を探す──。

つじむら・みづき●1980年、山梨県生まれ。2004年、『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞しデビュー。『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。ほか著作に『凍りのくじら』『本日は大安なり』『島はぼくらと』『ハケンアニメ!』『朝が来る』『東京會舘とわたし』『クローバーナイト』など多数。

『かがみの孤城』

辻村深月
ポプラ社 1800円(税別)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

痛みの先にこそある希望

中年の1年間は一瞬だが、中学のそれは本当に長かった。思えば、自分にとっての「世界」の広さがまったく違った。今は職場の内外にたくさんのつながりがあり、プライベートでも老若男女との付き合いがあって、一人ひとりと接する時間は短いのに、足していくとあっという間に1年だ。対して中学の、周囲から隔絶された「クラス」の狭さ。その中で交わす言葉や視線の重みに、まったく痛みを感じなかった人はいないだろう。だからこそ、クローゼットの向こうや、二匹の蛇が描かれた本の中に広がる別世界に、救われた人も多いはずだ。本書では鏡の向こうの別世界で、中学生7人が出会う。現実に居場所のない彼らは切実に交流し、謎に迫る。なぜこの7人なのか─? 痛みの先にこそある希望を描いた本書は、きっとあなたの大切な一冊になる。

関口靖彦 本誌編集長。中学のころ「痛かった」ということは覚えているが、ディテールはまったく覚えていない。そこを事細かに再現していく辻村さんの筆力には圧倒されっぱなしでした。

 

自分の存在が愛おしく思える

なぜ、中学時代はあんなに学校に行くのがつらかったのだろうか。いじめも不登校もなかったのに、私の中ではやはり暗黒だった。何に自分が心を痛めていたのか、今となっては思い出せない。が、その記憶だけは鮮明だ。『かがみの孤城』を読んでいてハッとしたのは、こころの日常、会話、感情の描写があまりに細やかで丁寧なので、彼女に気持ちを寄せていきながらも、俯瞰で彼女を見ているような、そんな感覚にもなること。時折、その姿は中学時代の自分にも重なっていた。孤城で出会ったメンバーたちと鍵探しをしていくなかで彼女の内面も変化し、しなやかに成長を遂げていくさまがなんとも心強かった。発見や驚き、感謝や安堵、さまざまな感情に揺さぶられながら、辿りつくラスト。それぞれの人生、それぞれの悩み、全てが愛おしく思える一冊である。

稲子美砂 映画『忍びの国』の大野智さんが本当にハマリ役ですばらしかった。映画を観て興味を持たれた方は原作小説もぜひ手に取ってほしい。もう1回映画が観たくなること必至です。

 

子どもたちのための物語!

小学生の頃、自分と同じくらいの年齢の主人公ががんばる冒険譚を、わくわくしながら読んでいたなぁ。そんな思い出が蘇る、子どものための冒険青春小説だ。物語の中の子どもたちは、どの子も個性的で魅力的。主人公のこころは、あることが原因で学校に行けなくなってしまう。朝になると本当にお腹が痛くなってしまうのだ。そんな問題を抱えながらも彼女は仲間たちとともに成長していく。その姿にたくましさを覚えつつ、お母さんに感情移入してしまったのは内緒だ。

鎌野静華 40代にして初めてちゃんとしたフェイシャルエステに。施術者は顔を撫でているだけだというのにどこもかしこも痛い! ろ、老化著しい……。

 

閉ざされた孤城の門番たち、その願い

睡魔を寄せ付けず一気読み。いくつになっても、傷つくことは怖い。意志をもってこの世界を、その中に置かれた自分を確かめようとするとき。いつか感じた痛みの残骸がこの胸を襲っても、今度こそはと言葉を投げかけ、振り向いてほしいと願うこと。それはやがて彼らを励ます鏡となり、一つの真実を引き寄せる。かすかな揺らぎにさえ怯えながらも、その最中で変化を受けいれる彼らの姿は、まばゆい灯火となって私の奥の奥に宿った。若き願いの行く末を最後まで見届けてほしい。

川戸崇央 詰め合わせという感じになった「お酒と本。」特集を担当。さらに20歳のラップシンガー・DAOKO(だをこ)さんの小説新連載がスタートです。

 

居場所はそこだけでないから、大丈夫

夢中になりすぎて、最後までページを繰る手が止まらなかった。プロットの組み立てを思うと、著者に感服しかありません……! また今作は「常識のライン」から外れると、誰もが途端に罪悪感に陥ったり、見えなくなったりするものだけど、居場所はそこだけではないし、逃げてもいい、自分は自分で居れば大丈夫、それを物語の力を十分に発揮して伝えてくれたように感じた。私的には、嫌いな人は嫌いなままでいいかなと(相手にはこちらの辛さは伝わらないものだよねと改めて)。

村井有紀子 5月は宝塚歌劇へ通いまくりました(幸せ)。また、星野源さんエッセイ集『いのちの車窓から』29万部突破! 幸せです。ありがとうございます。

 

物語はいつも味方

辛いとき、例えば、目を瞑って自分だけの世界を想像する。それを〝現実逃避〟と責めるのは容易いが、本書は、そうじゃないよと言ってくれる。それぞれの事情で学校に行けない子供たちは、かわりに不思議なお城に〝通って〟日々を過ごす。端からは、おとぎ話に逃げ込んでいるように見えるかもしれないけれど、皆そこで自分と向き合って頑張っている。物語はいつもあなたの味方だから、辛いときは一緒に闘おうよ。そんな温かさが伝わってくる。なんてやさしい小説なんだろう。

高岡遼 映画『夜明け告げるルーのうた』が公開。こちらも世代を問わず、やさしさに包まれる傑作です。ノベライズと一緒に楽しむと、更に良いですよ!

 

「あなたを、助けたい。」

中学生の頃なんて、学校が〈世界〉のほぼ全てだ。なのに、突然そこから自分の席が消えてしまうことがある。世界ぜんぶから否定されたような心細さ。そんな気持ちに憶えがある人は、途中しんどくなるかもしれない。この物語で描かれる思春期の闇はこわいほど的確で、一気にあの時間に引き戻されてしまうのだ。でもラストに近づくにつれ、読んでいる自分が今さら救われていることに気づく。見出しに引いたのは帯の言葉。読み終えてその意味がわかり、思わず泣いてしまう。

西條弓子 小中学生の頃は、筆箱を忘れただけでこの世の終わりのように絶望して、毎日大変でした。大人になって本当によかった。

 

 

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