今月のプラチナ本 2012年3月号『贖罪の奏鳴曲』 中山七里

今月のプラチナ本

更新日:2012/2/6

贖罪の奏鳴曲

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:中山七里 価格:1,728円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』

●あらすじ●

気鋭の弁護士・御子柴礼司(みこしばれいじ)は、ある晩、記者の死体を遺棄する。冷静沈着に死体を始末し、翌朝いつもどおり事務所に立ち寄り、任務を行う御子柴。だが、殺された男の死体を調べ、あることに気づいた警察は、御子柴へと辿り着き事情を聴きだす。しかし御子柴には、死亡推定時刻には法廷にいたという「鉄壁のアリバイ」があった──。封印された過去、そしてラストの意外な結末とは?「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した著者が、正義と贖罪の意味を問う、驚愕のミステリー。

なかやま・しちり●1961年岐阜県生まれ。花園大学文学部卒業。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞、2010年に同作品でデビュー。著書に『おやすみラフマニノフ』『連続殺人鬼 カエル男』『魔女は甦る』『要介護探偵の事件簿』などがある。

講談社 1680円
写真=首藤幹夫 撮影協力=音楽とコーヒー・ヴィオロン
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編集部寸評

異色弁護士のキャラ設定が見事

何といっても主人公・御子柴のキャラクターが魅力的だ。過去に何らかの事件を犯しながらも少年法に守られ、その後、辣腕弁護士になったという設定が見事。その異色の経歴は様々な矛盾と疑問と葛藤を生み出し、物語の深みを増す。本書は上質な法廷ミステリーであるとともに、御子柴という人物の謎がどのように解消されていくかといった、人の内面の謎解きでもあった。そんな御子柴はどこかブラック・ジャックに似ている。両者が法外な手術料(弁護士料)を請求するところも、一見、腹黒い冷血漢に見えるところも共通している。BJが医者になった理由は、幼い頃の事故から名医に救ってもらったことによるが、御子柴が弁護士になった理由は何なのか。それこそが本書のテーマでもある。弁護士版BJの次のオペが楽しみでならない。

横里 隆 本誌ご隠居兼編集人。山岸凉子『日出処の天子』〈完全版〉4巻&5巻が2月23日に発売になります。世紀の傑作をぜひ!

ヒールはヒーローになれたのか

実刑必至の犯罪者のために執行猶予を勝ち取り、代わりに莫大な報酬を要求する“悪徳”弁護士・御子柴。金にならない国選弁護も積極的に引き受けるかと思えば、目的のためなら無感情に死体遺棄さえやってのける。彼の真意は一体? やがて彼の暗い過去が描かれるが、それで大悪人になりました/逆に正義のヒーローになりました、という単純な人物像になっていないところがスリリングだ。後者になろうとしているが、根っこの部分でそうはなれない……そんな不安定さが言動のあちこちに見え隠れする。明らかにいびつだった過去の御子柴は、本当に生まれ変われたのか? あやしい人物と意外な真実が次々に立ち現れるストーリーにも引きつけられるが、それ以上に御子柴という人間から目が離せなくなる。彼の今後も読みたい。

関口靖彦 本誌編集長。本書中盤、ピアノ演奏の描写にも圧倒されます。音楽の持つ力が、音の出ないメディア=本からあふれ出る!

エンタメだけど考えさせられる

主人公・御子柴弁護士の設定がなんとも大胆。敏腕で鳴らした彼がなぜ死体遺棄なんて割に合わないことをしたのか。冒頭に提示された謎はそのままストーリーを引っ張っていく。300にも満たないページ数の中で、よくこれほどまでに詰め込んだなあと思う内容。本作はキャラクター&構成のすばらしさもさることながら、「真の贖罪とは何か」「人は変われるのか」といった、著者が物語を作る際に据えた大テーマがことあるごとに投げられていて、楽しみつつも読者はいろいろ考えさせられる。「罪を犯す者とそうでない者との違い」、御子柴の宿敵・渡瀬刑事はそれを「魂の形」と表現したが……。音楽の絡め方も実に中山さんらしく、思わず『熱情』のCDに手が伸びる読者も多いことと思う。万人に自信をもって薦められるミステリーだ。

稲子美砂 加藤シゲアキ著『ピンクとグレー』も凄くよかった。こちらもある意味仕掛けられた小説。彼の強い意気込みが伝わってくる

悪徳弁護士シリーズ化に期待!

悪徳弁護士・御子柴。冒頭の御子柴が死体を遺棄するシーンが印象的。これはきっとトリックに関わる重要な要素なのだろうと思わせつつ、物語はどんどん意外な展開に。本作品はさまざまな要素を併せ持つ楽しみどころ満載のお得なエンターテインメント作品だ。法廷ものとしても楽しめるし、贖罪ものとしても、母と障害を持つ息子の物語とも読めるし、少年院で暮らす少年犯罪者たちの実情もうかがいしれるし、障害者の労働事情など、現代の社会問題をふんだんに取り入れているところが読んでいてためになる。またどんでん返しを楽しむサスペンス作品としても一級だ。個人的には、御子柴が過去を簡単に清算することなく(笑)、敏腕刑事・渡瀬VS悪徳弁護士・御子柴というバトルシリーズになってくれたらいいなぁ。

岸本亜紀 夏に向けて、怪談ものの取材、新企画の仕込みを始めました。今年も単行本、文庫本をはじめ、諸所で怪談で盛り上がります!

全く新しいダークヒーロー誕生

オーケストラのように次々に展開し、最初から最後まで飽きさせない。主人公は、ある事件を犯して少年院で過ごした過去を持つ人物で今は弁護士。その時点で釘付けになるが、そんな彼と音楽との意外な関わり、そして音楽描写にも心奪われた。償いようのない罪を犯した人、過酷な運命を背負って生まれた人、そんな人に対するこちらの思い込みが本作に仕掛けられた一番のトリックなのだと思った。ぜひシリーズ化してほしい!

服部美穂「次にくるマンガランキング特集」でマンガ雑誌編集者の皆さんに聞いたオススメ本を片っ端から読んではハマってます

罪を負い、償うことは

凶悪な犯罪歴を持つ悪徳弁護士・御子柴VS現場に生きる老獪な刑事の言葉巧みな駆け引き、絶対不利な裁判を覆そうとする手腕、少年院時代に体験した社会の縮図、次々と明らかにされる事実にひき込まれてゆく。「人生に面白いもクソもない。あるのは懸命に生きたか、そうでないかだ」と語る稲見教官の言葉に胸を打たれた。罪を負い償う一生とはどういうことなのか。謎解きだけでなく、深いテーマが添えられた作品だ。

似田貝大介 作『顳顬(こめかみ)草紙 串刺し』『黒い百物語』『五千四十の死』『昭和の怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』発売中。冬も怪談

御子柴の弁護士シリーズを!

冒頭の展開から息を呑む。そこから加速するストーリーは、うねりを伴い、ドラマの深層へなだれ込んでいく。罪を犯した人間は何を課せられ、残された時間をどう生きていくのか。本作の主題でもある正義と悪、罪への償いについて考えさせられながらも、エンターテインメント性の高いミステリー作品として楽しませてもらった。次は、“悪徳”弁護士・御子柴の終局までのドラマを、ぜひシリーズで読ませていただきたい。

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主人公が魅力的。続編希望!

あらゆる意味でやり手の弁護士、御子柴礼司が魅力的だ。手段を選ばず勝利を手にするそのやり口から、冷血で完全無欠な主人公なのかと思いきや、語られる彼の少年時代はいびつで壮絶。自身のいびつさを自覚した少年は、大人になって変わることができたのだろうか? 冷血な表の顔と時折垣間見せる熱、そしてその奥にある暗がり。御子柴が見せるそれらの表情は、とても人間的でおもしろい。もっとずっと見ていたい。

鎌野静華 猫背矯正を目指しストレッチを開始……せ、背中の肉に阻まれて手が届かない!という悪夢のような現実を直視する

なんて欲張り、豊潤なミステリー

冒頭の死体処理シーンから没入、壮大なピカレスク譚かとわくわくし、「悪徳弁護士」の華麗な技が展開、かと思えば犬に譬えられる刑事の執拗な捜査、事件の調書引用と謎、弁護士と依頼人の心理駆け引き、主人公の恐るべき過去と社会派ともいえる問題設定、人は変われるのかという哲学的命題、著者お得意の音楽描写、そして圧巻の法廷、さらに贖罪とは何か。次々広がる物語のどれもがしっかりとした深度。夢中で読みました。

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この先が気になる主人公

これまでにない弁護士像の御子柴礼司に惹きつけられる。過去におぞましい事件を起こした彼が、弁護士を目指すきっかけになった少年院での出会い。弁護士になった彼は冷徹に黙々と仕事をこなすが、冒頭で描かれるのは死体遺棄に関わる残酷な姿。彼は過去の出来事から脱却することができたのか。やっぱり彼は “悪徳”なのか。ラストまでずっと心が揺さぶられる。読後、タイトルの「贖罪」の意味が重くのしかかった。

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贖罪は誰がために

ところどころに法廷劇を挟みながら、ひらひらと展開が移ろう読み易い作品だった。さわりの部分では本作の主人公で弁護士の御子柴がなかなかの曲者で、ちょっと寄せ付けない感じがするが、中盤で御子柴の過去が明かされ、物語がクライマックスに近づくにしたがって、読者は御子柴を“赦してしまう”のだ。タイトルまで含めた巧妙な構成がもたらす、不思議な読書体験。ぜひとも最後まで一気読みしてほしい作品だ。

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どんでん返しに興奮

第四章で主人公・御子柴弁護士の最高裁弁論が始まる。そこから、ドミノ倒しのように鮮やかなどんでん返しが炸裂。「やられた!」と思った矢先に、また「やられた!」。この連続のスピード感がすばらしく、立ち止まる隙を与えない。予想のつかぬ展開に興奮し、そして呆然。事件、過去の回想、法廷シーン、贖罪の意味……静寂から盛り上がりまで、壮大なクラシック曲を聴いているかのような一冊。映画化希望します!

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御子柴弁護士が頭を駆け巡る

主人公の似顔絵を描け、と言われたらすぐ描けてしまいそう。この物語のなかで真実を求めて突き進む“悪徳”弁護士・御子柴のキャラはそれくらい立っている。謎を残して始まる冒頭、その後明かされる主人公の過去、法廷での論理対決……そして真相へ。スピード感あふれる展開は読者に退屈の隙を与えない。小難しい法廷のやりとりを見事エンターテインメントに仕立て上げた作者の明瞭・簡潔な筆致にもシビレます。

亀田早希 本書を読んでいる最中、人生初の食あたりに。麻婆豆腐から納豆の臭いがしているのに、食べた私が悪いんですが……

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