大人に友だちって必要? 浜野謙太×中川学 30代友だちづくり座談会

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更新日:2013/8/13

 あなたには大人になってからの友だちがいるだろうか?

 コミックエッセイ『僕にはまだ友だちがいない 大人の友だちづくり奮闘記』(中川学/メディアファクトリー)は、上京2年目で漫画家志望の著者が35歳をむかえ、ふと気づけば休日に遊ぶ人も、悩みを相談できる相手もいないことに愕然とするところから始まる。大人になると、友人探しは切実な問題。SNSを活用したり、イベントに出かけたり、近所のバーへ繰り出したり…人付き合いが苦手な男が不器用ながらも懸命に挑む姿は笑えつつも、共感できる内容だ。

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 この“大人の友だちづくり”というテーマがじわじわと話題になり、NHK Eテレの企画オーディション番組「青山ワンセグ開発」内でこのたび実写ドラマ化された。1月10日より4週に渡って放送予定で、主役の中川学役をSAKEROCK、在日ファンク等で活躍中のミュージシャン、浜野謙太が演じる。

 ドラマ化を記念して、浜野氏や原作者の中川氏など関係者を交え「大人になってから友だちは必要か?」といったテーマで座談会を行ったところ、異論反論が飛び交う白熱した展開に――

「友だち」とか「健康」って言葉が最近ナヨっている

―そもそも、大人に友だちは必要なのでしょうか?

中川 やっぱり必要ですね。人は1人じゃ生きていけないし…僕の場合、寂しくなるのに周期があって、すごい孤独で「友だちほしい!」ってなる時と、そうでない時がだいたい一晩寝るごとに変わるんです(笑)。例えば漫画の中でも書きましたが、ひとりで部屋にこもっているときは案外平気で、町でつるんでいる人たちやカップルを見たり、周りに人がいる時ほど孤独を感じます。

浜野 僕は理想としては、いらないと思うんですよ。ただ、それだと孤独になるから、孤独をカバーするための妥協として必要なのかもしれない。個人的に「友だち」とか「健康」って言葉が最近ナヨっているような気がするんです。みんな口をそろえて「健康大事」っていうけれど、次に出てくる言葉は「でも働いちゃうんだよね」なんです。「なんだよ!結局みんな健康なんて望んでないじゃん!」って(笑)。

 友だちも同じ理屈で、たくさん友だちがいる人のことをリア充だって羨ましがったりするけれど、実際どうなんだろうと。別に友だちって言葉じゃなくても置き換えることのできるものなんじゃないかなって。だからこそ、この本のラストはすごく腑に落ちたし、感動しました。

―まさか、この中で最も社交的に見えるハマケンさんからそんな言葉が出てくるなんて(笑)

中川 学
なかがわまなぶ●北海道出身。大学卒業後、小中学校の臨時講師、シイタケの収穫など様々なアルバイトを経験。2011年11月、漫画家志望の若者に格安で住居を提供するトキワ荘プロジェクトに応募し上京。現在はアルバイトをしながらWEB漫画を連載しつつ、人生を模索する日々。

浜野 フェスなんかの会場で出演者同士ガンガン友だちつくっているやつを見ると、ちょっとムカつくんですよ(笑)。ロックだろ、バチれよ!って。バンドのメンバーは友だちというより仲間ですね。やはり仕事しているといわゆる友だちって距離感では成り立たないし、バンドを差し置いて友だちづきあいしていると堕落しているように感じちゃうので。もちろん人によって距離感も違うので、その場その場で役割の違い受け入れる必要はありますが。

―ほかの方々はいかがでしょう?

(浜野氏マネージャー小林全哉さん) 僕は必要ないと思います。というのも地元の小学生の頃からの友だちが既に何人かいるので、それだけでいいかなと。厳密に言うと、これ以上はいらない、という感じでしょうか。

(ドラマディレクター小林稔昌さん) 僕は必要ですね。というのも、今回の企画の番組投票をフェイスブックなどで拡散してくれとお願いして回らないといけないので(笑)。

(ドラマプロデューサー山崎成実さん) 私は必要ない派。同志は欲しいんですけど。大人になってからの友だちって環境が違いすぎて成り立たないし、結局、人脈の広がりって仕事のつながりだったりするから。そうなると同志だな、と。だからこそ、この本の「大人になってから友達をつくる」というコンセプト自体が非常に新鮮に思えました。

ソーシャルメディアはきっかけにもなるかもしれないけれど…

浜野謙太
はまのけんた●1981年生まれ。神奈川県出身。トロンボーン奏者としてSAKEROCK、Newdayに所属。在日ファンクではボーカルとリーダーを務める。近年は音楽活動に留まらず、俳優業でも活躍。コミカルかつ強烈なキャラクターに注目が集まり、ドラマ『モテキ』、映画『婚前特急』『ハチミツとクローバー』などに出演。

―大人になってからの友だちってどんな存在なんでしょう?

中川 「人生を語り合える」ってのが、散々考えて出した結論です。それと、大人になってからの友だちで重要なのはお金かな…信頼関係で、お金の貸し借りができるというのは重要なポイントかなって。

浜野 プライベートは重要なんじゃないんですかね。わざわざプライベートの時間を割いてまで一緒に過ごせるかどうかっていうのは、基準のひとつなのかも。ただ、一緒にいる時間が長い、イコール信頼関係ではないと思う。逆に仕事上のつきあいだけの人のほうが信頼できるかもしれないし。

中川 本作品の舞台である僕の住居ってかなり特殊で、漫画家だけのアパートっていう場所だから、“友だちづくり”という意味において、そこを拠点にできたのは大きかったです。一番身近にいる隣の部屋の相手を突破できれば、その他の住人も芋づる式にいけるだろうと(笑)。あと、ソーシャルメディアはきっかけになるかもしれないけれど、それだけでは進展しないですね。やっぱり直接会って時間を共にすることが大切なんじゃないかって思います。例えば、僕らみたいな漫画家同士の集まりなら、原稿の進行状況とか好きな漫画とか共有できることはたくさんあるわけですし。

―やはり、同業の人たちとのほうが、友だちをつくりやすいってことですかね。

浜野 「違う職業の人とでもうまく付き合える自分」というのを安易に演出している自分に気付く時があって、心にブレーキかけたりしちゃいます(笑)。僕も職業柄、出会いが多いとよく言われますが、メールアドレスを自分から交換しなかったりするし。でも、だからといって「人づき合いが苦手だよ」って申告しちゃうのもずるいんじゃないかなって思ったり。この間も、「LINE」に入ってくださいというお誘いを受けましたけど、メールとあまり変わらないし事態は進展しないのかなぁと。

グダグダの馴れ合いよりは、ひとつの事柄や場を共有しあえるほうがいい

―では、私たち30代はどうやって友だちをつくればいいんでしょうか?

(浜野氏マネージャー小林全哉さん) 東京に出てきてから少し知り合いが増えましたが、ライブハウスきっかけのもありますね。

浜野 ライブハウスに行ってオフ会やろうぜっていうノリはいいなって思いますね。さっきまで「いらない」って言ってたけど、真面目に友だちつくることを考えないといけない気がしてきました…(笑) 僕らのライブでも、お客さんの中に、今日初めて知り合ったという二人が楽しそうにしていたりするのを見ると、あーいいなって思いますもん。

(ドラマプロデューサー山崎成実さん) ホームパーティとかは? かなり欧米スタイルだけど。

浜野 そうですね。やっぱりグダグダの馴れ合いよりは、ひとつの事柄や場を共有しあえるほうがいいなとは思います。僕が前に住んでた西荻窪は飲み屋がたくさんあって、その飲み屋の中で自然と仲良くなったりとかってことはよくありました。

―最後に今回のドラマについての感想をお聞かせ下さい

中川 この作品って行動しながら描いていたので、なかなかゴールが決まらなくて…だから最後のシーンにあたるあの瞬間がなければ、全然できなかった作品なんです。そんな僕のドキュメンタリーみたいな作品もハマケンさんが演じると、なんだかコミカルで笑えちゃう。不思議な感覚でしたね。

浜野 今日話してたら、友だちづくりというのは僕のこれからの課題かなって(笑)。最近はよくドラマの撮影をやってますけど、今回の作品は集中してやりがいがあったし、物語中の中川さんをはじめ、それぞれ登場する人たちにも共感できるところがあると思うので、見てくださる方には、ここから自分にとって友だちとは何かを考えてもらうきっかけにしてもらえるとうれしいです。

 さて、みなさんは「大人になってから友だち」は必要派、必要でない派どちらだろうか?なかなか結論が出しにくい問題だが、「必要だけどいなくて困ってる」という人は、ぜひ、ドラマ『僕にはまだ友だちがいない』を見て参考にしてみてほしい。

「青山ワンセグ開発」
ももいろクローバーZが司会を務める企画オーディション番組。視聴者投票で最後に勝ち残った企画がレギュラー枠を獲得する。番組HPでは、投票期間中に『僕にはまだ友だちがいない』の動画が見られるようになっている。

放送局:NHKEテレ(教育テレビ)
放送日:1/24・1/31 木曜深夜24:30-24:55
番組HP::http://nhk.jp/aoyama-k