動画、音楽、小説で仕掛けるホラーミステリープロジェクト「終焉ノ栞」とは

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更新日:2013/8/13

『終焉ノ栞』(コミックス)

 現在、ニコニコ動画でひとつのプロジェクトが注目を集めている。ボカロPの150P(ワンハーフピー)を中心に、人気クリエイターたちが集結した「終焉ノ栞(しゅうえんのしおり)プロジェクト」だ。2012年5月の『孤独ノ隠レンボ 』を皮切りに、『ニセモノ注意報』『完全犯罪ラブレター』『猿マネ椅子盗りゲーム』といった楽曲動画が次々と発表され、大きな盛り上がりを見せている。

 これらの楽曲の歌詞の中では、それぞれ異なる登場人物が自分の心象を語るかたちでストーリーが展開していくが、それらをつなぎ合わせて整理していくと、どうやら共通の世界観の中で、“終焉ゲーム”と呼ばれる謎のゲームに登場人物たちが巻き込まれ、恐ろしい惨劇が繰り広げられているということが分かるようになっている。

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 一体何が起こっているのか? 一連の事件の犯人は誰なのか? 視聴者は次から次に楽曲動画を追いかけながら推理しているうちに、壮大なホラーミステリーに巻き込まれていくのだ。

 この人気を受け、2月25日には、同プロジェクトで歌詞を担当するスズム氏が書き下ろした小説『終焉ノ栞』(メディアファクトリー)が、3月13日には、1stメジャーアルバム『終焉-Re:write-』(ビクターエンタテインメント)が相次いで発売され、3月27日には、『月刊コミックジーン』(メディアファクトリー)にて連載中のコミックス第1巻も発売された。

 読者を巧みにミスリードする都市伝説や怪談の描き方、緻密に張りめぐらされた伏線など、「終焉ノ栞プロジェクト」の練り上げられたストーリーを構築するスズム氏はなんと弱冠二十歳。突如発表されたこの若きクリエイターたちによる確信犯的な企みは、一体どのようにしてはじまったのか?

【小説『終焉ノ栞』著者・スズム氏インタビュー】

『終焉ノ栞』

著者:スズム、主犯:150P、イラスト:さいね・こみね/メディアファクトリー

――このプロジェクトがはじまった経緯は?

 ニコニコ超会議というイベントで、集まったことがきっかけでした。その場でいろんな方から、「なにかみんなで大きなことをやろうよ」という声が上がり、特に現在楽曲を担当している150P(ワンハーフピー)さんがすごく乗り気で、僕が作詞を、彼が楽曲を作るという形でプロジェクトを始めることになりました。

――『終焉ノ栞プロジェクト』のホラーミステリーのような雰囲気は、ご自身のアイデアですか?

 そうです。もともと『世にも奇妙な物語』というドラマが大好きで、ラストに不思議な後味を残すような作品に興味があったんです。だから、イラストを担当しているさいねさんにキャラクターの絵を描いてもらってそこから話を膨らませて制作していきました。その中で、歌詞の中のストーリーがひとつひとつは完結しているけど、全体を通すとつながって見えるように作っていこうと考えました。

――もともとホラー作品が好きだったのですか?

 実は小さい頃、姉にさんざん怖い話をされたというトラウマがあり、今でも大の苦手です(笑)。ただ、不思議な雰囲気のある作品や、後味悪い作品はとても好きで、都市伝説モノはよく読んでましたね。小説化にあたっては、あえて自分が怖いと感じるよう書いたので書きながらビビってました。今でも読むのは怖いです(笑)。

――このプロジェクトでは「終焉ゲーム」という謎のゲームにキャラクターが巻き込まれるような設定になっていますが、ねらいはなんだったのでしょうか?

 もともと、大枠のルールが敷かれた中で登場人物たちがどう動くのかといったところを、人間の汚い部分も含めしっかりと書きたいという気持ちがありました。また、動画や小説では、視聴者や読者にそのゲームの謎を問いかけるような仕掛けをしていますが、それも一回読んだだけでは分からないようにしたいという気持ちがあったからです。だから、小説の中の何気ない表現の中にも伏線を忍ばせてみたり、気づかせないように何度も同じ描写をわざと繰り返したりと工夫しましたね。

――たしかに、動画や小説をめぐってネットの掲示板などでゲームの犯人当てや解釈などが盛んに行われていますね。

 それはとてもありがたいです。動画を公表する際も、キャラクターや世界観の細かい設定はあえて公表せずに、余白をつくろうと調整していました。そうすることで、二次創作をしたい方が自分で自由に作品世界を膨らませられるようにしたかったんです。それは、もともと二次創作を中心に活躍しているクリエイターたちがプロジェクトには多かったこともあって、やはりオリジナルのストーリーを作るのなら、そうした二次創作を喚起するような作りにしたいという思いはありました。

――楽曲や小説など幅広いメディアで、様々な謎を仕掛けるというのは大変ではないですか?

 それは、もう本当に大変です(笑)。僕の場合、小説を書くのは初めてだったし、文章にまとめていくのは苦労しました。自分の楽曲の歌詞を読んで、このキャラクターはどう動くだろうとか、このフラグになりそうなセリフはどう使っていこうかとか、とにかく自分の歌詞世界を小説でどう深めていこうか考えながら書きました。

――実際のところ、まだまだストーリーに謎の多い『終焉ノ栞』プロジェクトですが、今後の展開はどのように考えているのでしょう?

 コミックの中にもアナザーストーリーがありますし、先日発売されたアルバムの曲順、曲の間に挟まれる神谷浩史さん、相沢舞さんによるナレーションにも、この物語の謎は含まれていて、小説、CD、コミック、それぞれに触れることでようやく真相に近づくことができるようになっています。小説も第2巻を発売する予定で、そちらでもまた1巻に登場した4人の物語の謎を書きたいと思いますので、ぜひこれらから手掛かりを探し出して謎の答えを見つけて欲しいですね。

――最後にこの記事の読者にメッセージをお願いします。

 「この本は今、不幸な人は読まないでください」とだけ伝えておきます。意味深な言葉として受け取っていただけたら幸いです(笑)。

 終始にこやかにインタビューに答えるスズム氏は、まだ面影に幼さが残るものの実にエネルギッシュ。彼はもともと楽曲制作やアレンジ、ミックスなどを手掛ける音楽畑のクリエイターなのだが、初となる小説執筆を支えたのは、その類まれなる構成力。動画や小説、音楽CD、コミックなど様々なメディアを交差する謎解きゲームを展開していく手腕は実に見事だ。そして読み手の想像力をかき立てる余白の作り方、これに触発された二次創作さえ読者のミスリードを誘う大きな仕掛けのひとつのように見せてしまうテクニックはベテラン作家のようなしたたかささえ感じる。ホラーミステリーに再ブームの兆しが見える中、この若く才気あふれるクリエイターが仕掛ける「終焉ノ栞プロジェクト」から今後も目が離せなさそうだ。

『終焉ノ栞』(メディアファクトリー)

著者:スズム、主犯:150P、イラスト:さいね・こみね

“――ひとりの裏切り者によってゲームは始まった。抜け出したければ下記の条件に注意をし、終焉を迎えろ。さぁて、楽しい終焉ゲームの始まり始まり――”ひとりかくれんぼ、ドッペルゲンガー、メリーさんからの手紙、猿の手……10年前に起きたと言われている禁忌「終焉ノ栞」を巡り4人の少年少女がとあるゲームに巻き込まれていく。ニコ動屈指の人気を誇るクリエーターたちが書き下ろした小説がついにリリース!

『終焉-Re:write-』(Victor Entertainment)

150P(ワンハーフピー)

【初回限定盤】3,000円(税込)
内容物:通常盤CD / 特製スズムアレンジCD / リメイク&プレミアムDVD (5曲)
【通常盤】2,300円(税込) *画像は通常版のジャケットです