【漫画家こしのりょう×佐渡島庸平 特別対談】 新連載のWeb漫画は 内気な研究者の恋物語!?

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更新日:2013/8/13

 協和発酵キリンと漫画家のこしのりょう氏がコラボレーションして連載中のWeb漫画『新抗体物語』。「抗体」という難しいテーマを扱いながらも、登場人物たちのキャラクターが生き生きと描かれており、漫画作品としても十分に楽しめる物語だ。今回は作者であるこしのりょう氏と本作品の編集を担当する株式会社コルクの佐渡島庸平氏に、制作過程でのエピソードや作品作りへのこだわりなどを聞いた。
 2012年末に依頼を受けた当時の話から振り返ってもらった。

 

佐渡島庸平氏(左)と こしのりょう氏(右)
佐渡島庸平氏(左)と こしのりょう氏(右)

 

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こしの(以下K):声をかけてもらってうれしかったですね。『モーニング』時代からいつか一緒に仕事ができたらと思っていました。

佐渡島(以下S):こしのさんとは直接お仕事をしたことはなかったけれど、僕の担当していた新人漫画家を嫌な顔をせずにアシスタントで受け入れてくださったりしていたので、恩返ししたかったんです。それに『Ns’あおい』で医療系にも詳しいだろうという安心感もありました。で、お話をさしあげたらお忙しいのに、すぐに打ち合わせの時間をくださって。

K:実は企業とのコラボは普通にやると説明漫画になるものなので、僕も最初は「イラストっぽくやらなくちゃいけないのかな?」と打ち合わせに行ったんですよ。でもいきなり「漫画描いてください!」って言われて、これはちょっと面白いなと。

S:おそらく今までの取り組みで、協和発酵キリンさんは抗体を「しっかり説明する」という作業は終えられていて、次は「どうやったら見てもらえるか」の段階で。ぱっと興味を持ったらいつのまにか抗体について説明されていたっていう仕組みを作るのが大事で、それには「漫画」の力が必要だったんです。

K:最初は「それで説明になるのかな?」と思ったりもしたんですが、情報をどう面白く伝えるかが大事、と言われてなるほどと。で、まずはキャラクターに感情移入できるようにプロローグを描いていきました。なんといってもそれが読みたくなるためのポイントですからね。しかも20Pなんで、ほんと純粋に漫画を描く感覚でしたよ。

新抗体物語

物語は、口下手な研究者・牛島元とミニコミ誌編集者・木島彩花が偶然出会うところからスタートする。

S:プロローグができるまでの流れも普通の漫画と同じでしたね。時間的にも企画がスタートした2012年末から約半年かかりましたし。

K:スタートはほんと単純なことからでしたよね。どうやって説明するのかを考えたら、男が女性を口説くときって自分の得意なことを話すよねってことになって。で、そこから学者の男が、女の子とつきあうときにどう攻めるのか、みたいなのを描きたいということになって…。

S:攻めるといっても、武器は「抗体」しかない(笑)。

K:そうそう(笑)。だって自分だったら初対面の女性に漫画の話をしちゃうかもしれないですからね。そういう親近感が面白いかなって。

S:それでキャラクターを決めたらこしのさんがネームを作って、僕はネームでセリフの違和感とかを調整してという、いつもと同じ作り方でしたね。

K:漫画を描くときはいつもそうなんですけど、頭の中で考えているのと実際に描くのでは、キャラクターが微妙に違ったりするんですよね。描くとキャラクターが勝手に動き出すみたいな感覚になってくるんですが、下書きだとまだそのへんが掴み切れてない…。

S:たとえば誰かの発言を聞き直すとき、「え?」っていう人と「すいません、もう一度」って言う人がいますよね。でもネームだと、みんな「え?」になっていたりする。だからキャラに合わせて違和感を調整して、土台を作っていくわけです。今回みたいな漫画の場合も同じで、土台がしっかりしていれば、あとで情報がいれやすくなりますからね。

K:実際、キャラが動き出している実感もあるし。というか、それがないと描いていても面白くないから続かないんですよね(笑)。今回のテーマである「抗体」の情報を盛り込みながらもちゃんと「漫画」として成立しつつあります。これは、佐渡島さんがうまく情報を整理してくれているからだと思いますね。

S:イラストに吹き出しがついてるものが漫画だとすれば、学習漫画や説明漫画でもいいんですけど、第一線のプロがやるから、登場人物たちを感情を持った人間として描くことができる。一コマ一コマ、すごく細かいところにも感情表現が入っている。記号じゃないっていうところがすごく大きくて、記号じゃないもので作られているもののほうが、人は心地いいはずですから。

K:なんですかね、言葉で言わないのが漫画というのもあるんですよね。言えないじゃないですか。好きなのか嫌いなのか解らない感情とか、言いたいのに言えない感情とか。よくわからないけど、そういうのを描くのが楽しいのかなって。僕自身、口ベタなので上手く説明できなかったりして、だから漫画を描き始めたみたいなところがありますし。今回の漫画の主人公も、あんまり話すのは得意じゃないけれど、好きな子を口説くために「抗体」を熱く語っちゃうという。とにかく感情移入してもらえるように描いていったら、プロローグには結局「抗体」の話なんて出てこなくって(笑)。