インドネシアで500万人以上が感動した国民的名作が、ついに日本上陸!『虹の少年たち』

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更新日:2013/11/6

10人集まらなかったら廃校というインドネシアの小さな島の学校で、貧しさにも負けず、個性的な魅力を輝かせて成長する10人の子どもたち。彼らの成長を描く『虹の少年たち』は、さしずめインドネシア版『二十四の瞳』ともいえる自伝的物語だ。いよいよこのたび、日本でも出版が決定。なんとその実現を後押ししたのは、日本全国の書店員さんのラブコールだったという。

全国の書店からのラブコールで出版決定!
『虹の少年たち』

『虹の少年たち(原題:L ASKAR PELA NGI)』は、インドネシア国内で500万部超という大ヒット作だ。2億人を超える人口のうち、小説を読むのはミドルクラス以上というインドネシアでは、通常なら2万部を超えたら大ベストセラーであり、この数字がいかに驚異的なものかわかるだろう。今年4月の時点では、すでに19カ国語で翻訳、出版され、映画やTVドラマにもなるなど大ブームを巻き起こした。

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 とはいえ、いくらインドネシアでベストセラーといっても、日本人にはピンとこないのが正直な実感だ。だが驚くべきことに、この本の面白さはすでに担保されているといってもいい。なぜならこの本の出版決定に際して「レインボープロジェクト」(詳細は次ページ)という前代未聞のチャレンジが行われ、事前に本を読んだ全国の書店員からのラブコールが集まった結果、出版に至ったという経緯があるからだ。つまりすでに内容にお墨付きをいただいた状態といえるわけなのだ。

 さて、物語は、マレー半島の先端に位置する天然資源に恵まれたブリトゥン島の10人集まらなければ廃校という小さなイスラム系のムハマディヤ学校を舞台に、時に天才的な才能をみせつける個性的な子どもたちの成長をいきいきと描くというもの。ワニの住む沼、深いジャングル、昼夜稼働する鉱山と労働者たち……物語に織り交ぜられる熱帯雨林特有の自然と島の日常風景は鮮やかな色彩に満ち、教育熱心な先生に導かれ、貧しさに屈せず学校に通い続ける子どもたちの素朴な情熱がキラキラと輝く。その素朴でまっすぐな質感は、さしずめインドネシア版『二十四の瞳』、あるいは伸び盛りの社会の希望に『三丁目の夕日』に似たノスタルジーを感じるかもしれない。

 実はこの物語は著者であるアンドレア・ヒラタ氏の自伝的小説であり、登場人物の多くが実在する。現実を反映しているからこそ、天真爛漫な子どもたちのすべてがうまくいくわけではなく、天才的な頭脳を持った少年が貧しさゆえに学校を辞めざるをえないなど、時に理不尽な不幸が襲いかかることもある。だがしかし、それが人生でもあり、そうしたリアリティがあるからこそ、国を超えて共感を呼ぶ要因にもなっているのだろう。

 そしてあらためて感じるのは、学校は子どもたちにとって「希望の光」だという普遍的な事実の重みだ。特に富める者と貧する者が固定化されてしまう階層社会においては、学ぶことだけが唯一の突破口となりえる。たとえ十分な施設がなくても、学びを継続できる学校というものは、確実に未来へと続く場所でもある。

 だが、豊かさに囲まれた私たち日本人は、そうした事実につい鈍感になってしまうこともある。だからこそ、この本の子どもたちの純粋でひりひりするような切実さは心に染みるのかもしれない。そこにある「希望の原風景」は、私たちの心に虹をかけてくれるように思うのだ。

ムハマディヤ学校の虹の少年たち

ムハマディヤ学校の虹の少年たち
①ムスリマ先生/愛情深い若き女性教師 ②ボレック/ボディビルに夢中の肉体派 ③ハルン/知的障害のある心やさしき子 ④アキョン/顔が個性的な貧農華人の息子 ⑤サハラ/気のつよい美少女 ⑥リンタン/くせ毛の数学・物理の天才児 ⑦イカル/観察眼鋭き本書の語り部 ⑧シャダン/明るい貧しい漁師の息子 ⑨ハルファン校長/人間味溢れる根っからの教師 ⑩マハール/音楽、美術など芸術系の天才児 ⑪クチャイ/楽天家の学級委員長 ⑫トラパーニ/ハンサムでおしゃれなマザコン ⑬フローリア/男勝りのお嬢様

 

虹の少年たち書影

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『虹の少年たち』

アンドレア・ヒラタ/著 加藤ひろあき、福武慎太郎/訳
サンマーク出版 1995円
生徒が10人揃わなければ廃校といわれたムハマディヤ学校に、やっとのことで集まった貧しい少年たち。「最大限受け取る人ではなく、最大限与える人になりなさい」と諭す校長先生のもと、個性的で魅力的な彼らは時に裕福な学校を学問コンテストで打ち負かし、芸術祭でも勝利を収める小さな天才たちだった……。