これであなたもサッカー通? テレビ解説では教えてくれない日本代表・オランダ戦の観方

ピックアップ

更新日:2013/12/17

 日本代表の新しいユニフォームも発表され、2014年のブラジルW杯に向けて、いよいよ気持ちが盛り上がる中、我らの日本代表は、優勝候補の筆頭オランダ代表との国際親善試合に臨んだ。その結果は、皆さんももうご存知の通り2-2のドロー。強豪オランダ相手に大善戦した日本代表のプレーは、見ている人たちに「勝てたかもしれない!」と思わせ、今後に期待を抱かせてくれた。

清水英斗

advertisement
清水英斗
1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。雑誌『ストライカーDX』の編集者、Goal.com Japanの編集長を経て、現在はフリーで活動中。著書は「サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100の視点」(東邦出版)「サッカー守備DF&GK練習メニュー100」(池田書店)など

システム、得点&失点、選手交代、監督の采配、連敗が続いていた日本が輝いた理由は何なのか? とにかく『語りがいのある試合』だった。試合直後の気持ちを思い出して欲しい──あなたは、誰かと語り合いたくなったのではないだろうか? そう、サッカーの試合を見た後、人は興奮も失望も誰かと分かち合いたくなる。スタジアムからの帰り道で、ネットの実況スレで、美味いビールの出る酒場で──サッカーを思う存分に語り合う。

そんな、酒場でのサッカー談義のように気軽に楽しく、それでいて戦術やプレーへの深い理解をもとに、わかりやすく僕らにサッカーを語ってくれる一冊がある。『だれでもわかる居酒屋サッカー論』(著・清水英斗/池田書店)だ。本書の魅力は後に紹介するとして、著者でサッカーライターの清水英斗さんに、オランダ戦を振り返っていただいた。

 

●“通”ならこう見る得点シーン

まずは試合全体の印象を清水さんに尋ねてみた。

清水さん「2009年親善試合、2010年W杯、2013年親善試合という最近のオランダとの3試合の中では、一番内容が良かったのは間違いないと思います。前半のミスの嵐はいただけませんが」

ミスの連続から失点し、ロッベンのスーパーゴールで2点目までもを奪われた展開において、追いつき、あわや勝ち越しという流れを引き寄せたザックジャパン。試合を左右した『語りがいポイント』はいくつもあるが、本稿では2つのゴールシーンに絞って着目点を挙げていただいた。
 
【1点目のポイント】ナイジェル・デ・ヨンクのミス

清水さん:大迫の1点目は、ナイジェル・デ・ヨンクのミスに始まっています。オランダ代表は、ここ何試合か『終了間際の失点』が続いていて、監督も選手も強く問題意識を持っています。キャプテンのロッベンが、前半40分頃に「ここを引き締めるぞ」と手を叩いて味方に集中を促していました。「リスキーな守備をするな。無失点で終わるぞ」という再確認です。にもかかわらず、デ・ヨンクはミスを犯し、日本にゴールを許してしまったんです。

オランダ戦/1点目

クリックすると拡大画像が見られます

──デ・ヨンクのミス? あの場面、テレビの解説では全く「ミス」という言葉は出てこなかったが、一体、何がミスだというのだろうか?

清水さん:吉田からのパスが長谷部に入った瞬間、デ・ヨンクはインターセプトしようとして、一発でかわされました。

ディフェンス時の優先順位は、(1)インターセプト(2)それが無理なら相手を前に向かせない──なんですが、あの場面、デ・ヨンクは無理をしてインターセプトに行ってしまった。

長谷部の背中に貼り付いて前を向かせなければ、あの失点はなかったと思います。

──話を聞きながら試合を見返すと、なるほど! 確かに、デ・ヨンクのプレーはインターセプトを強引に狙おうとした『判断ミス』だ。

 
【2点目のポイント】レンスの守備と内田の攻撃参加

清水さん:2点目のポイントは、オランダの左ウイングのレンスです。サイドアタッカーとしてのレンスはオランダの強力な武器で、前半には内田が裏を取られる場面が何度もあったんですが、後半になって、香川や遠藤の投入、前半に1点返したことのメンタル的な要因、プレッシングが機能しはじめたことなど、様々な要因で日本がゲームを支配しはじめてから、レンスのところがオランダの弱点になってくるんですね。

オランダ戦/2点目

クリックすると拡大画像が見られます

──ストロングポイントがウィークポイントになる? それはどういうことなんだろうか。

清水さん:日本のペースになってから、内田がオーバーラップして攻撃参加する機会が増えたんですが、レンスが内田をマークしきれずにドフリーにさせてしまう場面がどんどん出てきたんです。

オランダの左サイドバックは岡崎をマンマークするので、内田が上がってきても対応しないんですよ。ゆえにレンスが内田を離してしまうと、自由にやられてしまう。内田が2点目の起点になったのは当然の流れなんです。

──またまた試合を見返してみると、本当だ。内田がフリーでボールをもらって、ガンガン中へと切り込んでチャンスメイクしている。裏には、そんな理由があったとは。

清水さん:失点の後、70分には、オランダのルイ・ファン・ハール監督はちゃんと手を打ちました。センターフォワードのシーム・デ・ヨンクをデパイに代えて、デパイを左ウイング、レンスをセンターフォワードに移動させたんですが、これによって内田のサイドのオランダの守備は安定しましたね。

 

●『だれでもわかる居酒屋サッカー論』の魅力

ううん、実に面白い! とかく攻撃シーンにばかり意識が行ってしまうが、ボールの無い場所でこんな駆け引きが行われていたとは……まだまだ聞きたいことは尽きないが、この先はデジタルコンテンツ配信プラットフォーム『cakes』に近日アップされるであろう清水さんの連載本編を待つとして。

もうお分かりかと思うが、清水さんのサッカーの観方、分析は専門家として高度でありながら、実に分かりやすくて面白い! いつまでも試合のことを聞いていたくなってしまう。そんな清水さんがcakesで連載している記事をまとめた『だれでもわかる居酒屋サッカー論』がおもしろくないはずがない。

本稿筆者は、国内外にサッカー観戦にも出かける程度にはサッカー好きだし、サッカー関連書籍に関してはかなり読んだほうだと自負するが、戦術や試合の解説をしている本で、ここまで『入ってくる』ものはほとんど記憶がない。

本書は以下の5章で構成されている。
第1章 日本代表からサッカーを読み解く(前編)
第2章 欧州サッカーから時代の変化を読み解く
第3章 日本代表からサッカーを読み解く(後編)
第4章 日本と世界との距離を読み解く
第5章 強豪国のサッカーを読み解く

本文では、日本代表の試合にとどまらず、バルセロナvsバイエルン、スペイン代表などの世界の名勝負をチョイスし、試合のポイントを具体的に、わかりやすく清水さんが語ってくれる。

「なぜ2013年に入ってから日本は急激にコーナーキックからの失点が増えているのか?」

「W杯予選、黒星を喫したアウェイのヨルダン戦での失点は、本当に吉田の責任だけなのか?」

「守備には『ゴールを守る守備』と『ボールを奪う守備』がある」

……など、試合を見て誰かに聞いてみたかったことや、聞きたいけどいまさら聞けないサッカーの基本が、詰まっている。オランダ戦で清水さんが挙げた『ポイント』も、本書を読めばもっと深く、もっとナットクできるのだ。

サッカーを文字で読むのは難しそうに思えるが、本書では清水さんは『僕』という一人称で語られていて肩の力を抜いて気楽に読めるし、ウェブの読者からの質問にも答えてくれるので、「知りたかったのはそこなんだよ」がピンポイントで読める。まさに、居酒屋で仲間とトークしている感覚が、本文から伝わってくる。

また各章のラストには、イビチャ・オシム元日本代表監督の通訳・千田善さん、女子大生コンビ、野球ライター・菊田康彦さん、日本代表サポーター・ちょんまげ隊長ツンさんらとの対談も収録されている。実際に居酒屋で語り合った様子を採録したもので、サッカー関係者だけではなく、野球好きな女子大生や野球ライターとの会話によって、意外な指摘や視点が見つかって興味深い内容になっている。

  • お酒を飲みながらの対談はぶっちゃけトークありで興味深い

本書の内容や解釈について、異論も反論もあることは想像に難くないが、読者が本書に不快感を抱くことは決してないと思う。なぜなら、本書を通じて感じるのは、サッカー選手、監督、スタッフ、対談相手、そしてサッカーそのものに対する、清水さんの『リスペクト』がどの記事にも根底に流れているからだ。それを示す一例が、ザッケローニ監督解任論に対するこの一文だと思う。『解任論を唱えないよう自分を封じるつもりはない』という前提で、清水さんは記す。

『僕が解任論に動くとすれば、その条件はただひとつ。リーダーとして日本代表の選手をまとめ切れなくなったと感じた時だけだ』(本文p.257より)

ザック監督に対する評価は人それぞれであり、清水さんにも意見はもちろんある。だが、日本代表監督という仕事に誰よりも本気で人生を捧げているザッケローニ監督を清水さんは尊重し、ザックが人間として仕事を放り投げ出さない限り、サポーターとして支持し、サッカーライターとしてその成否を伝えようという姿勢があるのだ。

まえがきを借りるなら、僕たちも居酒屋サッカー論を楽しもう。感情や好みだけではなく、本書にあるようにサッカーへのリスペクトと試合を観るための一歩先の視点をもって、熱いサッカー談義に花を咲かせよう。もしかしたら、たまたま入った居酒屋には清水さんがいて、たまたま議論になって意見がぶつかったりすることがあるかもしれない。

でも、清水さんならそんな反対意見にも耳を傾け、楽しい居酒屋議論をしてくれそうな気がする。最後に、清水さんからのメッセージを紹介して、本稿を終わりたい。

清水さん:イギリスではサッカー観戦後、目の肥えたサポーターたちが、ビールを片手にそれぞれのサッカー観をぶつけ語り合います。日本でももっともっとサッカー文化が広まっていくような目の肥えた『居酒屋サッカー論』が増えてほしいと思います。きっと、試合後の『語りたいポイント』が増える、そんな一冊です。テレビの解説で満足できないあなたにぜひ!

(取材・文=水陶マコト)

「だれでもわかる居酒屋サッカー論」(著・清水英斗/池田書店)

「だれでもわかる居酒屋サッカー論」

著・清水英斗/池田書店

ザックジャパンを徹底検証! 今、一番面白い日本代表の観方

日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に、居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説した内容で、Webサイト「cakes」での人気連載「居酒屋サッカー論」に加筆・修正を加え、スペシャル対談を収録して書籍化しました。実際にあった試合を分析し、解説していますので、
・ザッケローニの采配は適切?
・「3-4-3」ってどうなの?
・日本と世界との差は?
といった、日本代表について気になるところもバッチリわかります。

 

  • ●cakesで連載中の『居酒屋サッカー論』もチェック!

    cakes