世界に誇る二人のトップクリエイターがこだわる“ゴージャスな演出”とは?

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更新日:2014/3/7

ゲームクリエイター・名越稔洋×映画監督・大友啓史

「幕末」というキーワードでつながる二人の異種トップクリエイター。

一人は、2月22日に新作ゲームソフト『龍が如く 維新!』(セガ)が発売となるゲームクリエイター・名越稔洋。もう一人は、映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(ワーナー・ブラザース)が、8月1日、9月13日と2作連続公開予定の映画監督・大友啓史。表現するメディアは違えど、それぞれ激動の時代を舞台にした作品を創る二人に、『魅せる演出とは?』という共通テーマについて語ってもらった。
 


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■二人のクリエイターの“原点”

大友:名越さんは大学時代に映画の勉強をしていたそうですね。

名越:東京造形大学の映画学科です。イメージフォーラム(映像作家の養成などを手掛ける団体)系の先生が多かったので、今やっているようなエンターテインメントとはかけ離れた世界でした。映画を勉強していた頃はバブル真っ盛りでしたが、残念ながら映画業界だけはバブルがなかったんだよなあ……。大友さんは、学生時代から映像関係に興味があったんですか?

名越稔洋
なごしとしひろ●1965年生まれ。山口県出身。日本を代表するゲームクリエイター。2012年現在、株式会社セガ取締役 CCO (Chief Creative Officer) 開発統括本部長。1994年に初プロデュースしたアーケード作品『デイトナUSA』がドライブゲーム史上に残る大ヒットとなり、一躍トップクリエイターの仲間入りを果たす。近年では、自身が深く関わった家庭用作品『龍が如く』シリーズが全世界600万本以上の出荷を達成、また『モンキーボール』シリーズが全世界出荷400万本を突破するなど、多岐にわたる手腕を見せている。

大友:実はそうでもなかったんですよ。ひょんなことからメディアに興味を持ち就職活動でテレビ局を回ったんです。特にドラマがやりたいとか報道に関心があるというわけではなくて、たまたま面接官とウマがあって偶然この世界に潜り込んだような感じ。当時興味のあったレオナルド・ダ・ヴィンチの話をしたり、「南方熊楠っていいですよね!」なんて話題で盛り上がりました(笑)。名越さんの映画に対する原体験って?

名越:やっぱり子供の頃に通った映画館ですかね。なにせ田舎だから新作映画でも2本立て3本立てだったりする。活気があるとか盛り上がってるという感じはないけれど、あの時代の映画館には隠れ家的な味がありました。

大友:そうそう。たしかに映画館というのはひとりで行ける場所、隠れることができる場所というイメージがあった。僕が生まれ育った盛岡には、映画館通りという通りがあって今でもショッピングモールのシネコンに押されることもなく頑張っています。雪が降ってて父親にソリを引いてもらいながらまんがまつりや怪獣映画を観に行ったことを覚えていますよ。あの街には思い入れがあるので、今でも映画祭なんかの応援をしているんです。

名越:当時は映画の他の娯楽といえばテレビかラジオぐらいだったでしょう。

大友:ヒーローものとかスポ根とか。

名越:そうそう。あの頃は、文字通り「みんなが見ている」時代だった。

大友:僕らが映画やテレビを観ていた時代というのは、いろんなものの草創期でしたね。青春学園ものとかロボットアニメのベースメントはあの頃に創られはじめたわけだから、すごい時代にいたんだなあと思います。

■“構想”はいかにして生まれるか

名越:僕は子供市場の事情は今も昔もそんなに変わらないと思うんです。

大友:でも伝わり方に関していえば確実に変わりました。昔は翌日学校に行って話題にしていたけれど、今はソーシャルネットワークなんかで観た直後に呟いちゃう。

大友啓史
おおともけいし●1966年岩手県生まれ。90年、NHKに入局。秋田放送局を経て、97年に米・ハリウッドに渡り、脚本や映像演出を学ぶ。帰国後、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ、「深く潜れ」「ハゲタカ」「白洲次郎」「龍馬伝」等の演出、映画『ハゲタカ』(09年東宝)の監督を務める。11年、NHKを退局し、翌12年夏、フリー1作目となる映画『るろうに剣心』(ワーナー・ブラザース)が30億円超えの大ヒット。13年公開の2作目映画『プラチナデータ』(東宝)も記録尽くしの大ヒットとなる。14年夏、続編となる映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』2作連続公開予定。

名越:何もかも速くなりましたね。僕はあの当時のクリエイターが何を意識して制作していたのか、そこが気になるんです。

大友:『ウルトラセブン』なんて、今思えばかなりエッジの効いたことをしていましたね。現代の感覚ではとてもメジャーとは思えないようなことでも平気で子供たちに伝えようとしていたような気がします。

名越:ケータイやネットなんてない時代だったけど、それでも子供たちにはちゃんと伝わっていましたよね。実際のところ、子供って大人が思うほど子供っぽくないじゃないですか。クリエイターのいろんな思いや、ちょっと異端的なことでも「これってこういうことなんだろうな」とちゃんと納得して受け止めている。逆に形ができあがってしまった今の方がやりにくいかもしれません。

大友:『龍が如く』シリーズの第一作が出たのはいつでしたっけ?

名越:2005年です。最初に「繁華街の裏社会に生きる男の物語」という構想を描いたのは10年以上前になります。

大友:それ以前にあの手の世界を扱ったゲームってなかったと思いますが……。

名越:ありませんでした。構想を練っていた2000年代の前半はまだゲーム業界も活況でした。でも若干翳りのようなものが見え始めていたのも事実。京都で生まれたエンタメがアメリカ西海岸に渡って1億ドルのビッグビジネスになったのはいいとして、仕事がでかくなると今度は失敗できないものだから売れセンのひな形に入っていないとなかなか企画が通らない。僕はこの作品に限って女性や子供は触らないことにして「日本の、大人の男」にしぼり込むことにしたんです。もちろんネタがネタだけに周囲を納得させるのは大変でしたが、僕は売れると思っていました。ターゲットの中心層は30代男性。次は20代……ではなくむしろ40代。その次に20代がきて、50代も視野に入れる。ゲームを卒業しつつある世代を狙ったら想像以上にファンがついたんです。以前、60代の男性からお便りをいただいたことがありました。内容は「このエンディングは納得がいかん」という言ってみればクレームなんですが、僕はすごく嬉しかった。還暦を過ぎた人までが最後までクリアしてくれた! そりゃ嬉しいですよ。

■“演出”とはなにか?

大友:受け手の生の声が伝わってくるのってやっぱりいいですよね。僕がテレビ局を辞めて独立しようと思ったのもそこなんです。テレビはどうしたって数字で評価されてしまう。大河ドラマなどはバジェットも大きいけどプレッシャーはさらにでかい。(視聴率が出る)月曜日は本当に胃が痛い。数字に一喜一憂するスタッフたちを盛り上げるために自ら血圧を上げて現場に入る。大河ドラマの場合、年輩の視聴者は黙っていても観てくれるだろうから若い人に観てもらうためにエッジの効いた色味にしたい。そこで、ほとんどすべてのメーカーのテレビの色合いをチェックして調整する……。で、そこまでやってるのに結果は顔の見えない数字に落とし込まれちゃう。これって結構つらいんですよ。映画監督なら劇場で観客が前のめりになる様子をこの目で見ることができますから。

名越:なるほど。

ゲームクリエイター・名越稔洋×映画監督・大友啓史

 
大友:あとですね、バブルの頃から物事を判断する基準の中に「明るい」「暗い」という尺度が出てきた。僕はそういうのにものすごく反発心があった! じゃあみんながいう「暗い」って何なのよ。「明るい」ものだけが見たいのかよ、って。話は逸れますけど、マンガというメディアはその点有利だなあとつくづく思いました。僕が監督した『るろうに剣心』の原作は女の子に大人気。でもあれって幕末の人斬りの話じゃん! しかも主人公の剣心は、人を散々斬ってきた過去をズルズルといつまでもひきずっている。本当はものすごく暗くて重い話だよって(笑)。それが、漫画の絵のタッチで「暗い」という印象にならない。剣心こそ、斬れない刀=逆刃刀の使い手で敵を斬らないわけだけど、他の剣士はちゃんと斬る。当然、血も噴き出す。映画の場合、そのままやっちゃうと……。

名越:暗くなる(笑)。

大友:だからこそ陰惨な話をゴージャスな方向に持っていくことにしたんです。アメコミや西部劇の手法と似てますね。暗さを持ち上げるというか、クールで乾いた感じにするわけです。暗いとは感じさせない。でも、本当はやっぱり暗くて重いということがちゃんとわかる。マンガにはケレンがあって、それをうまく消化できるけれど、生身の役者に演じてもらうにはゼロから作り出さないといけません。以前役者には真剣を持たせて、その重みを感じてもらいました。ちゃんと免許を持ってる殺陣師の方に立ち会ってもらってね。真剣って腕で振ってもなかなか切れないんですよ。よく切れる包丁と一緒で重力で切る感じ。そういうのは実際に持ってみないことには絶対にわからない。ただ、一度経験すれば帯刀していた侍の腰に力が入ることがわかるし、白昼堂々人殺しの武器を持って歩く覚悟も理解できます。すると役者の顔つきも自然と変わってくるんですよね。演出にはそういう工夫が必要だと思っています。

■観る者に与える“インパクト”

名越:大友さんのいうゴージャスな演出ってよくわかります。極道というマイナーな世界を現実そのままに描いてもダメ。どうしたって演出が必要になる。たとえば極道組織の儀式の参加者が1000人! 実際にはこんなことありえない(笑)。でもリアルに参加者が10人ということにしたら本当につまらないでしょう。冷静に考えたらバカバカしい演出なんだけど、見た瞬間に「すごい」と思わせたらこっちの勝ちですから。

  • 龍が如く 維新!

    最新作『龍が如く 維新!』でもゴージャスな演出が随所に見られる!?

 
大友:映画のセットとキャストだけでそういうものを再現するのは大変です。やっぱり映画にCGが使われるようになったのも必然なんですよね。黒澤映画のように雲がイイ形になるまで待つなんてことはもうできませんよ。

名越:たしかにないものを作れるというのは僕たちゲーム業界の強みです。それ以前に、実写にできることを再現したって意味がないですから。映画でも『少林サッカー』や曽利文彦監督の『ピンポン』なんかは正しくCGを活用した例ではないですか?

大友:そうですね。YouTubeに「ブルース・リーのヌンチャク卓球」という映像があるのをご存じですか? ヌンチャクでピンポン球を打ち返すという単なるお遊びなんですが、これこそがCGの快感だと思う。一時期、才能が映像の世界からゲームに流れたといわれましたが、それも今は納得できるんです。やっぱりお金のあるところでおもしろいことをしたい、ゴージャスを追求したいと思うのは当然ですから。

名越:いやいや、そんなにお金があるわけじゃないですって(笑)。ただコスト意識はあります。たとえばハリウッドのクリエイターが100点のものを作り出すとします。僕らが作るのは90点。「なあんだ」と思われるかもしれないけど、僕たちの90点は100点の作品の100分の1のコストで作れる。

大友:それはすごい!

名越:ですが、映画とは方法論がかなり違いますよね。ゲームの場合、ある人は途中で来客があって3分で中断するかもしれない。別の人は何時間も没頭するだろう。中断してすぐに再開するか、それとも仕事が忙しくて2週間空いちゃうかわからない。そういうのをクリエイターがコントロールできないから同じ台詞を繰り返したりするんですが、映画関係者にそれを見せると大概「こんなの不自然すぎる!」とツッこまれる。いや、それ僕たちにも充分わかってますから(笑)。

大友:ゲームやマンガの世界の人たちが力の限り大嘘をつけるのはすごいと思います。その点には映画監督として嫉妬せざるをえないなあ。

(取材・文=田中裕、撮影=山本哲也)
 

⇒インタビューの続きは『龍が如く 維新!』公式サイトで!

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『龍が如く 維新!』

龍が如く 維新!
 
龍が如く 維新!

日本という国が大きく変わろうとしていた時代、幕末。攘夷や倒幕という理想実現のため、大勢の志士たちが京に集まる中、世の中を変えるためでもなく、ただ復讐のためだけに生きる一人の男がいた。
「坂本龍馬」。
恩師の仇を捜すべく、素性を隠し京の街に潜伏する彼が行きついた先は、壬生狼と恐れられる最強の人斬り集団「新選組」だった。龍馬は己の名を捨て「斎藤一」という偽りの名で、死と隣り合わせの潜入を決意する。時代を駆け抜けた英雄・坂本龍馬、もう一つの伝説が今始まる。

対応機種:
PlayStation®4、PlayStation®3
発売日:2014年2月22日
価格:8190円(税別)
ジャンル:アクションアドベンチャー

⇒『龍が如く 維新!』公式サイト


©SEGA

  

監督/大友啓史 出演/佐藤健、武井咲、伊勢谷友介ほか
『京都大火編』8月1日~、『伝説の最期編』9月13日~、
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国にて公開
配給:ワーナー・ブラザース映画

⇒『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』公式サイト


©和月伸宏/集英社 ©2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会